第59話 旅立ち
リョウザの計らいで、俺とローザの結婚式と子爵拝命式は盛大に行われてしまった。
コウメイが用意した総シルクの美しい純白のドレスに身を包んだローザの美しさは目を見張るものがあって、正直驚いてしまった。
鎧の下にとんでもない武器が隠れていたことにも驚かされたのに、磨くとここまで輝く女性だったとは、更に惚れ直してしまった……
余談だがコウメイが行っていた養蚕の技術は王国の特産となり、上流階級向けの超高級品として大いに国庫を潤すことになる。
そこでとんでもないサプライズ発表があった。
Sクラス冒険者である五つ光のメラーノさんとのリョウザ新王の婚約だ。
いつの間に……と思ったけど。
これからのメディアス国にとってこれほどの慶事はなかった。
それにしても、王様と王妃様がSクラス冒険者の国って凄いな……
「カゲテル、ローザ両名は、これから悪魔の調査として世界を見て回ってもらう。
我が国だけではなく、世界中の問題である可能性もあり、信頼できる者に調査をしてもらいたい。
その点に置いても、彼ら以上の適任者はいない。
本日いらしてもらった聖国、帝国両国も二人の旅路を祝い、3国の契としたい。
3国に末永い加護を!」
子爵、貴族の中でも名を継がせることが出来る位。
ただ、ほとんどの貴族が王都と共に犠牲になっているために、地方貴族以外は殆ど残っていないので、結構な位置になってしまっている。
冒険者として外に出るからほとんど王国とは関われないし、領地ももらっていない。
戻ってくるなら用意するとは言われているけど、どうなるかはわからない。
リョウザは約束を守ってくれるだろうけど、俺の旅はどこまで続くのか……
短期的目標は聖国と帝国の赤扉のダンジョン。
まだ誰も制覇していないダンジョン制覇を目指す。
王国内はスライムによって隅々まで探したけど、残念ながら? 幸運にも? 黒扉ダンジョンを新たに一つ見つけたけど、赤や金は見つからなかった。
レジェンドは基本的に赤以上と言われているので、残念ながら他国に期待だ。
発見済みのダンジョンは聖国が金扉を一つ、帝国が赤扉を2つ有している。
ただ、完全に国有化しており、冒険者と言っても、各国所属にならなければ入れないし、制約が多すぎる。
俺がやりたいのは未発見ダンジョンをささっと発見して攻略、ダンジョンコアも回収したい。
沢山の人が見送りに来てくれた。
ギルド関係者やコイタルの人々、王国で出会った沢山の人と別れを惜しんだ。
お忍びで国王が見送ってくれたんだから、贅沢な旅立ちだ。
きっとまた、この国に帰ってくる……
そう約束して、俺達は旅立つ。
「さて、ローザ、マシュー、ネイサン、行こうか!」
「はい!」
「しゅっぱーつ!!」
「しゅっぱーつ!」
もう荷物を運ぶ必要も家を運ぶ必要もないので、小型の馬車だ。
馬はスライムだ。
小型と言っても、コウメイが現状の技術の粋を詰め込んでいる。
まず、揺れない。
本当に揺れない。
そして、それも合わせて悪路走行能力が高い。
悪路というか、ひいているのがスライムなので、水の上だろうが山だろうが、空だって飛べる。
速度だって、その気になれば王国縦断を一日で行う事もできる(時速200キロ相当)。
「ただね、俺はゆっくり旅がしたいんだよ」
そんなわけで、今は常識的な馬車の速度で走って周囲の景色を楽しんでいる。
「気持ちがいいねー……」
「そうね」
「なーなー、なんでここらへんの草原は黄色いんだ?」
「ああ、ここらへんは小麦の農場が広がっているからね。
あれが育った実を粉にすると、パンの原料になるんだ」
「あー、この間ならった!」
マシューとネイサンはコウメイが教育してくれている。
身を守るすべも少しづつ教えていて、筋は悪くないそうだ。
もしかしたら、いずれは冒険者になるかもしれない。
実験はしてはいけないと強く言ってあるから大丈夫なはずだ。たぶん。
「ローザ、右前方草むらに3体」
「わかってる」
音もなくローザの弓が飛ぶ。
「お見事」
気配を消して隠れていた魔物を見事に額を撃ち抜いた。
「流石だね」
「これだけ見えると……外すわけに行かないわ」
今俺達はスライムによる感知とリンクしているような状態になっている。
例のお方からもらった力を利用してコウメイが色々と頑張ってくれた。
全方位知覚レーダーをスライムが常時発動していて、必要に応じて俺たちがその情報を得ることが出来る。
ローザいわく、感覚としては、目の前に止まった的があって、そこに向かって弓を打ってるような感じらしい。
俺もコウメイの補佐があると、ローザほどではないが、まぁ、百発百中だ。
近接戦闘でも敵の行動を全て把握して戦闘しているので、作業に近い。
規格外の化け物の相手をしていたので、さすがに街道に出る敵だと、肩慣らしにもならない。
途中からはスライムに任せてしまった。
「うーん、楽を知ってしまうと……いけないね」
「確かに……」
「やっぱり、ダンジョンを見つけないと!」
「そうね!」
「にーちゃん飯できたよ!」
「おお、楽しみだ!」
かわいい弟たち二人は、料理も上手になってきた。
流石はローザの弟。
馬車を適当な場所に止めて皆で食事を楽しむ。
トウエンで食べても良いんだけど、やっぱり旅感を大事にしたい。
「照明があって、虫よけも警戒もスライムがやってくれていて、旅感も無いけどな……」
「日が暮れると肌寒いはずなのに、この周囲は過ごしやすい状態にコウメイちゃんがしてくれてるしね」
「にーちゃん食い終わったら風呂入ろうぜ! あ、ネーチャンと入る?」
「ばっ、気を使わなくていいから! 入ろう入ろう!」
「にーちゃん俺もー!」
「ああ、皆で入ろう!」
お風呂はトウエンで広々と入っている。
ローザとは別々だ。
……時々は一緒に入るけどね。
そんな感じで、久しぶりにゆったりとした時間を過ごしながら、ロスケットの街にたどり着いた。