第57話 後始末
王国は荒れていた。
その原因は2つのニュースだ。
コイタル領主リョウザの生存。
悪魔の出現と王都消失。
王都を滅ぼした悪魔をリョウザパーティが討滅した。
リョウザは以前より国王とその影にいる悪魔の存在に気がついており、その結果命を狙われた。
そして、それを利用し、冒険者と姿を変え王都を探り続け、ついには悪魔を討滅した。
一連の死霊軍による侵攻やそれを防いだスライム達はリョウザのパーティの力。
そういう筋書きにした。
リョウザ、ジンゲンもSクラス冒険者となり、Sクラス冒険者が王となることに国民の支持を集めた。
なにより、悪魔によって荒野となった王都を、スライムの力でとんでもない速度で復興したことが大きかった。
残念ながら国民は消えてしまったが、象徴となる城があるだけでも拠り所を求める民にとっては大きかった。
そして、コイタルの街の喜びようは、他の国民の比ではなかった。
裏稼業を任せていた優秀な人材を王国運営に呼び寄せることによって、国家運用もギリギリのところで踏ん張っている。
なにより、謎の増税など、国王の横暴に不満がある人間も少なくないために、各地の復興の手伝いを新国王代理としてのスライム達が行ったことによって、国内の安定は想像以上にうまくいくのだった。
「……一生カゲテルには頭が上がらんな」
「ふっふっふ。スライムパワーを全力で使ったからね。
資材に食料、建築から何から何まで国造りノウハウを理解できたことはありがたいよ」
「しかし、コイタルとラーケンを結ぶ街道を作るとは……
人の手では数百年規模の事業になるとこなんじゃが」
「その過程で得た鉱石なんかは全部もらってるから。
山脈を食い尽くすのは流石に遠慮したよ」
「そうしてくれ、あの巨大な街道だけでも、今後の国の発展にどれだけ寄与することか……
本当にありがとう」
こうして新国王になったリョウザ、実は一番大変じゃないかという国軍の再編を任されている総司令のジンゲン、俺とローザで会食をしながら現状を話し合う。
ある程度国の形が整ったら、俺も旅に出る。
それまでに出来る限りはやく国の体勢を落ち着かせて欲しい。
聖国と帝国には王自身の実力とジンゲンの実力を見せて、完全に手を引かせた。
ロスケットの街で労をねぎらうと二人の剣舞を見せた二人の代官の引きつった顔は忘れられない。
ついでに視界一面に布陣したスライムを見せて、ダメ押しもしておいた。
『マスター、収納がさらに進化しまして、なんというか、中に世界ができました』
あの存在から頂いた爪を吸収した俺達は、更に訳がわからないことになった。
実際に、収納の中に入ってみて、コウメイが嘘を言っていない事は身を持って理解した。
収納内に、生物も行動可能な超巨大な空間、世界が生まれていた。
なんと言えば良いのだろうか……
いつでも入れて、誰にも邪魔されない自分の土地を手に入れた……?
そんな感じだろうか……
やっぱり、神に近い存在だったんだろうな……
以前と同じように、内部を移動すれば高速で各地に存在する収納間を移動できる。
瞬間移動とは言えないが、表の世界では考えられない速度で移動できる。
もちろん物資の移動も可能。
現状スライムはまとめて入るものの、戦闘ではほとんどナイツ達が受け持っている。
そこで、コウメイと相談して、この空間で生産拠点を構築することにする。
さらに生活設備も整えれば、わざわざ家を持ち歩かずに、ここに来れば良いことになる。
植林や農業、畜産も行って、現実世界の資材の消費も抑えて、俺たち自身による自給自足を目指していこう。
この世界の一番の利点は、マシューとネイサンが安全に旅に同行できることだ。
この世界の中心は俺がいる場所なので、現実世界で俺が移動すれば、この世界の街の中心が移動していく。
マシューとネイサンが過ごしていても、一緒に旅ができる。
ダンジョンだけ一部制限がかかる。
ダンジョン内からこの世界に入ると、出るのはダンジョンの範囲内に限られる。
ダンジョン内から外部へ移動は不可能なことだけは注意が必要だ。
ダンジョン外にキング・クイーン・プリンス・プリンセス・コウメイ、この特殊個体さえいれば、以前の方法で収納内移動が可能なので、ダンジョンに入る時は誰かに外でスライム達を統率してもらうことになる。
『それと皆様の武具に関しても、オーラ状態に耐えられる物を開発中です。
ただ、やはり参考にするものが欲しいので、高難易度ダンジョンをたくさん制覇してレジェンドレベルの武具を手に入れましょう』
「簡単に言うねぇ」
「レジェンドレベルってなに?」
「ダンジョンから出る……それこそ国家の至宝とかになるレベルのアイテムだね。
現在の技術では作成出来ない素材や技術を利用している……らしい」
「すげーじゃん、カゲテル頑張れよ」
「がんばれーカゲテルー」
「はーい、頑張らせてもらいます……」
「なーなー、ここの名前つけようぜ!」
「つけよー」
「スライムの楽園」
「却下」
「スライムパーク」
「却下」
「……桃園」
「桃園?」
「いや、なんとなくコウメイなら三顧の礼か桃園だろ、と言われた気がした」
「誰に?」
「うーん、遠い友人?」
「トウエン、か悪くないじゃん!」
「トウエンー、カゲテルの国! スライムの国ー!」
まー、マシューとネイサンが楽しそうならそれでいいな。
こうして、俺の空間はトウエンと呼ばれることになった。