第55話 オーラバトラー
【こんな、はずでは……ゲガラァ!!】
ジンゲンには正統派の無手格闘技、ケイジには喧嘩殺法を叩き込まれている。
ほんの一瞬だったけど、ヴェルグさんを始めSクラス冒険者の体捌きも体験させてもらっている。
日々の鍛錬だって、怠っていない。
その技が、こうして格上の悪魔にも通用している。
こうして戦っている間も、周囲では覚醒したスライム達が敵を圧倒し始め、つぎつぎと胃袋へと収めていく。そのエネルギーは俺に流れ込んでくる。スライムの成長はそのまま俺の成長だ。
多数の敵を相手に打ち勝てば、それだけ俺とスライムは強くなっていく……
【こ、ゴベェ、グハァっ!!】
もっと疾く動けるようになる。
もっと強く動けるようになる。
もっと長く動けるようになる。
【グフっ……ごへ……グボアァ……】
「まだまだぁ!!」
【……………】
ぬちゃ……
視界がにごり、なにか冷たいものが顔にへばりついている。
「少し頭を冷やせカゲテル」
「やりすぎだぞ」
いつの間にかケイジとジンガンが隣りにいる。
『マスター、その状態を解除してください。
まだ試作段階で暴走しかけています』
その状態……
ふっ
身を包んでいた炎が消えると同時に、どっと身体が重くなる。
顔にへばりついていた冷たいものがスライムであることに今更気がついた。
火照った顔にスライムの冷たさが気持ちがいい。
「力に酔っていたな……仕方がないな、こんなに大量に力が流れ込んできたんだろうから」
「カゲテル殿、周りを一度見てください」
ジンガンに促され、周囲を見ると、敵兵は一体も残っていなかった。
大量のスライムで埋め尽くされている。
ローザも駆け寄ってきた。
「大丈夫カゲテル?」
「ああ、ごめん……」
「あーあ、ここまでやらなくても……」
どうやらトリーゲンは絶命していたようだ……
悪魔スライムが群がり、あっという間に遺体は無くなってしまった。
ケイジいわく、女子供には見せちゃいけない状態だったらしい。
『申し訳ありません、膨大なエネルギーが吸収される状態でその影響を失念していました。
更に改良してより良いものにしていきますよ!』
戦闘も終わってコウメイが元気そうだ。
「……まだ終わってないから、行かないとね」
「大丈夫か?」
「なんか、ふわふわしてるけど、大丈夫」
「それにしても、さっきのアレは何が起きたんですか?」
「えーっと、コウメイ説明お願い」
「はい、先程の悪魔の使った膨大な魔力を身にまとって戦う方法を解析し、仙気・闘気も利用して、マスターの膨大な魔力と魔力回復力を最大限に生かしためっちゃ強い状態にするスキル。
名付けてバトルオーラです!!」
すごくざっくばらんとした説明だが、むしろ皆には理解しやすかったらしい。
「あれ全軍で使われると流石に魔力が減っていくんだけど……」
「そうですね、現状2時間ぐらいが限界かと思われます」
「あの状態で2時間かかる敵は、そもそも戦わないほうがいいな」
「突然敵がスローモーションになったかと思うほどだったから、時間制限も仕方ない。
終わった後の疲労感もなかなかだからなぁ……」
「あまり力を込めると武具が持たないですね……」
「なんとか、解決できるようにがんばります!」
とんでもない一戦を終えた直後なのに、まるでピクニックにでも来ているかのように、敵の本陣へと足を踏み入れる。
王都周囲の街は灰燼と化しており、王城跡地は趣味の悪い城が立っている。
瓦礫から多くの死霊が俺たちを襲おうとしてきたが、スライムを使った広域聖属性魔法による浄化で死霊は成仏していった。
「たぶん、王都に住んでいた民たちだろうから……」
「……どうか、安らかに……」
敵の城が近づいてきた頃には身体の中で暴れまわるエネルギーも落ち着いていた。
落ち着くと、この戦いで得たエネルギーの強大さに少し引いてしまう……
凄過ぎて、逆に落ち着いちゃうレベルだよ。
目を閉じて自分自身と向き合うと、人間なのかな?
どっちかというとさっきの悪魔とかに近いんじゃないか……とか怖いこと考えてしまう。
Sクラスの人達もきっと同じような事を考えてるのかな?
今度あえたら聞いてみよう。
「カゲテル、ついたぞ」
「あ、うん。みんな、大丈夫?」
「儂は問題無しじゃ」
「俺も絶好調だ!」
「私も……!」
「城は包囲しております! ネズミ一匹通しませんよ! 同胞の指揮はお任せを!」
「よし、行こう!」
城門に触れると、静かに、滑るように扉が開いていく。
巨大な門があまりにもスムースに開く姿は、少し気味が悪い。
バンバンバンバンバンっ!
奥に続く扉が次々と開いていく。
城の内部は赤と黒の世界。
金色の燭台で揺らめく蝋燭の炎が薄暗くその道を照らしている。
道の先は暗黒に包まれて見えない……
「どうやら歓迎してくれているみたいだね」
「そうじゃな!」
「招かれるとしよう」
「大丈夫ローザ?」
「うん、平気……」
それでも少し不安そうな彼女の手をとってあげる。
「あっ……」
正直身体の中で暴れまわる力を持て余しているので、ゆっくりと分けてあげる。
少しでも不安が取れれば良いんだけど……
「温かい……ありがとカゲテル」
不安そうな顔から、笑顔に変わる。
やっぱりローザは笑っている方がいい。
「うん、笑ってるほうがローザは素敵だよ」
「なっ……!」
「あいつは本当に天然だな」
「最も効果の高い場所で最高の行動を取るタイプだな。
それで無自覚なんだから、女が泣くぞ……」