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第69話 ノースル

 海岸沿いをのんびり進んでいくと、とうとう大きな街が見えてきた。

 川が海に流れ込む河口部に作られた街、そして海岸部分には大きな港が広がっている。

 高い建物がない、大きな街はいくつか見てきたが、一番変わった作りと言える。


「凄い、おんなじ形の家がたくさん」


「色んな色できれい!」


「海の青に映えるね」


 外観がそっくりな建物が並んでおり、外壁と屋根がそれぞれの建物で異なる色で見事に彩られている。遠くから見るとまるで海に浮かぶ花束のように見えるかもしれない。

 街を守る防壁は漆喰で真っ白に塗られていて、コレが額縁のように街の彩りをはっきりと浮き上がらせている。


「勉強になる」


 各国の街を見て、美しいと思った物をしっかりと覚えておこう。

 いつの日か自分の街を作る時に、各地の素晴らしい意匠を参考にして、いい街を作りたい。

 俺の旅の目的が、また一つ増えた。


 冒険者証を見せるとVIP待遇で町に入れる。

 Sクラス冒険者がいるということは、余程の事態になっても対応が可能ってことでも有る。

 街からすれば秘密兵器が滞在しているようなものだ。

 冒険者ギルドには報告義務が有るので顔を出さなければいけない。

 ギルドマスターと世間話をしたけど、特に大きな問題は無さそうだ。

 ただ、もし良かったら高リスク依頼をこなしてもらえると助かるとお願いされた。


「人助けだし、やっておこう」


「手伝うよ」


 危険度の高い依頼もそうだけど、雑用みたいなお願い事でなかなか受けてもらえないやつも一緒に引き受けておく。まぁ、スライム達がいれば楽勝なので。

 依頼を受けながら並行してスライム達に行動を開始してもらう。

 我ながら、いい仲間を持ったものだ。


「これは自分たちで行こうか、ちょうど目的の島の付近だから」


『航路上に現れる大型魔獣の討伐』


 遺跡がある島の沖合に大型の魔獣が陣取っていて、大きく迂回しないと港に入れないで困っているらしい。


「宿を取ったらさっそく船でも借りますか」


「俺達は留守番?」


「んー、コウメイ、大丈夫だよな?」


「はい、すでに魔物は確認しております。

 お二人をお守りすることは問題ありません」


「よし、ちゃんとにーちゃんとねーちゃんの言うこと聞くんだぞ」


「やったー!」「わーい!」


「ごめんねカゲテル……」


「何いってんの、大切な家族を守るのは家長の努めだよ!」


 ちょっとカッコつけてみた。

 まぁ、冒険したい年頃だよね男の子は。


 港で小舟は直ぐに借りられた。

 たぶんちょっと海にデートするくらいと思われただろうけど、スライム達の力を借りて猛スピードで島へと海面を走り出すと、港にいる人達がぎょっとしていた。


「凄い凄い!!」


「早いはやーい!」


「あんまり飛び出して落っこちるなよーちゃんとスライムに捕まっておくんだぞー」


「あの鳥って美味しいかな?」


 俺たちに並走してミャーミャー鳴く鳥が飛んでいる。

 その鳥たちにローザが不穏なことを口にする。


「ま、まぁ、今はいいかな?」


「そう……」


「見えてきたぞ」


 港から見ると小さな島だが、近くに来るとちょっとした大きさはある。

 歩いて一周すると半日くらいは掛かりそうだ。


「ローザ、先に魔獣を退治しようか」


「はーい」


 ローザが弓を構える。

 俺が合図をすると水面が盛り上がり巨大な魔物が浮かび上がってくる。

 8本の触手をうねらせて水面から上げられるのに必死に抵抗しているが……


「ふっ!」


 ローザの放った弓が、見事に急所を撃ち抜いてビクンっと体を震わせ触手がビーンと伸びて……

 クタッと絶命した。どくどくと真っ黒な墨のような体液が周囲の海面を染めていく。


「お見事」


「マスター、この魔物、美味しいですよ」


「えー、こんなグロテスクなのに……よし、一部は貰おうか」


 とりあえず収納しておく。


「海底の様子も見に行こうか」


「どうやって?」


「お任せください奥様」


 スライムに包み込まれて、海底を歩く。

 周りは一面海の中、魚が泳いでいる姿も普段の海底の姿を目の当たりにしている。


「すっごい!!」「わーーー!!」


 マシュー達も大喜びだ。

 しばらくコウメイの案内で歩くとたしかに人工物と思われる扉が見えてきた。

 すでにスライム達によって周囲には壁が作られており、このまま通路を海上にまでひいて海水を抜いて、その後扉を開け、内部を探索する予定だ。


「なんか、全部やってもらって悪いね……」


「最終確認はしていただきますから!」


「よろしく頼む」


 それからしばらく海底散歩を楽しんでから街へと戻った。


「海の魔獣はどこにだせばいい?」


「裏の空き地でお願いします!」


「なんだこの化け物、ティコか?」


「旨いらしいぞ?」


「確かにティコは旨いけど……とりあえず解体してみるか……」


 ギルドの人達から出てきた魔石は報酬の一部としてもらった。

 結局ティコと呼ばれる海産物の特殊個体、グランドティコってことで方がついた。

 振る舞われたグランドティコの塩焼きは非常に美味しかった。

 足を一本もらっておいた。

 それ以外の細かい依頼もすでにスライムによって終えていたので全て報告しておいた。

 特に薬草やハーブ系の依頼は、採取地が近くにないので非常に感謝された。

 派遣してるスライムの近くにあった森から集めるだけなので必要ならまた頼んでくれればいいと伝えておく。


「やっぱりこの街でも格差があるな……」


 報酬の少ない依頼の中には、本当に生活が逼迫している人たち向けの仕事が多くあった。

 俺に擬態したスライムにそれはもう感謝している姿を見ると、心が苦しかった。


「商売は繁盛してそうですけど、町外れにそういう人たちが集まってるみたいですね」


 美しい町の中央部と、その影になっている場所、そして、その影になっている場所には、たくさんの苦しんでいる人達がいる。


「……はぁ、俺も偽善者だな」


「お手伝いしますよ旦那さま」


「ありがとう」


 さて、偽善の開始だ。



 

 

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[一言] 「それでも、善だ!」とは、あるガンダムのパイロットの名言です。
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