第64話 冬ごもり
なんとなくフォストの村に滞在している。
いや、大浴場が気持ちいいし、海もまぁまぁ近いので海鮮と酒に舌鼓を打ちまくっているからってのはある。
流れで護衛兵達にトレーニングをしてみたり、農場や畜産の管理を手伝ったり……
「なんか、結局村長みたいな仕事していないかこれ?」
「良いじゃない、私は旅も好きだけど、こういう生活も好きよ。
それにマシューとネイサンも楽しそうだし」
「やっぱり友達って大事だな」
「そうね」
「甥っ子とか姪っ子でも良いんじゃないか?」
「……馬鹿っ……」
ふむ、この反応。満更でもないな。
「カゲテルさまー、街からの使者が来ましたー!」
「いや、それは流石にシェビエルさんが対応してよ!」
「状況説明のために同席をお願いします」
「それなら、まあ」
「私も行くから、ね?」
「はーい」
「まずは……村の場所、変わっていないですよな?」
街の聖国兵の隊長格と思われる人が直々にやってきたらしい。
確かになんていうか、聖騎士っぽい格好がよく似合うダンディな男性だ。
「はい、色々と変化は有りましたが、フォスト村です」
「シェビエル殿がいるので間違いないだろうが、そちらが……」
「冒険者のカゲテルです。山賊退治の手伝いをしました」
「ご協力感謝する。あの悪名高い黒煙団を一網打尽とは……」
「運が良かったんです」
「なるほど」
少し納得がいってないようだったけど、Sクラス冒険証を見せたら納得してもらえた。
「流石はSクラス冒険者ですね」
「まだまだ若輩者です」
「聖国の兵としてお礼を申し上げます」
背後の兵とともに頭を下げてもらってしまった。
それと賞金も受け取る。
これでしばらくは村の生活は豊かなものになるだろう。
「それにしても、見違えましたね……以前に魔物退治に来た時は、こう、味わいのある感じで……丘の上に有りませんでしたか?」
「農業や水の確保のためにいろいろと頑張りました」
「ふむ……何にせよ、これだけきちんとした備えが有れば、街と王都の良い中継点となりましょう!」
「これからもよろしくお願いいたします、神の御加護を」
「神の御加護を……では」
シェビエルさんはにっこにこと相手に色々と詮索させずに上手いこと兵たちを送り出した。
結構やり手なのかも……
それからしばらくして、町の商人が行商に来たり、またしばらくすると移民希望者が現れたり、更に孤児や高齢者が教会から送られてきたり……
「どうして俺の仕事が増えるんだ?
おかしくないかい?」
「なら、もう出発すればいいのに」
「そんなわけに行かないだろ、人が増えたけど未就労児や高齢者に優しい村作りをしないと行けないし、新規入居者ともともといる人達の軋轢を出来る限り作らないようにしないといけないし、これから冬に向けて十分な備蓄があるだろうけど何が起こるかわからないし……」
「愛着が湧いて離れづらいって言えばいいのに……」
冬が訪れた。
想像以上に来た後にあるこの村の冬は厳しい。
温泉による暖房システムも、無いよりはましレベルだ。
湯水管はもうちょっと畜温の工夫が必要だな。
一旦一箇所に水を集めて、加熱し供給することで室内環境はかなり良くなった。
下水排水システムも、そのお湯を流し続けることで維持できたが、下流で川が凍結してしまうことは完全には防げない……将来的に疫病などの原因にならないように考えなくては……
「雪かきも重労働だよなぁ……」
魔石を利用した魔道具でも作れば維持できるんだけど、魔力供給など俺が居なくなった後にも継続可能な作りにしたい。
「冬はほとんど家にこもりっきりですから、十二分に快適ですよ」
村の皆はそう言ってくれている。
真冬で周囲も含めて一面雪景色だ。
子どもたちは外で元気に遊んでいる。
俺は周囲のスライムを通じて適時、魔物を狩ったり、野草、果実を手に入れたり、海産物を手に入れて村に提供している。
特に海スライム達は大活躍だ。
もう俺は、彼らの捕らえた新鮮な海産物が無ければ人生の彩りが無くなってしまう……
もちろん山スライム、森スライム、みんな大好きだぞ。
「なるほどコレがこの地方特産の酒……」
完全な透明。
一見すると水のようだが、恐ろしく酒精が高い。
塩を舐めてすこーしづつ飲むだけでも喉が焼けて身体がカーっと熱くなる。
味わいは……そのままだと、本当に酒精の塊。
香りや風味をつけることでいかようにも姿を変えられるという点では、化粧次第で様々な美女に姿を変える妖面な女性像を感じさせる。
極寒の地で寒さと戦うために酒精を強く強く蒸留し続け、そしてあらゆる物を利用できるように炭などを利用して癖を無くした。ある種究極地点と言っていいだろう。
何と合わせるのか、そこに思いを馳せることがこの酒を楽しむ最大の価値と言えよう……
「飲みすぎないでよカゲテル」
「はい」
そっと監視役の人のそばに温かい食事やお酒を届けておくのも日課になった。
どうやら3名ぐらいが一週間交代ぐらいで見ているみたい。
最初は真面目に潜んでいたけど、今では普通に過ごしている。
村に入ってこないことだけはこだわりみたい。
この豪雪の中、かまくらを作ってこちらを監視している。
そんな人員割くなら賊対策とかに力を使えばいいのに……
長い冬は、まだ明けそうになかった……
コウメイ「お世継ぎを作られる時は相談してください」
カゲテル「お、おう」