第82話 カネッサ
「ん? なんで俺はボクっ娘とかに反応したんだ?」
どうやら久しぶりにもう一人のカゲテルが反応したようだ。
ずっと反応がなかったのに、そこに反応するか!?
「試すような真似をしてすまなかった。武器を収めてくれ僕に敵意はないよ」
女性であることはわかるんだけど、なんというか年齢が分かりづらい。
幼い子供のような感じもするし、落ち着いた老女のような感じもする。
「カゲテル君、ローザ君ふたりともいい動きだ。
その若さでSクラスになるのも頷ける。
ただ、ローザ君はもう少しかな?」
「彼女の背中は私が守ればいいですから、お互い背を合わせて戦うので良いんですよ」
「確かに。それにしても、まさかこの挨拶を見抜かれるとはなぁ……
どうしてわかったのかな?」
「私自身も含めて、優秀な目がありますから」
懐からコウメイが顔を出す。
「なるほど、テイマーだったね。スライムマスターか……」
「カネッサさんは……レンジャーかなにかですか?」
「へぇ、よくわかったね」
「気配の消し方が見事すぎます。
そこにいるのに、認識をずらされるような感覚がします」
「本当にすごい空間把握力を持っているんだね、そう、僕はそういうスキルというかギフトを持っているんだよ。だから、後で思い出そうとすると、旨く思い出せないかもよ。
自分でコントロールできないから、誰も覚えて無くてちょっとさみしいんだよね」
「なるほど」
「そうそう、まずはカゲテル君、この国の食糧不足の原因をあんなにもたくさん仕留めてくれて、本当にありがとう。僕らギルドにも毎日のように依頼が来ていたのがパタッと来なくなって不思議に思っていたんだよ」
「本当に広範囲に巣から全土へ通路ができていました。
肉食だったら大変なことになっていましたね」
「まったくだね」
「その穴はそういえばどうしたの?」
「ああ、ちゃんと塞いだよ。大雨とかになったら地盤沈下とか起こして危ないからね」
「そう言えば一時期川から水を引いて巣を一掃しようという計画もあったんだが」
「無理ですね。
きちんと水没の対策も行われていました」
「そうか……地中で戦えるテイマーじゃなければ対応は無理だったな、重ねてありがとう」
「いえいえ、スライム達の食料も大量に手に入ったので」
「そして、ハイレベルな魔物はすべて額を一発で撃ち抜かれていて、素材としても非常にありがたい」
「それはローザですね」
「素晴らしい」
「ありがとうございます」
「お二人のこれからの予定は?」
「できればグロンデのダンジョンに入りたいと思っています」
「なるほど……ひとつだけ約束してくないか?」
「なんでしょう」
「ダンジョンを閉じないでほしい」
「……たどり着けるとお考えですか?」
「わからない、だから言っておく。
教会はクリアできるとは少しも考えないだろうからね。
僕は、慎重派なのさ」
「もし、選択肢にたどり着ければ、覚えておきますよ」
「ふふ……若き期待の星に神の祝福があらんことを」
こうして俺たちはギルドマスターの部屋を後にする。
「うーん……ローザの印象は?」
「なんだか、掴みどころがない人だったね。
いくつの人なんだろ?」
「確かに、でも、たぶん結構歳上なんだろうね」
「もとSクラス冒険者っぽかったもんね」
「うん、ボクっ娘だったね……」
「そうだね……」
ギルドマスター、強力な印象が残っております。忘れません。
「さて、依頼も一応見ておくか……うーん、いくつかもうクリアできるな」
基本的に溜まっている依頼以外には手を出さないようにしている。
スライムがローラー作戦で採取などをやるともちろんクリアは容易だが、他の冒険者の迷惑になる。
皆が嫌がるけど、スライムが手伝ってくれれば簡単にクリアできる依頼を受けている。
「よし、ご飯食べようかまずは」
「そうだね、マシューとネイサン呼ぼうか」
「もう呼ばれたぜ!」「呼ばれたよー」
「よんどいた」
聖都には各地から物資が集まってくるので、食事の選択肢も多い。
海産物から野菜、肉と市場は非常に豊富な種類と量の食材で溢れている。
流石は首都、この国の中心だ。
そう、聖都の位置はこの国の真ん中に位置しており、地理的条件がいい。
さらに川が北の海まで続いているので、水を利用した物流がさらにこの都を豊かにしている。
「地方を見た後だと……中央に集まりすぎって思っちゃうね」
「だね……こんなに豊かなんだね、この状況見てたら、地方の現状を理解できなくても、ちょっと仕方がないのかも」
「国の混乱が有っても、ここはたぶん何も変わっていなかったんだろうね」
「地方と、上層部だけが変わっただけでも良かったね」
「そうだね」
なんとも複雑な気持ちになるけど、ローザの言葉が全てだ。
悪いところが良くなったのなら喜ぶべきだね。