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第85話 刹那

【おらおら!! どうしたどうした!

 こんなもんかぁ!?】


 圧倒的な力だ、武装してからは俺以外の攻撃が通用しない。

 だんだんと積極的な動きが無くなって、結果俺が追い込まれてきた。


 ナイツ達も必死に自分たちで陽動を試みるが、ことごとくあっさりといなされている。

 スライム達の援助が効かない状況なんて初めてだ……

 ……そうか……


【なんだなんだ、人形共はつまらんな!

 結局はお前とあっちの女だけか!!】


 人形……そう、俺はしらずしらずのうちにスライムを人形に押し込めてしまった……

 こいつらは、スライムなんだ!!


「コウメイ、キング、クイーン!!

 人間の真似事なんてしなくていい!

 本来の戦い方を、皆纏まって、お前らの本当の強さを見せてやれ!!」 


 騎士の形をしていた皆が、ドルゥンと液体状になり一つに固まる。


【なんだ、スライム如きが人を真似ていたのか】


 明らかに弛緩した一瞬、ヴェルガーを槍が襲う。

 

【なんっ!?】


 ギリギリで回避したが、頬からは青い血が流れている。

 ブヨブヨとしたスライムから、突然槍が伸びた。

 今までで一番早く、そして力強い一撃だ。


【貴様ぁ!!】


 直ぐに槍を突き返すが、ニュルリと体を歪めその一撃を避け、逆に剣や槍が飛び出してくる。

 剣で必死に捌くが、そこに俺も参加する。


【くっ、読めん!!】


 スライムの不定形の体から突然現れる様々な武器に対応するのは、人形の人形が放つ一撃よりもとらえどころがない。

 そして、全てのスライムを一つにし、スライムキング、クイーンとして最大の力を発揮している攻撃は、ヴェルガーの命に届く。

 時に槍が、時に剣が、時に魔法が、万の策を持ってヴェルガーに襲いかかる!


「気が付かせてくれてありがとう!

 俺の未熟さが、仲間を縛っていた!」


【おのれ、小癪なぁ!! 負けんぞ、まだ、負けんぞ!!】


 そう、この状態になって、ようやく互角。

 しかし、スライム本来の戦い方は、まだ見せていない。


【ぐっ、離せぇ!!】

 

 四肢に絡みつき、喰う!

 必死に振りほどけば隙きが出来る。

 そこに俺とローザそして槍や剣が伸びてくる。

 これだ!

 現状の俺達の最高の戦い方!!


【……ふふふ……】


「どうした?」


【フハハハハ!! ハーーーッハハハハハハ!!!

 いや、実に愉快!

 魔界でもそうそうは会えぬ強者が、小僧と小娘とスライムだと!?

 笑うしかないだろ……!

 まぁ、もう決心がついた……

 貴様らはよくやった。

 正直、楽しかった。

 だから、悲しいな】


「まさか……」


【知っているのか?

 そうか、ならば、わかるな……

 楽しかったぞ、小僧……

 これが、俺の、本気だ……】


 ヴェルガーの瞳が真っ赤に輝き出す!

 真っ黒な痣が紋様のように体中に広がっていく!

 鎧が一回り大きく変化する……

 手に持つ槍と剣が一つに固まり、巨大な槌へと姿を変えた。 

 ビリビリと大気を震わせるほどのプレッシャーが周囲を軋ませる。

 歯を食いしばらないと、跪きそうになる……!


「こ、これほどとは……トリーゲンとは比べ物にならない……」


【ん? トリーゲン候をご存知とは、そうか、耳にしたなトリーゲン侯の御魂が魔界へと戻ったと……そうか、お主らがその相手であったか、ならばこの姿を晒しても恥にはなるまい】


 口調と声色がまるで違う。

 燃え上がるような覇気と勢いが抑えられ、威厳と知性、貴族のような雰囲気だ。


【済まぬな、せめて苦しまぬようにしてやれるといいのだが……】


 ヒュッ


「カゲテルッ!!」


 いない……

 目の前にいるはずのヴェルガーの姿が完全に消失している。

 見逃したとかそういう事ではない。

 存在が、消えた。

 

 どんっ


 何かが俺を押しのけた。

 振り返ると、ヴェルガーの槌がスライムを叩き潰していた。


「グワアアアアアアアアッッッ!!」


 全身を雷が叩きつけたように痛んだ。

 ああ、スライムが、犠牲になったんだ……

 次の瞬間、ごっそりと魔力を持っていかれた。

 宙を舞っていたスライムが合体し、急速に体積を回復した。

 失われた力が戻る感覚がする。

 魔力も、回復していく。


【ふむ、再生か……そうであったな、スライムであれば、当然か】


 まずい、まずい、まずい……

 どうにかしなければ!!


【だが、もう理解した】


 明確な死のイメージが俺の脳に叩きつけられる。

 ローザも同様だ、なにかしようにも、へたりこんでしまい、動けなくなっている。


「俺が、俺がなんとかしなければ!!」


【ふむ、立派だな。

 幼きものよ……

 生まれ変わればよき戦士となろう……

 さらばだ】








 死んだ。






 目の前に槌が迫っている。

 時間が引き伸ばされているようだ。

 スライム達もすでに一撃喰らって俺を助けることはかなわない。

 ローザが泣いている。

 泣かないで……

 このままだと、ローザも殺されてしまう。


 駄目だ。


 ローザ。

 

 マシュー。


 ネイサン。


 このまま、人間が滅んでしまう。


 もうひとりのカゲテル。


 駄目だよ。


 こんな終わり方。

 

 そうだね。


 駄目だね。


 自分の愛した人は、守らないとね。


 スライムマスターだもんね。


 まだ、出来るよね。


 コウメイ、スライム、おいで……


 俺の好きな人を守って……






【ぬ?】


 俺は、迫りくる槌を、避けた。


 光り輝くスライムとなって……


【馬鹿な、人間であることを捨てたか……

 しかも、この輝き、死ぬ気か!?】


「殺させないよ。俺の愛した人を」


 皆がここにいる。

 さぁ、最後の戦いを始めよう……

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