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第56話 謁見

 その部屋に一歩踏み入れると、明らかに空気が変化した。

 真っ赤な絨毯の先にから強烈なプレッシャーを感じる。


 ぼぼぼぼぼぼぼっ


 左右、それに天井の蝋燭に火が付いていき、部屋を照らしていく。


【本当にたどり着けるとはな……

 トリーゲン候、お主等に相手できる存在では無いはずだったが……】


 言葉の一つ一つに強い力を感じる。

 光に照らし出された人物は、中年の男性風だが、なんというか、認識しずらいというか……

 思ったより若く感じたり、老齢に感じたり、揺らいでいるような存在感がある。


「戦いながら成長してなんとか……」


【ふむ、人間はやはり、面白いな】


「貴方は、なぜこちらにいらしたのですか?」


【面白いものを見た礼だ。答えてやろう。

 事故だ】


「事故?」


【木っ端にも満たぬ悪魔の悪戯で済むはずだった……

 もしくは欲をかいたのか……

 この地を治めている者を操ろうとして、この地に住む全ての魂を喰わせてしまい、大穴が開いた。

 木っ端はその力に飲まれ、儂が呼ばれてしまった】


「……全ての魂……」


【本来なら、その程度で余を呼ぶ事はできないのだが、なかなかおもしろい存在がいたので、興味本位で分体を送ってみた……実際には想像以上に面白い者だった】


「貴方は、いずれかの王なのですか?」


【聞かぬほうが良いぞ、余の名はお主らには呪いとなる】


「配慮に感謝します」


【ふむ、人の子よまだ若いのに礼をわきまえておるし、なかなか力を持っている。

 それに、お主、存在が普通ではないな……楔か?。

 帰ってやるだけでは少しつまらんな、褒美にこれをやろう】


 キィン


 甲高い音と共に、その存在は爪先を切り裂いた。

 ああ、勝つ負けるの存在ではない。

 存在次元が違う。

 攻撃、行動、認識出来ないレベルの存在だ。

 こんな物が呼び出されて、この世界が残っていることが奇跡なのではないかとさえ思わせる。


【水玉に喰わせるがいい、余も暇でな、これからも楽しませてもらうぞ】


 すっとその存在が立ち上がる。

 全く気が付かなかったが、いつの間にか俺たちはスライムナイツを含めて全員が膝をついて礼を示していた。


 その存在の奥の扉が開くと強力な魔素が溢れ出した。

 顔を上げられないが、大穴が開いている。


【滅びの命運に抗う様、これからも楽しみにしている】


「ははっ……」


 プツン


 瞬きするほどの一瞬でその場の全てが消え去った。


 先程までいたはずの城も全て消え去って、荒野に伏していた。


 なにもない……

 先程起きた出来事がまるで夢のようだ……


 呆けてしまっている俺たちをよそに、スライムキングは、残された爪に近づいていく。

 そして、吸い込まれるようにその爪を吸収していく。

 ほんの爪先、小さな小さな欠片に、あまりにも強力な力が込められている。

 たぶん、この力を取り込むと、あの存在に視られることになる。

 それでも、それを受け入れないという不敬は出来ない。


「……おしっこ漏れそう」


「儂も……」


「どうしよ、立てない」


「やばかったね……魔王……魔神って存在なのかな?」


「わからん。

 先程まで感じていた力も、思い出すことも出来ない。

 とにかくとんでもない存在だった……」


 確かに、視たはずの姿が、頭の中で結実しない。

 認識阻害というか、高次元の存在を低次元の存在が正しく認識できないとかそういう感じ。


「コウメイ、大丈夫?」


『お待ち、ください……』


 苦しそうに、それだけ告げると、コウメイとのつながりが薄くなったような気がした。

 あの膨大な力が俺に影響を与えすぎないように配慮してくれたんだと思う。

 今回の戦いで、暴走してしまったから……


「わかった」


 全てのスライムがぐちゃぐちゃに混じっている感じで(コウメイ?)が必死に制御しているんだろう。


「俺達が一番で良かったね。

 多分だけど、Sクラスに大量の欠番が出たよね」


「どうやらカゲテルに関心を向けていたようだからな、他のものにはあの力を容赦なく振るっただろうな」


「戦いにならないってのが感想だが、Sクラスだと違うのかね?」


「とんでもない世界だね……」


「世界は広いですね」


「ああ……」


「そういえば! 滅びるとかなんとか言ってましたよね?」


「ああ、そうだ。そこらへんもちゃんと報告しないと」


 ケイジが空を仰ぎ、何かを決意した、珍しく真面目な表情で俺を見つめてきた。


「……カゲテル、俺はここまでだ。

 ケイジとしてカゲテルと旅をしたかったが、ここをなんとかしなければいけない……」


「うん、わかってる。多分そう言うだろうと思ってた。

 ジンゲンもでしょ?」


「……ああ、儂もケイジ、いや、リョウザ新国王を支えないといけない」


 別れは予想していた。

 国家の中枢が全て灰燼に化してしまい、さらに周辺諸国からせっつかれえている状況。

 誰かがやらなければいけないし、リョウザならその過程も良いストーリーとして利用して国民の支持を受けやすい。

 そして、近くにジンゲンほどの実力者がいれば、さらにそれは盤石となる。


「わかった。大丈夫、俺達は繋がっているから、いつでも手助けしにくるよ」


「助かる。正直大混乱は避けられないからな……」


「取り急ぎ、コウメイが元気になったら。

 王都復興しますか」


「それは、とんでもなく助かるな……」


「王様に恩を売るチャンスだからね」


「ははは、カゲテルはこれからどうするんだ?」


「旅を続けるよ。

 世界を見て回り、いろんな事を……引き寄せるんだろうなぁ……

 あの方をせいぜい笑い転げさせながら、生きていくよ」


「……そうか、カゲテル、ローザ、それにスライム達がいれば、心配はいらないな」


「また遊びに来るよ」


「ああ、いい国にして、待っている」


 ケイジは、認識阻害の首輪を外し、握りしめて破壊した。

 そこには、一つの国の未来を託された新国王の決意を込めた横顔が夕日に照らされていた。

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[一言] この流れ・・・たまらないぜ!!
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