第81話 聖騎士
扉がノックされる。
「はい」
すでに誰が来ているのかは把握している。
「こちらにカゲテル=ミタ様とローザ=ミタ様がご宿泊と聞きました。
もしよろしければ、お話をお伺いできませんでしょうか」
「わかりました。
ラウンジでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
扉の前の気配がすっと消える。
「うーん、見事な振る舞いだね」
「ジンゲンさんを思い出しました」
「だね、マシュー、ネイサン留守番よろしくね」
「いってらっしゃい」「いってらっしゃーい」
ちょっとゆっくりしたかったけど、なかなか難しい立場になったんだなぁと感じてしまう。
部屋から下に降りると、3名の騎士が立ち上がりきれいな所作で礼をしてくれた。
俺もローザも付け焼き刃の貴族風の礼を取る。
「突然の訪問失礼いたしました。
Sクラスの冒険者様が2名も聖都に滞在されると聞いてご挨拶に参りました。
聖騎士隊分隊長のファルケンと申します。
こちらが部下のジークとメルケイです」
「カゲテルで、こちらが妻のローザです」
「よろしくおねがいします」
ファルケンさんに促され席に座る。
部下の二人はファルケンさんの背後に控えたけど……白銀に光る鎧が目立つなぁ……
「若く、才気も溢れ、さらにはこのようなお美しい伴侶も得て、なんとも羨ましいです」
「恐縮です」
反応に困ること言わないでほしい。
誇ったらいやな奴だし、謙虚に対応しても嫌味になるだろ……
「失礼しました。少々軽口が過ぎましたな……
実はギルドの方からその、とんでもない数のアースモール討伐照会が入ったと聞きました」
「はい、そうですね、かなりの数になるかと」
「アースモールはこの国の不倶戴天の敵、本当に助かります!
それに各地で被害報告のあった強力な魔物まで、お二人のお名前は各地から聞いております。
その慈愛に満ちた行動にはただただ頭が下がります。
聖国を代表して……深く御礼申し上げます」
3名の聖騎士が深々と頭を下げる。
目立つ、目立つから!
「好きでやっただけなので、どうか頭をお上げください」
「素晴らしい……教会にもその欠片でも慈愛の心が有れば……」
「色々と、大変だったようで……」
「……単刀直入にお伺いします。
カゲテル様は、この国を手に入れるおつもりですか?」
口にしたお茶を吹き出しそうになった。
「いやいやいや!! 全くそんなことは思っていません!!
欠片も! 考えたこともありませんよ!!」
流石にあまりに突拍子もない事を言われて、驚いてしまった。
「そうですか……」
「やっぱり、地方で余計なことしたのが問題になってますか?」
「いえいえいえ、素晴らしい善行で聖騎士の多くもその活動に感動しております。
ただ……一部の者が、今回の騒動と、その活動が……その、侵略的な思考によって引き起こされた……と申すものが……お恥ずかしいお話なのですが……」
「あーーーー、なるほど……確かに、たしかにそう見えてしまうかも、しれませんね」
「……意外です。大変失礼なことを言っていると思うのですが……
やはり、杞憂でしたね。
本当にそんなつもりなら逆上したりなさるでしょうし……
カゲテル様、本当に神が遣わされた聖人なのですね……
改めて、感謝を……」
「偽善ですから、善行じゃないです!
好き勝手やってしまって、良かったかなーって不安だったので、ちょっと安心しました!」
それから完全に聖人モードで対応されてしまい、なんともモヤモヤしたけど、せっかくなのでダンジョンへの挑戦の話を振ってみた。
「是非挑戦なさってください!
お二人でしたら神の試練を乗り越えられるかもしれません!」
あっさりと許可を得られてしまった。
少し時間が必要かなと思ったんだけど、うん、偽善でも情けは人の為ならず。
きちんと自分に返ってきた。
聖騎士の皆さまがお帰りになると同時に、ギルドからの使いがやってきた。
とにかくギルドへ来てほしいってことだった。
そのままギルドへと向かう。
「お待ちしておりました。どうぞ二階へお上がりください」
このパターンか。
少し立派な別室へと通される。
まぁ、Sクラス冒険者だから、そういうものなんだろう。
流石は首都の冒険者ギルド、立派な作りになっていて、キョロキョロしてしまう。
「落ち着き無いなぁカゲテルは」
「いや、知らない場所だし」
「もう子供じゃないんだし」
「まだ成人したばっかだからな」
「そういう屁理屈も子供っぽいよ」
「ぬぐぐ」
ピリッ……とした感覚が背中を走る。
ローズも同様だ、気がつけば武器を出して扉に向かって構えていた。
俺は、扉と逆に剣を構えた。
「流石はSクラス冒険者だね」
そして、俺の目の前には、先程まで誰もいなかったはずだが、一人の女性が立っていた。
「はじめまして、僕はケイロン冒険者ギルドマスター、カネッサだよ」
ボクっ娘だ!!