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第83話 理科の実験

 人間、そう簡単には変われない。

 自らの欲望に忠実に蓋をすることもなくおぞましい行為を行うような人間なら、さらに変わらない。

 いや、彼らは変えないのだ。

 変わることは過去の自分の否定に当たる。

 現状の不遇は、全て自らの行いが招いたことであっても、決してそれを認めない。

 周りが悪い、環境が悪い、社会が悪いと他責をして自分を守る。

 おぞましい欲望のるつぼのような人間を、処することをせずに、1ヶ所に集めたことは、後から考えれば、下策であった……


 俺たちがダンジョン探索の準備のために買い出しを行っていると、ぞわりと背筋に悪寒が走った。


「マスター!」


「ああ、気がついた! 何が起きた?」


「南東の修道院付近に居たスライム達と連絡が取れなくなりました。

 周囲の目で見ると、巨大な繭のようなものに取り込まれています……

 連絡が取れなくなったスライムは逃げ出せたようです。

 ……突然闇に包まれ、事前の取り決め通り行動してくれたようです」


「よかった……例の犯人たちが閉じ込められている場所だよね……

 呼び出したのかな……闇っぽい思考に染まりそうだもんね……」


「カゲテル!! 平気!?」


「ああローザ、君も気がついたか」


「嫌な予感がして」


「とりあえずギルドへ行こう」


 街やギルドの周囲に特に変化はないが、ギルドの建屋屋根の上にカネッサさんが立って周囲を伺っている。無礼を承知で俺とローザも屋根にあがる。


「やあ、君が来たってことは僕の予感は当たってるのかな?」


「南東の修道院、今回の騒動、主犯達が閉じ込められている場所で異変が起きました。

 巨大な繭のようなものに包み込まれています」


「……君はいい目だけじゃなくて良い耳も持っているんだね……

 ってことは、教会にも一報を入れないと、か……」


「お願いできますか? たぶん、いえ、十中八九悪魔絡みなので、直ぐに現場に行きます」


「そうだな、死ぬなよ。君に死なれるとダンジョンからの臨時収入を期待している僕が悲しい」


「わかりました。教会対応お願いします」


 マシューとネイサンに事情を話し宿で待機してもらう。

 各地に散ったスライムを集めてすぐに繭へと向かう。

 普通の馬車なら2週間ってところだが、トウエン利用の最速移動で2日……

 食事や睡眠などの生活のための行動中もスライムによって移動し続けるからこそ出来る裏技みたいなものだ。


「静かすぎるな……」


「周囲の植物を始め動物からもエネルギーを奪うようで、周囲の生命体はほぼ居なくなりました」


「中に人たちは……?」


「探ることが出来ませんが、恐らくは……」


 クズたちが死んだことは、あまりなんとも思わないが、その世話をするために居た人たちが犠牲になったことは、不運でしかない……


「あれか……」


 灰色の横長の球体が、枯れ果てた大地に鎮座している。

 確かに繭のように見える。

 サイズ感がおかしい。


「魔法とかどう?」


「駄目ですね、こんな感じです」


 ファイアーボールが繭に向かって飛んでいくと、空中で霧散して魔力が繭に吸収されていく。


「魔法を分解しているっぽいね、こういうのはどうだ?

 ローザ、よろしく!」


「はいっ!」


 簡単に言えば爆薬付きの矢だ、ローザが引き絞った弓が音もなく矢を放つ。


 カイーンドオオオン……


 甲高い音が響き、続いて爆発音。

 どうやらあの繭、硬いぞ。

 予想通り繭にはヒビ一つ入っていない。

 

「よいしょっと……」


 巨大ランスの登場だ。

 説明不要、でかい、重い!


「そーーーーーーーりゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」


 掴んで、走って、投げる。

 

 ヒュッオオオオオオオ……ゴイーーーン!!


 風切り音のあとに繭に衝突した。

 

 ビキッ……


 穂先が潰れたが、小さな亀裂が繭に入った。


「カゲテルの馬鹿力でアレ投げて、どれだけ硬いのかしら……」


「サラッと酷いこと言うね」


「それでもマスター、ヒビが入りましたよ」


「もういっちょ行くか」


 槍を収納し、穂先を換装してもう一度構える。


「もういっちょーーー!!」


 ヒュッオオオオオオオオ……ベキィ!!

 

 今回は見事に突き刺さった!

 どぷっっと真っ黒な液体が溢れ出した。

 地面に落ちるとじゅうじゅうと嫌な音を出して枯れた草を溶かしている。


「吸わないほうが良いな、腐敗させているっぽい……」


 風の流れを操作してあの液体から臭う香りは繭の周囲に固定する。

 

「マスター、あの液体動いています」


「なるほど、スライムチックでは有るけど……ローザ」


「わかった!」


 ひゅっ! ローザの矢が液体に突き刺さり火を放つ。

 しかしすぐに矢は炎と一緒に液体に吸い込まれていってしまう。


「嫌な予感がする……魔法じゃなければいいなら……」


 空は晴れ渡っている。

 太陽も燦々と輝いている。

 その光と熱のエネルギーを一点に集めることで超高熱を集める。

 集めるためのレンズは魔法によって水で作るが、そこから集められる熱線は自然エネルギーだ。

 吸収はされないはず、そして、あの液体は黒、最も太陽光線によるエネルギーの影響を受けるはずだ。

 

「直接見るなよ」


 集められた光が地面を焦がし、黒い液体を焼き付ける。

 ブルブルと震え、必死に光点から逃れるように動く。


「嫌がっているな……」


 繭にへばりつき、ひび割れた部位から内部へと必死に戻っていく。

 そのひびに光点を持っていく。

 あの液体は出てこない。


「よし、レンズを増やすぞ!」


 どうやらこの方法は悪くない。

 追加のレンズを空に作り出し、複数のレンズの光を一点に集める。


 ぼっ! と繭の表面が発火する。

 たぶんあの位置はとんでもない高温になっているだろう。


 さらにレンズを増やし、俺の背後の空がレンズで埋め尽くされる。


 じゅう……じゅう……


 妙な音を立て、繭が変色し始めてきた。


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