第66話 戦術兵器
村を囲う防壁、もともとは木製だったが、今は外壁を強固なコンクリートで固めてある。
防壁上を自由に行き来できるようになっており、物見塔が随所に配置されている。
武装はバリスタと連弩。
バリスタはおもりを落下させて弓を引くことで、強力な矢をそれなりのスピードで放つことが出来る。
連弩は足踏み式、踏み込むことで弓を絞り、ロックを外すと発射する。
慣れればかなりの速度で弓を撃ち続けられる。
矢の部分はカートリッジの交換性になっているので、矢切れを気にせず大量の矢を打つ事ができる。
慣れれば高齢者でも、10歳くらいの子供で扱えるのが強みだ。
「すごい数の魔物だ……大丈夫ですかね?」
ざっと見て200を超えるくらいの魔物が森からこちらにかけてくる。
確かになかなかの迫力だ。
その迫力に押されてシェビエルさんが弱音を吐く。
指揮官がそれじゃ困るけど、不思議と庇護欲も湧くのがシェビエルさんの不思議な魅力だ。
「雪が途切れている場所を超えてから撃つ。
訓練どおりにやれば問題ない」
「はい!!」
「皆さん大丈夫ですよ、あれだけ魔物が多ければ、撃てば当たりますからねー」
「はい、ローザ教官!!」
「バリスタ隊は大物を狙ってください」
「わかりました!」
「さーて、皆様、見えてきました。
大丈夫、練習通りやりましょう」
「はい!!」
第一次射程範囲内に魔物の群れが迫ってくる。
皆に緊張が走る。
「まだだ、まだ……超えた! 撃て撃てー!!」
「ウーーーーララララアラララーアラララ!!!」
防壁から矢が一斉に放たれる。
曲射の連弩と違い、バリスタは水平射撃。
大きな熊のような魔物を貫き、数体の魔物を一撃で粉砕する。
ついで、魔物の群れに矢が雨のように降り注ぐ。
「もう少しで水平射撃に変わるぞ、まだだ、まだ……今です!」
上空に打ち出していた連弩を狙いを定めてうち続ける。
「矢が切れた、こっちだ!」
補給と射撃、訓練どおりに出来ている。
大量の魔物の死体を積み上げていく、それでも数が多いので接近してくる。
「蓋を破壊する。特殊弾備え、撃て!!」
着弾し、しばらくすると爆発する特殊弾が、壁の手前にある堀の蓋を破壊していく。
魔物は急には止まれない、何匹もの魔物が熱湯の溜まった堀へと落ちる。
飛び越えようにも、壁際には鋭い杭がずらりと並んでいる。
結果として堀の手前で右往左往し、それを連弩で狙い打たれる事になる。
魔物が現れ、物の数時間で死体の山へと姿を変えていた。
「やった、やったぞ!!」
「よくやった! 訓練どおり動けていたぞ!」
「皆さんお疲れさまでしたー!」
俺もローザも手を貸していない。
村の人員だけで、これだけの、普通の街でも滅ぶレベルのパンデミックを撃退した。
これは村人にとって大きな自信になる。
「さぁさぁ、きちんと止めを刺して、魔物を解体するぞ。
スライムの力がなくても皆でこの村を維持できることを見せてくれ!」
「任せてください!」
「ふっふっふ、剥ぎ取りのギンの妙技をお見せしますよ!」
「油断しないできちっと止めを刺しているか確認してくださいね!」
一応全ての魔物がまともに動けないことは確認済みだけど、大事だからね。
大量の獲物を村に運び込み、村人総出で解体を行っていく。
春になればこれらの獲物を持って町へ行けば、しばらくは遊んで暮らせるだろう。
もちろん、この村に遊んで暮らそうなんて思う人間は居ない。
「カゲテル様、この村は、強くなりました!
全てカゲテル様のおかげです!」
「皆が頑張ったからですよ。
私は義務を果たしただけです」
「カゲテル様は貴族の鑑です!」
「ローザやマシューやネイサンも手伝ってくれた。
それに、やはりスライムの助けがなければここまで出来なかった!」
「スライム様……よし、皆、村の守り神としてスライム様の像を作ろう!」
「ああ、素晴らしい考えですね!」
「ちょ、いいのか教会に怒られるんじゃ?」
「何も助けてくれないで、厄介事ばかり押し付ける教会より、スライム様の方が崇めがいがあります!」
「あ、あんまり対立しないでくれよ……そういうつもりじゃないんだから……」
「わかっております。
こっそりやります」
『よかったなコウメイ』
『偶像化は危険な兆候だと思いますが』
『俺達が偶像を利用して悪いことをしないように気をつければいいだろ。
宗教自体が悪いわけじゃない、それを利用する人間が悪い時があるだけだ』
『さすがはマスター!』
『よせやい』
「今日は、お祭りですな!」
「ああ、仕込んでいた酒も、楽しみだ!!」
本当は森の奥、山の方からもう一波、更に数が多く強力な波が来そうだったが、酒を飲みたかったのでスライム達に殲滅させた。
まぁ、俺たちも物資の補給や魔石を手に入れられたので、一石二鳥だ。
『終わりました。あの山岳はギルド基準で結構強い魔物も多いですね。
多分守れたとは思えますが、少し危険だったかもしれません』
『村を出るときには、少し間引いておこう』
『わかりました』
魔物も人々が暮らす大切な資源だ。
根断ちをするようなことはしないが、まだまだこの村の手にあまるようなものは、事前に調整しておく。
せっかく手塩にかけて育てた村だ。
大切に育てていきたい。
「カゲテル様ーローザ様ー、マシュー君ネイサン君準備が整いましたよー!」
「はーい、今いきます!」
とりあえず、今は、目の前のごちそうと酒を楽しむことにしよう!!