第84話 戦闘マニア
じゅう……じゅう……じゅうーーーーーー……
そんな音を立てながら、光を当てた場所を中心に黒く変色していく謎の繭。
「高温で焦げてるのかな?」
「かな? 魔力の流れとかはどうコウメイ?」
「特に大きな変化は……ん? なにか、来ます!」
ヤバい。
直感が訴える。
考えるよりも先に体が動く、足元の地面をごそっと前方に壁にする。
結果として俺たちは落下するが、そのほうが良い。
俺らの頭上を光が撃ち抜いていった。
土壁が一瞬で破壊され、熱風と土煙が上がる。
そして、レンズが次々に破壊されていくのを感じる。
離れた場所から監視しているスライムの視点から、繭が一瞬で消えた。
正確には、一気に凝縮した。
そして、図太い光線が俺たちに向かって発射され、続いて細かな熱線がレンズを破壊していった。
【……受肉を邪魔しやがって……人間如きが!!】
この感覚、悪魔だ。
以前戦ったトリーゲン候……よりも、上だな。背中がゾクゾクする。
「ローザ大丈夫?」
「大丈夫」
【さっさと出てこい、このまま消し炭にしても腹の虫が収まらねぇ】
「悪魔を呼び出すとは……屑どもはろくなことをしないな」
【本来は100を超える手下が蹂躙するはずだったんだが、貴様らがよもや繭を壊すとは……
まあよい、お前らの力を贄に我が軍勢を呼ぶとしよう】
「……この地には強力な悪魔を呼べるほど生贄もなかったと思うけど?」
【ふはは、凄まじい怨嗟の念が渦巻いて、さらには利己的で他責のどす黒い感情が核となり、我らを呼ぶ扉を開いた。酷いものだ、純真無垢な子の恨みのそれはもう強く暗い感情がへばりつくように絡み合い、大きくなるのに時間は要しなかったぞ……
嘆いておったわ!
なぜ私は救われなかった。
ひもじかった。
痛かった。
苦しかった。
なぜ同じように救ってくれなかったの……
思い当たる節があるんだろ?
いい顔をするじゃないか!!】
いやらしい笑顔を浮かべる悪魔。
獣のような肌を晒していたが、いつの間にか燕尾服のような服を身に着けている。
【もっと早く来れば私も救われたのに……
神様はどうして祈っても助けてくれないの?
司教様はどうしてこんなにひどいことするの?
嫌だよ。
助けて。
死にたい】
「もう止めろ!!」
気がつけば斧を投げていた。
巨大な戦斧が風を切りながら回転し、悪魔に迫る。
【ほう、悪くない。
呼べなかった武器の代わりに使ってやる】
片手で斧を掴むと、斧の巨体がぎゅるんと収縮し、手持ちの2斧へと変えた。
「来い! ナイツオブスライム達!」
俺は剣を構え、駆けた。
スライムの騎士たちが悪魔を取り囲む。
【ほう、興味深い!!】
ローザ達が放つ矢も魔法も全て斧で打ち払ってくる!
「強いな!」
【人間が、なめた口を!!】
俺やナイト達が一斉に襲いかかる。
悪魔は強いんだからコレくらいのハンデは許してほしい。
キィンッ、ギャリッ!
ナイトや俺の攻撃、その間隙を突く矢や魔法。
苛烈を極める攻撃を放ち悪魔を後退させる。
【小癪な!】
手斧が変形して槍と剣に変わる。
この悪魔、かなり戦闘好きだな。
「悪魔もしょっちゅう戦ってるのか?」
【まあな、いつでも上を狙うのが悪魔に生まれた本懐だと思ってる。
そうじゃねぇやつもいるけどな!】
正直、見事だと感心する。
槍と剣を見事に操って俺たち全員の相手をしている姿には敬意さえ覚えてしまう。
先程までの怒りなんてどこかに行ってしまった。
「人間なんて相手にしてもつまらないんじゃないか?」
【そーでもねーよ、って嫌味か!?】
「こっちに来るメリットが有るのか?」
【人間の感情ってやつはな、俺らにとってより高い場所へ行く近道なんだよ!
弱えくせに、時としてとんでもない力を引き起こす……
そして、たまにこういうトンデモねぇ奴らもいるしな!!】
「お褒めに預かり、光栄だ!」
言葉とは裏腹に、少々焦っている。
これだけ攻め続けて、未だに傷一つつけられていない。
強い……
このまま行くと、攻め手にかける……
この状態での戦闘を長時間持続は出来ないし……
「前より、随分と強くなったと思うんだが、上には上がいる!!」
【ちぃっ! エゲツねぇなお前ら!
背中がゾクゾクしやがる!!
楽しいなぁ!!】
ごめん、楽しくない!
俺らのコンビネーションを初見で対応するのは本当に止めてほしい!!
【うっしゃぁ!! 体にも慣れてきたし……
そろそろ……イクぜ!?】
「!?」
いきなり目の前に剣先が迫る!
「疾い!!」
剣で払うと次は槍が迫る、助けに入るナイト達の攻撃を弾かれた剣の勢いで体を捻るように弾く。
とんでもない体勢からも確実に俺を狙い攻撃を加えてくる。
【わかってきたぜぇ! てめぇに比べればコイツラの攻撃は軽い!】
いやいや、軽くないから!!
困ったときのローザ頼み!!
【気をつけなきゃなんねぇのは、てめぇとそっちの嬢ちゃんの一撃だ!】
絶対死角から放った一撃を身を捻って躱す!
「くっ!」
俺は剣を投げつけ、手甲に換装する。
【お、そっちが十八番か? いいねいいねやろうぜやろうぜ!!
熱くなってきたぜ!!】
「名前、聞いてなかったな……」
【いいぜ教えてやる!
魔侯爵、怒槌のヴェルガー様とは俺様のことだ!】
燕尾服が裂け、その下からは見事な漆黒の鎧が現れた。
同時に、とんでもない力の波動が周囲を揺らした。
「こりゃ、まずいな……」




