第71話 島喰い退治
島喰い、後で聞いた話だけど、船乗りの間では動く島とか、伝説的な存在で、出会ってしまって運悪く狙われる、もしくは遊ばれると船の命運は尽きる。
その巨体が激しく動くだけでも木っ端微塵にされてしまう。
悪戯に船を潰す厄介な存在では有るもの、島ほどの巨体で海中ではそれなりの高速で移動するために退治も出来ずにいる。
海中から追い出せただけでも快挙だが、その巨体自体が兵器になる。
海に戻ろうと動くだけで周囲を揺らす。
魔法で軽減させながらそう簡単には海へは返さない。
「悪魔とは違った強さだな!」
「周囲への配慮で魔法部隊が本来の力を出せません」
「なぁに、キング、プリンス! 俺たちでやってやろうぜ!!」
二匹の任せろ! って気概をプルンと感じる。
確かに、普通に戦ったら大地震で災害が起きてしまう。
それを抑えてくれているだけでも有り難い!
「デカさには、デカさで勝負!」
俺が取り出したのは、巨大な斧だ。
攻城兵器として作った冗談みたいな大きさの斧。
これを力任せに投げつければ、質量兵器となる。
普通に扱う日が来ちゃうとはね……
「おおおおおおおぉぉぉぉ!!」
スライムから授けられたマスターとしての馬鹿力で、俺の体の5倍は有るだろう斧をぶん回す。
まるで塔のような巨大な足に思いっきり振りかざす!
ズグッ……!
刃が斬るというよりも重量と力で肉を潰すようにめり込む。
【グアアアオオオオオオオオオオ!!!】
「うるっさい!!」
島喰いが叫び声を上げたが、周囲の空気がビリビリと震えるほどの大音量だ。
めり込んだ斧を抜くとドバッと出血し、小さな泉が出来上がる。
土壌汚染も怖いのでスライムで吸収して回収しておく。
カメの料理で血を使うものもある。
きっと、栄養満点だろう!
俺の一撃に刺激を受けたナイト達は、細かく分かれるよりも一つに纏まった一撃による攻撃に切り替えた。
始めは鬱陶しそうにしているだけだったが、今は明らかに攻撃を嫌がっている。
特に大きなダメージを受けた足をかばっている。
庇うなら、狙うしか無い。
「力こそ……パワーーーーーーーー!!!」
叩きつけた斧が、指をとばす。
更に大量の出血がどくどくと溢れ出す。
太陽が登ってきて、その巨体を照らし出す。
でかい!!
日に照らされてそのデカさを際立たせる。
一方的に攻め続けているけど、これ、スライムじゃなかったらヤバいな。
その巨体で踏まれようが何しようがスライムには効かない。
相性的にはバッチリだ。
「ん? こいつ、逃げに徹する気か!?」
こちらを無視して海に向かって進み始める。
「コウメイ!!」
「お任せを!」
島喰いの足元がボコォっと沈んでいく。
窯の底のように深く深く凹んでいき、代わりに周囲が盛り上がっていく。
傾斜がきつくなるとその体重によって島喰いは深い部分にずり落ちていく。
お椀のような戦いの場が出来上がる。
「これなら他の人間が近づくのも防げるので一石二鳥です」
「よくやった!」
大暴れをしながら壁面を登ろうとしたり破壊しようとするが、深さはどんどん深くなり、周囲は分厚くなっていく。
土魔法の基本的な使い方だけど、数を揃えて運用すればコレぐらいの大規模な魔法に変わる。
壁面を利用した立体的な戦闘が可能になり、今度は巨大な体が足かせになっている。
ただ倒すだけならこのお椀の中にマグマでも流し込めば終わるだろうが、この巨大な魔獣の魔石や頑強な甲羅の素材としての価値など夢が膨らむ。
「それに、亀を食べるって話も聞くし……巨獣を倒すのはロマンあふれるな!」
斧が刃こぼれしたので一時収納し工房で修理してもらう。
その間に同様のコンセプトで作られた巨大な槍を取り出す。
最終的にはこれをカタパルトに乗せて射出するという馬鹿な計画もある。
というか、すでに完成している。
今回は、俺が全力でーーーーーーー……
「そりゃああああぁぁぁぁぁ!!」
投げる!!
狙いは首元!
ずんっ!
深々と槍が刺さる!
亀の甲羅は肋骨で支えられている。
肋骨の内側に肩や肩甲骨が入っている不思議な構造をしている。
手足、首を堅牢な甲羅の内部にしまうことで外敵から身を守るのだが、どうやら島喰いは長い年月敵知らずで生きていたせいで、その行動を取ることはなかった。
目に見える存在は基本的に取るに足らない小さな存在だと思っていた島喰いは、今、その小さな存在に狩られようとしている……
「もういっちょ!!
ぬおおおおおりゃあああぁぁぁぁ!!!」
巨大なハンマーをフルスイングで突き刺さった槍に打ちつける!!
ぐずり……
槍が深々と突き刺さる。
ハンマーは柄の部分がぐにゃりと曲がってしまった。工房行きだ。
突き刺さった槍を収納すると、噴水のように血液が吹き出してきた。
「致命傷だな」
全身大小の傷からの出血、さらに、中枢に近い場所からの出血。
血を回収しているので分かりづらいが、巨体の命に届く出血量だ。
島喰いの動きは目に見えて悪くなり、首元の大穴から内部に入り込んだスライム達によって、トドメを刺されることになるのであった……