第80話 聖都ケイロン
聖国の地方都市などの問題をざっと解決し、ようやく俺たちは首都である聖都ケイロンへ向かう。
聖国ケイロンは長方形に近いかたちをしている。
俺たちは南西から侵入し、北上し、海沿いを東に、そして南下して、最後に北上して聖都に入る。
この国を大きく一周したような感じだ。
「王国よりもかなり介入してしまったな……不幸な人を減らしたから、悪行ではないけど……」
「偽善なんでしょ? いいじゃない。みんな喜んでいたわよ」
「そーだよ、にーちゃんはやったあとでぐじぐじ悩むなぁ」
「悪かったな……性分なんだよ」
「そこがいいとこだけどね、もし偉そうにふんぞり返ったらひっぱたいてあげるね?」
「しません。はい」
聖都の周囲は多少戦いの跡は残るものの、穏やかな平地が広がっている。
聖都へ向かうのであれば、聖山グロンデを目指せばいい。バランスの悪い細く高い山が晴れた日であれば、はるか遠くからでも確認できる。
その麓に聖都は広がっている。
そして、そのグロンデにダンジョンが存在する。
「聖騎士としての資格は最難関ダンジョンの第1階層踏破らしいからね。
かなりの難易度なんだろうね、上位聖騎士たちはSクラス冒険者並みに強いって言われてるらしい」
「聖騎士が悪魔に勝てなかったら問題だもんね」
「確かに」
今回の騒動、まともな聖騎士はどちらにも積極的に加担しなかった。
世直しをした聖騎士隊の隊長は、もともとまともな人で人望があったからというのも有るが、大司教を守るために聖都の守りを固めていた。
聖都内にも膿は存在していたけど、余罪ももちろん大量にあったので、それを報告すれば無罪というわけにも行かなくなり、聖都の内部でも自浄作用が発動していた。
情報集めには一肌脱がせてもらった。
たぶん、一部の聖騎士はスライム達の暗躍に気がついていた気がする。
思うところがあったんだろうな……
「見えてきた見えてきた」
「綺麗……」
聖山の麓に街が広がり、その中心を川が通っている。
城壁、町並みは真っ白に統一されており、遠目からでも聖山の麓にある大聖堂の立派な姿が確認できる。
真っ白な町並みに鮮やかなステンドグラスの聖堂は非常に美しく映る。
大河に反射する姿も計算されているのではないだろうかと感じさせる。
「うーん、参考になるなぁ……」
この水路は町中にも利用され、人の移動、物の移動に使われている。
水の力をエネルギーに変えて利用したりと、川から得られる物は人の生活を豊かにする。
町の中央を渡す橋のすぐ脇には巨大な水車があり、水を高い位置に運び、各家庭に分配したり、回転エネルギーで粉を挽いたり様々なことに利用している。
下水は専用の浄化装置を通った後に川に戻される。
かなり革新的なシステムが働いている。
「過去の勇者の提案らしい、もしかしたら転生者なのかな?」
「違う世界から来たって噂もあるんだよね」
「勇者!」「勇者!」
やはり男の子はこういう話が大好きだね。
愛用の木剣で勇者ごっこをしている。
……なんか、打ち込みとか防御が妙に様になっていて、鋭いような……?
まぁ、スライム達が相手してくれているからな……
マシューとネイサンも、ふと見ると随分と成長した。
可愛い弟たちだが、これぐらいの男の子はぐんぐん成長する。
特に二人は栄養抜群な食事をとって規則正しい生活とコウメイたちから教育を受けている。
よく考えれば、非常に将来有望だ。
ローザに似てふたりとも見栄えもいいし、各町の女の子たちが別れるのを嫌がるのも理解できる。
将来どういった生き方を選ぶか、楽しみだ。
「え、Sクラス冒険者様ですか! ようこそ聖都ケイロンへ!」
周囲がざわつく、そりゃそうだ。
こんな若造がSクラスだとは思わないだろうからな……
「ローザ、まずはギルドへ行こう」
聖都の内部は特に戦いの気配もなく美しい町並みが続いている。
真っ白な建物が続く中、大きな木の扉が目に入る。
白く塗られていない木製の扉の建物、それが冒険者ギルドだ。
まるで聖教には完全に取り込まれていないという気概を感じさせるような趣向を感じる。
「Sクラス冒険者カゲテル=ミタ、魔物討伐照会をお願いする」
「同じくSクラス冒険者ローザ=ミタ、魔物討伐照会を」
聖国に来てから倒してきた魔物の記録を登録して、ちゃんとギルドに貢献していることを示す。
Sクラスになると義務ではないけど、心象を良くしたいからこまめにやっておく。
俺はとにかくこの国全土の不作の原因だったアースモールを大量に倒している。
ローザは町や村に危険を及ぼす可能性のあるハイクラスな大物を何頭も仕留めている。
「……す、すみません。確認が必要なのでお待ち下さい」
討伐証明となる部位が山のように積まれて、ギルド職員さん達が大騒動になる。
「正確な数は良いですよー」
「そ、そういうわけには……とにかくお待ち下さい」
「また後できます。何か有れば宿までお願いします」
「わ、わかりました!」
ギルドを後にして川沿いの素敵な宿に腰を落ち着けた。
しかし、すぐに来客を迎えることになるのであった。