第70話 巨大魔獣
宿の夜ご飯は、旨かった……
豪華絢爛とは違う、家庭の味とはこういうものか、と感じさせてくれる温かい料理。
野菜と海鮮をふんだんに入れて香草煮込んだ料理が特に美味しかった。
「刺激的で癖になる……」
「外国の香辛料たくさん使ってるからね!」
「なるほど……明日は市場にも顔を出しておくか」
それから女将さんにおすすめの店を教わったりした。
お風呂がなかったので部屋からトウエンに移動してゆったりとお風呂に浸かった。
やはり、風呂はいい……
「なんでこんなに気持ちがいい風呂が一般化されないんだろう」
「それはやっぱり設備が必要だからでしょ」
「公衆浴場はいい案だと思うんだけど……」
「水質の管理とか温度とか、やっぱり管理にお金がかかるわよ」
「難しいのかー……仕事にすれば良いんじゃない?
お金をとって」
「うーん、たしかに、一度知っちゃえばもう逃れられないし……
それにうちのシャンプーやトリートメントとか石鹸とかも……」
「スライムの虜にするか」
「宗教的ね」
「フォストの人たちはもう宗教って言ってもいいでしょ」
「たしかにねー……で、やるの?」
「いい生活を広めて皆楽しく生きれるようにはなってほしいけど、宗教とかはめんどくさい」
「素直でいいね」
「マスターなら私に」
「コウメイに任せると、上手く行き過ぎそうで怖い」
「確かに!」
「おふたりとも酷い」
「有能だって言ってんだよ」
どうにも目が冴えて眠れないので、少しだけお酒を飲む。
「おお、随分と完成度を上げてきたな……
まるで長い時間をかけて過ごしてきたような深みを感じる」
「熟成時にゆらぎに近い振動を与え続けると、いい感じで時間経過以上の熟成進行をすることを発見しました」
「へー、面白いね。熟成時以外でも味変わったりするのかな?」
「奥様それは面白い視点ですね。色々と実験してみます」
こんな感じで他愛のない会話をしながらお酒を飲んだり美味しいツマミを食べている時間が、とても心地良い。
酒に酔うことは未だにあまりないけど、この雰囲気の心地よさで自然と睡魔が訪れる。
「ふぁー……眠くなってきた」
「失礼しました。ついつい熱く語ってしまいました。
後は片付けておきますので、マスター、奥様お休みなさいませ」
「うん、コウメイちゃんお休みー」
「お休みー」
寝具はいつの間にかトウエン製のいつもの寝具に変わっており、極上の寝心地、そして、ほんのりと温かく、あっという間に睡魔に包み込まれてしまう。
「コウメイちゃん……気が効きすぎよね……」
「ほんとに、凄い……奴だ……ZZZ……」
こうして幸せに包まれながら眠りについた。
「マスターお眠り中に失礼します」
「どうしたコウメイ?」
「沿岸から巨大魔獣が迫っております。街への被害が出る前に迎撃していいですか?」
「もちろんだ、俺も港へ向かう」
「……ん……どうしたのカゲテル?」
「大丈夫、寝てていいよ。ちょっと出てくる」
「大丈夫? 私も手伝う?」
「平気だよ、ありがとう。ゆっくり寝てて、マシューとネイサンを頼む」
「わかった、気をつけてね」
「ああ」
それから急いで身支度を整えて港へ向かう。
街はまだ夜明け前で人通りもないが、港は想像よりも人が出ていた。
「漁とかの人もいるのか、コウメイ、魔獣はどれくらいの場所にいる?」
『沿岸の島の外側で現在交戦中ですが、これ以上激しく戦闘を行うと高波等街への被害が心配されます』
「そんなにでかいのか……どれ……でかーーーーい!!」
スライムの視界の向こうに超巨大な……山のような亀が映った。
『マスター、周囲の人間に周知してもらってもいいですか?
街の側の平原にこいつを上げます!』
「わかった、皆さん!!
Sクラス冒険者のカゲテルです!
魔獣が街に迫っているので、近くの平原で迎撃します!
冒険者ギルドへの連絡をお願いします!
それと、でかいのが出ますので注意してください!!」
「どういうことだ!?」
「な、なんだあれは!?」
「島食いだ!! 島喰いが空を飛んでる!!」
「そんなわけで、よろしく!!」
戦闘予定地に、足場を作って、思いっきり跳ぶ!
同時に巨大な山が海から飛んでいる。
「これ、衝撃とか大丈夫だよな?」
『お任せください』
巨大な山が地面に激突……しなかった。
スライムの作った巨大な氷の槍衾が島喰いと呼ばれた巨大な亀を受け止めた。
体表に手傷を負わせるが、致命傷には程遠い。
どーんと地面が揺れたが、重量を考えれば異常なほど静かだ。
『すみません、受けきれませんでした』
「まぁ、今程度なら大丈夫だろ!
これは、巨獣との戦争だな! ひさしぶりにキング、クイーン全力戦闘だ!」
ズザザザと土煙を上げて着地する、と同時にスライムオブナイツを呼び出す。
久しぶりに大物との対決で腕が鳴る。
最近ローザに任せっきりだからな。
「新装備お披露目も兼ねて、派手にやろうか!」
巨獣退治クエストの開始だ!




