第77話 革命
森の木々に新しい動画が映し出される。
質素に慎ましく、神を信じながら一生懸命生きている。
当たり前にある日常、多くの素晴らしい信者たちの日々の生活。
神様が見てるよ、と善行に励む少女。
困っている人を自ら手伝う青年。
神のために奉仕し修行を行う聖職者。
悪しき魔物から人々を守る聖騎士。
彼らが信じたかった、そして、存在している場面を映し出していく。
聖騎士達は、大粒の涙を流し、その画像にすがりついている。
『殺してはなりません。神の名を騙る膿を、吐き出させるのです……』
剣を振り上げた男の濁った瞳に、炎が宿ったように見える。
「総員!! 整列!!」
聖騎士達は、何かを見つけたように表情を変え、装備を整えて隊長の前に整列する。
「我らが成すべき道が、今はっきりと見えた!!
神の名を汚す輩を許すな!!
我らが、神の名を取り戻すのだ!!」
「はっ!!」
真っ白な霧が彼らを包み込むと、一瞬で街の側まで戻ってくる。
「まずはノースルからだ!! その汚物を死なせるなよ、生き証人だ!」
「はっ!!」
それからは大変だった。
神の使徒たる存在と信じた聖騎士達は、各都市であの糞司教に悪行を話させて、次々と不正を暴き、人々の喝采を浴びた。
危機感を持った腐敗した膿達はなんとか抵抗しようと聖騎士を動かして衝突したり。
国中に混乱が広がった。
問題が広がるにつれて、聖騎士達は圧倒的に国民から支持される。
腐敗した膿共は地方都市に集まったところを一網打尽にされ、結果として聖国ケイロンは国内に存在した大きな問題、そして大きな問題を生み出す温床を取り除く外科手術に成功した。
膿は、今までの自分たちの行ったことを一生出られない壁の中で悔い続け、誰にも見守られずに朽ちていく人生を手に入れることになった……
傷を伴う外科手術を行ったことで、もちろん、国の混乱も起きている。
もともと野盗などが多いなど問題があったのが、治安維持能力が低下して小さな村などが襲われたりという問題が顕著になりそうだったが……食い止めておいた。
聖国の問題点である地下の魔物も一掃した。
巨大な地下空間で大繁殖していたのには驚いたけど、まぁスライムの敵ではない。
大量の食料ゲットだ。
情報伝達や聖騎士達の支援などを含めて俺とスライムが、コウメイが暗躍した。
「大司教様はそんなに問題なかったけど、弟があれだから仕方ないね……
後任は例の隊長さんだから安心だね」
「宗教ってすごいのね、神の奇跡に出会ったなんて物語のおかげでさらに信者は増えたんでしょ?」
「宗教自体は悪いものじゃないからね……
あんな非道を行うのが悪魔じゃなくて人間なんだから……
一番怖いのは、人間だよね、本当に怖いよ」
この騒動の途中から監視も無くなった。お疲れさまでした。
各地のスラム街的な位置づけの場所も少しづつ改善していくかもしれないけど、国に混乱を起こしてしまっているから、多分かなり時間がかかる。
これからは大きめの街を巡ってスラム改革に勤しむ旅になりそうだ。
「ようやく施設探検ができるね!」
「すでに調査も終わっておりますので、どちらかと言えば見学ですね」
「海の底でしょ、楽しみ!」
「ほ、本当に大丈夫だよな?」
「なんだマシュー泳げるだろいざとなったら?」
「う、海の底だぞ? 泳げるとか関係ないだろ!」
「大丈夫ですマシュー様、馬車みたいなものです」
海沿いに小さな船が留まっている。
一見小舟だけど、実際はスライム船だ。
乗り込むとゆっくりと海に出ていく。
「それでは、潜りまーす」
とぷん。
いともあっさりと海底に沈んでいく。
「うわーーーー!!!」
泡に包まれた船の周りはそのままの海。
魚が泳ぎ海藻が揺れている。
その美しい光景に思わず全員が歓声を上げた。
「すっげー!!」「綺麗だねにーちゃん!」
「マシューったら」
「喜んでもらえてよかった。前よりも綺麗になったね」
「はい、屈折率を調整してより自然に見えるようになりました!」
海底を進み、周囲全てが海の景色が広がる。
この美しい風景をなにかに活かせないかな?
「海底に透明な壁で覆われた通路を作れば……素敵だよな……もしくは地下室の壁が透明な壁になっていて海底を見られるとか……」
「素晴らしい案ですね! 研究いたします!」
後のシーサイドエリア、リバーサイドエリアの人気建築の発想元になった。
遺跡の入り口はドーム状に覆われており、照明に照らされている。
海底下方向から侵入して、内部には空気が存在する。
換気に関しては地上部につながったパイプで調節している。
「海底に有ったのに、綺麗だね」
「始めは大変でしたが、清掃すると遺跡自体の損傷はほとんどありませんでした」
コウメイが操作すると、静かに扉が左右に開いていく。
少し肌寒い空気が内部から流れてくる。
「では、ご案内しますね」
スルスルーっとコウメイが施設に入っていく。
俺たちもその後に続き施設へと足を進めていくのであった。