第68話 レシピ
「海だ!!」
「でっかい!!」
丘を越えると目の前に巨大な水たまりが広がっていた。
太陽を照らし返し水面が輝いている。
波打つ様が光を煌めかせてより美しく見える。
俺たちは、聖国の北、北海にたどり着いた。
ここから東へ進めばノースルへとたどり着くはずだ。
「実際見ると、ぜんぜん違うな……」
「なんか、ベタベタする?」
「ああ、潮風だっけかな? あんまり髪の毛には良くないらしいから夜にはしっかり落としたほうがいいよ」
「奥様のためにトリートメントは欠かしません」
「ありがとうねコウメイちゃん!
もう石鹸もシャンプーもコウメイちゃん特製以外は使う気が起きないの!」
確かに出会った頃に比べると肌ツヤも髪の質も別世界になっている。
貴族らしいといえばそうなんだが……それと、体型も、成長なんだろうけど……
「またいやらしい目で見てるでしょ」
「ち、違うよ!」
「もう、少しは落ち着いてよね!」
それは無理なんだな……
「仕方ないだろ、それだけローザが魅力的なんだから」
「くっ……そ、そう簡単には、負けないからね!」
「そんな、嘘をついてると思ってるのかい……」
「ち、ちが……ってわざとやってるでしょ!」
「バレたか」
「にーちゃん、ねーちゃん夫婦漫才終わったら浜辺で遊んでいい?」
「気をつけてね」
「よっしゃ、行こうぜネイサン!」
「まってよー」
波が打ちつける美しい砂浜は珍しいので二人は楽しそうに遊んでいる。
俺は浜から投げ釣りを楽しんでみた。
ローザが海に向かって矢を撃ってるので何事かと思ったら、糸がついていて海の中の気配を狙って撃ち込んで今夜のオカズを釣り上げていた……すげぇ……
夜は浜辺で海の幸を塩焼きにした。
新鮮な魚は塩で焼いただけでも上手い!!
「そういえば、海外の料理だろうけど魚を生で食べてる料理があったな……」
「お腹壊すよ?」
「ああ、ねーちゃん川魚喰ってやばかったもん、痛っ!!」
「生の魚には虫がいることがあるので、それが人間には危険なんでしょう。
取り除けば問題ないと思うので、試されますか?」
「……ちょっとだけ……」
「それではこちらの魚を失礼して……虫見ます?」
「いや、いい、てか居たのか……ちょっと勇気が折れたぞ……」
「どうぞ」
皿の上に並べられた生の魚の切り身は、ぷりぷりして……美味しそうだった。
スライムがちゃんと処理してくれたし……
「いただきます……」
少し塩をつけて、口に放り込んだ!
「ん……おお……?」
「どう……? 臭くない? 泥臭くない?」
「いや、これ、上手い、凄く旨いよ!」
「えー、俺も食おうかな?」
「コウメイちゃんがやってくれたのなら……、……!? 美味しい!!」
「焼くとホクホクなのに生だとプリップリだ!」
「コレは……白ワインだな……」
それから色々と試してみると、焼いて食べるよりも部位によっての味わいが違うのと、魚ごとの特徴がさらに引き立てられることがわかった。
「これ、奥が深いな……」
「スパイスを少しかけても美味しいわ」
「果汁もいける」
「お腹いっぱいだよ……」
「表面をちょっとだけ炙ったり、さっと湯にくぐらせても風味が変わる!」
「にーちゃん変なの連れたー」
「おーミニクラーケン!」
「失礼します」
コウメイがイカを飲み込みモゴモゴすると、美しく切られて皿に乗せられて出てきた。
「ま、まだ動いてるんだけど……いや、行くぞ!」
ちょんと塩をつけて……
「こ、これは!! 甘ーい!! うまーい!!」
「身は濃厚、足はコリコリしていて歯ごたえが面白い……」
「炙ったら旨い!」
「海は凄いな! こんな旨いものがゴロゴロいるのか!!」
「海沿いに住もう!」
「火山の側で海沿いね……なんか普通に聞くと過酷ね」
「森がないと肉が食えないよ?」
「火山と森と海の側……未開の土地って感じだな」
「大丈夫、スライムの力でなんとでもなる!」
「なんとでもなるー!」
そんな感じで海岸で一晩を過ごすのであった。
「おはようローザ」
「おはようカゲテル、朝早くから精が出るわね」
ちょっと早起きして竿を振っている。
まぁまぁの釣果だ。
スライムに取らせてもいいんだけど、釣り、楽しいです。
「待つんだローザ、弓を置くんだ。それは違うんだ」
「そうなの? あそこらへんに大物がいそうだけど」
「スライム並の気配察知能力や……」
その当たりを狙ってみたら良い形の大物が釣れた……ローザ、凄い。
「コウメイ、魚の斬り方教えてよ」
「お任せください」
コウメイの指示の下魚を捌いていくと、剣技と似ている。
構造を理解して合理的に切り分けていく。
その過程は勉強になる。
「考えてたんだけど、衣をつけて油であげても美味しいよな絶対……
これをパンで挟んだら……出来た!」
「おはよーにーちゃん」
「おはよー」
「さぁ皆、朝食はコレだぁ!!」
「美味しそう!」
「いただきま~す!」
俺の目論見通り、魚を揚げたものをパンで挟んだやーつはとても美味しかった。
サクサクの衣の中のあっつあつの魚からブワッと旨味が溢れ出して、それがパンに染み込んで一つになって楽しませてくれる……これも様々な調味料との相性が良さそうだ。
「コウメイちゃん、海産物のレシピ研究頑張ってね」
「お任せください奥様」
こうして俺達の食卓に海産物が並ぶ頻度が増えるのであった。




