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第86話 燃え尽きる命

 見える。


 痛い、燃える。


【くっ!】


 攻撃が、届く。


 痛い痛い痛い。燃える燃える燃える。


【疾い!】


 体が動く。

 力が湧いてくる。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 魂が、燃えていく!!


【わかっているのか!?

 その力を使えば、二度と生まれ変わることもないぞ!!】


 痛い、燃える。


 関係ない。

 俺は、ローザを救うんだ!


【ぐあっ!!】


 俺の剣がヴェルガーの額を切り裂く、その隙きを利用して、ローザを遠ざける。


「いやあああぁぁぁぁぁカゲテル止めて! 私も、戦う!!」


 痛い、痛いけど、君を失うのはもっと痛い。


 ありがとう。

 その気持だけで、俺は戦える。

 どうか、どうか幸せに……


 燃える。燃える。もっと……燃やせ!


【ぐああっ……止めるんだ、我らは殺しても魔界に戻るだけ……

 だが、人間は魂を使えば、全てが消えてしまうぞ!!】


 そうでもしなければ、お前を倒せない……

 ここで、お前を倒さなければ、どちらにしろ人間は滅びる!


【ぬぅ、枷さえなければ、自害も辞さぬのに……

 人の想いのなんと強き事!!】


 俺の全て、魂のすべてを使っても、お前をここで!!


【ぬぅ、燃え尽きてしまうぞ、しかも……】


 もっと疾く……もっと強く……燃やせ、燃やせぇ!!


【……すまぬな……お主の強き魂を燃やし尽くしても……

 我を滅ぼすことは敵わん!】


 深々と突き刺さった剣が、どろりと溶けた。

 傷がふさがり、ヴェルガーが立ち上がる。

 ならばもう一撃……


【少年、いや、勇者よ……

 そなたの命を賭した一撃、しかと記憶する。

 見事であった】


 何を言って……

 俺は……これから……まだ……


【最後まで見事な炎、見せてもらった。

 勇者よ、あの女は殺さぬ。

 像にして残そう。

 それが儂からの手向けだ……

 人の滅びた世界、その像がそなたという勇者がいた証となろう】


 ローザ……お、俺は……


【眠るがいい……】


 ゆっくりと、槌が振り下ろされる。


 ああ、


 全てをかけて、


 なお、


 勝てぬ存在が……あるなぁ……


「それはちょっと困るんです」


【ぬっ!? ぐあああああ!!】


「おいユキムラ!! コレ使えばいいんだよな!?」


「急いでくださいガウ、燃え尽きます!!」


「よっしゃ!! 死ぬなよカゲテル!!」


 温かい……燃えつきた、はずの、想いが……


【何者だ!?】


「彼は消すわけにいかないからね」


「おらカゲテル!! もっとしっかり自分を思い出せ!!」


 カゲテル、景光、三田景光、カゲテル=サンダ、カゲテル=ミタ……

 全部、俺だ。


「コウメイ君、手伝ってあげて」


 ぽん。と胸の上に何かが乗る。


『マスター!! どうか、どうかお目覚めください!!』


 スライム……俺の、スライム。


 俺は、


 俺は、


【誇り高き戦いを邪魔した報いを受けるがいい!】


「申し訳ないですが、世界の終焉はまだ先、それを防ぐためにもここで討たせてもらいます」


【な、なんだこの力!! 貴様、人間か!?】


「カゲテル!!」


『マスター!!』


 この場にはいないはずのローザの声が聞こえる……


 ばかっ!!!

 貴方がいなくて!!

 私が、マシューが、ネイサンがっ、幸せなわけ無いでしょ!!

 お願い!!

 私を愛してるって言うなら!!

 帰ってきてよ!!


「カゲテル君、戻るんだ! 世界は君を必要としている!!」


「カゲテル!! お前に話したいことが山ほどあるんだ!!

 戻ってこい!!」


『マスター!! 我らがマスター!!

 どうか、お戻りください!!』


 カゲテル!!

 カゲテル!!

 愛してるわカゲテル!!

 戻ってきて!!!


「カゲテル君、自分を定義するんだ。

 君は誰だ!?」


【くっ、馬鹿な、この私が、こうも、一方的に……

 ぐ、この力……■■■■■■■】


「駄目だよ、こっちでそんな言葉を話しちゃ」


【ぐあああああっっ……!!】


 俺は……


 カゲテル=ミタ……


 スライムマスター……


 景光が転生した……

 冒険者……

 ローザを愛している……

 家族を守らなければ……


 だめだ……意識が……遠くなる……


 カゲテル!!

 いいの!?

 エッチなこと他の人にしちゃうよ!!


「駄目だぁ!!!!!!!!」


 目の前が明るくなる。


「カゲテル!!」


「マスター!!」


【勇者よ目覚めたか……再び相まみえる日を楽しみに……してるぞ……】


 俺が命を燃やし尽くしても手も足も出来なかったヴェルマーが……

 胸に巨大な穴を開け、灰になって消えていく……

 

 一人の剣士が、倒した……


「ユキムラさん? それに、ガウさん! ぎゃっ!!」


 体中が頭がおかしくなるほど痛む。


「無理しないでカゲテル君、君の肉体は一度滅んでいたんだ。

 大丈夫、スライム君達がいればちゃんと治るよ。

 それと、コウメイ君、はいこれ」


「ありがとうございます」


 どくんっ!


 体に力が駆け巡った。

 肉体は、旨く動かせないけど、すごい力がうずまき始めた。


「さてガウ君、聖都に戻ろうか」


 眠い……


「はぁーーーー間に合ってよかったぜ……」


 とっても、眠い……


「ふふふ、よっぽど大事な存在なんだねカゲテル君は」


「男の恩義は返すんだよ!」


「まぁ、私にとっても、彼は大事だから……」


 眠い……


「今は眠ってゆっくり休みな。

 スライムくんと聖都に戻ったらゆっくり話そう」


「はい……おやす……みなさい……」



 ああ、ちゃんと、お礼を言ってなかったな……


 俺は、眠りに落ちた。

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[一言] 確かにそれはダメだな。うん。
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