第62話 フォスト
『コウメイ聞いてた?』
『はい、調べておきます』
『よろしく』
数が多い、土の中に潜る……
そんなことは俺とスライムには関係ない。
聖国に散らばっているスライム達に調査を命じる。
「見えてきました、あれがフォストの村です!」
少し丘になっている場所に木で組まれた柵が見える。
確かに大きくはない、それでも人々が一生懸命生きている……
少し故郷を思い出したけど、ローザが手を握ってくれていて、マシューとネイサンが背中に乗っている。そのぬくもりが、今の俺にはいるべき場所があると確かめることが出来た。
「牧師さまー!」
村の中から子供達が手を振っている。
「子供が多いんですね」
「……ええ、親の居ない子も多いもので……」
「なるほど、高齢者も多いんですね……」
「……そういうことです……」
シェビエルさんが肩を落とす。
この村、高齢者と孤児の受け皿になっているんだな……
「俺遊んでくる!」「僕もー!」
マシューとネイサンが飛び出して行った。
「そういえば、旅続きで同年代の友達も……」
「大丈夫、今に始まったことじゃないから!」
ローザ、それは大丈夫なのか?
俺の心配を他所に、二人は村の子供達と直ぐに仲良くなって走り回っていた。
残念ながら犠牲になってしまった人々の訃報を伝えたり、シェビエルさんが落ち着いたのは夕方過ぎ、日が落ちてからだった。
「賊共は近くの街へ知らせをやったので……
申し訳ないのですが、引き渡しなどが終わって、それから賞金という流れ……
お礼の方が遅れてしまいます」
「ああ、気にしないでください。
賞金はこの村で使ってください」
「おお、神よ……
お心遣い感謝いたします!」
いや、シェビエルさんの仕事っぷりを見てたけど、なんというか、この大変な村の全ての雑用をこなして本当に大変そうすぎる。
苦労人過ぎて同情してしまった。
ただでさえ少ない働き手が今回の件で少なくなってしまって……
「教会から人を回してもらうのは難しいのですか?」
「……うちのような小さな村では……その、寄付もあまり……」
「ああ、なるほど……寄付が、ねぇ……」
宗教も、所詮は人が運用するもの。
先立つものがなければ、なかなか動いてはくれない。
結果としてシェビエルさんのような善人な信者が身体を動かすしか無い……
『コウメイ、手伝うぞ』
『仰せのままに』
もう、いいや。
偽善だろうがなんだろうが、旅の情けは掛け捨てだ。
周囲の森や山々にスライムを放って、夜のうちに行動していく。
「さて、あまり大したおもてなしも出来ませんが、今日はこちらで食事でも……」
「いーや、今日は我々が腕をふるって、俺達と出会った記念祭りにします!」
「き、記念祭り?」
「村の人全員集めてください!」
「は、はぁ……」
すでに日が暮れていたが、俺はもう、やりたいようにやってやることにした。
「ローザ、マシュー、ネイサン。悪いけど、俺は貴族だから、高貴なる者の義務を果たすことにする!」
「わかりました妻としてお手伝いします」
「俺も手伝うぜ!」「僕もー」
「スライム達よ、任せたぞ!」
手頃な広場に収納から様々なものを吐き出し設置していく。
照明にテーブル、椅子にテント、時間がないから料理もスライム製。
肉に野菜に果実、パンに酒にジュースだって次々にテーブルに並んでいく。
10分も立たずに祭りの会場が完成する。
わけも分からず集められた人々は、変わり果てたその姿に絶句する。
「すごーい!!」「おいしそーなにおい!!」
「食べていいの!?」
「皆でたべよー!!」
子どもたちは素早く席について食事に手を伸ばす。
「ちょーっとまった!
シェビエルさん、お祈りとかありますよね?」
「……はっ!? あ、あります……
きょ、今日の糧に感謝を、神のお導きにより、こ、このような……うっうっ……」
泣き出してしまった……
しかたない……
「よーし、皆、神様に感謝して、乾杯!!」
「かんぱーい!」「かんぱーい!」
「おいしい!」「温かい! お肉だよお肉!」
大人たちも子どもたちの喜びの声に引かれて席についていく。
「どうぞ、皆さんも楽しんでください。
私の趣味ですから、みんなで酒の批評でもしてください!」
お酒や肉食も特に禁じられていないことは確かめてある。
始めは遠慮がちにしていた村人も、絶品の料理と酒にだんだんと勢いがついていく。
感動に涙した神父さんも村人に慰められながら料理を楽しんでくれている。
何度も御礼の言葉を口にしたシェビエルさん。
せめてもう少しだけ、楽ができるように、お手伝いをしてあげることにする。
一通り食事を楽しみ、久しぶりの酒を味わった村の人達は、皆いい夢を見ていることだろう。
ローザ達も寝かせて、俺はスライムと村の改造計画を実行する。
「やるぞ」
「はいマスター」
スライム式村魔改造が始まる……




