第48話 S
「あのラーケン様と戦えるとか……羨ましいぞカゲテル!!」
ジンゲンが興奮している。
「儂の憧れ……ああ、もう瞬きもできんな!!」
「メラーノ氏もそしてカオリ氏も美しい……」
「ああローザ、カオリ氏は天破、天を穿つと呼ばれている弓使いだ。
たぶんたくさんの学びがあると思うぞ」
「そんな人に……不安です」
「大丈夫、ローザのいつもの力を見せてきなよ!」
「う、うん。頑張るね!」
全員思っていた。
ローザはなんの問題もない。と。
「どこからでも来ていいぞ、すべての力をぶつけて見よ」
巨大な盾と、鎧。
構えると、まるで目の前に巨大な城塞があるかのようなプレッシャーを感じる。
つまらないことをしても、通用しない。
「行きます……行くぞ、ナイツ達!」
殺す気で構わない、ラシエルさんはそう言った……
全力を見せなければ!
ここ最近の魔素稼ぎのおかげで、スライム達の総エネルギー量は爆発的に上昇している。
当然キング達ナイツも力を増している。
本気でやって良いのだろうか?
少し、頭をよぎったが、愚かな増長でしかないと思い知らされた。
「カッカッカ!
なるほどのー……これは……良かろう。
自分も推薦に一票を入れよう。
久方ぶりに5歩も下げられたわ!」
そう、俺も含めた全員の攻撃を完璧に防ぎきられ、俺らが出来たことは、5歩下がらさせることだけだった。キングスライムはその現実を前に悔しさでプルプルと震えていた。
「私もいいわー、酷いわねー一人でこんな事出来るなんて、ただ、ちょっと雑ね。
魔法に関してはもっと精度を鍛えなさい?
はい、トロフィー代わり」
メラーノさんはそう言うと、見事な氷の彫像を渡してきた。
驚くほど薄い氷で作られ、目に見えないほどの細い土の糸によって形態を支えている。
その内部で炎が揺らめいており、風魔法によって熱が氷に伝わらないようになっている。
水、火、土、風の魔法が完璧にコントロールが出来ないと、このような芸当はできない。
クイーンスライムがその像を見て悔しさにブルブルと震えていた。
「おもしれぇ……カゲテル、お前自身の力を見たい。
一人でかかってきな!」
ヴェルグさんが構える。
独特の構え、低く構え両手を軽く地面に添える。
被り物のせいで、まるで銀色の狼と対峙しているかのようだ。
「行きます!」
俺も体勢を低く一気に近づく、銀狼の姿が、ブレる。
もう、驚かない。
奇しくもオリヴァーさんの動きで少し目とスライムレーダーが慣れた。
超高速で迫る一撃を避けながら、カウンターを重ねる。
ピタ
「!?」
次の瞬間、わけのわからないことが起こった。
カウンターで叩き込んだはずの俺の拳が、ヴェルグさんの指で止められていた。
いや、それだけならまだわかるが、ただ指を添えられているだけで、拳を含めて身体が全く動かせない。
強大な力がかかっているわけでもない、むしろ力を入れる起点を作らせてもらえないような……
『失礼しますマスター!』
身体が自分の意志と関係なくヴェルグさんを蹴り上げた。
「へぇ、動けたか。
その前の反応も合格……いいだろう、推薦しよう!」
蹴り上げたと思ったら、ヴェルグさんは自分で背後に飛んだだけだった……
ようやく身体が自由に動かせる、自分が何をされたのかさっぱりわからない……
これがSクラスの冒険者……
「あとなぁ、弟子の肩を持つわけじゃないが、人間相手だとこれ以上力を出せねぇが、本気の本気はさらに上だぞひよっこ共」
ラシエルさんの方を見るとバツが悪そうに頭をかいている。
そうだよな……即死させるつもりで攻撃したら……
一方俺は、本気で攻撃して、まるで通用しなかった……
まだ、俺は、調子に乗っていた……
「あ、あの……!」
「Sクラスの推薦を断ることは許さん!
悔しかったらさらに自らを高める努力、研鑽を怠らんことだ」
「ぐっ……はい!!」
「さて、そろそろ、あちらも……
しかし、ローザと言ったか?
あれは、えげつないなぁ……」
「本当です。なんですかあの武器は、えーっとコウメイちゃんってどなたですか?」
「はい私がコウメイです」
「スライムが……喋ってる……かわいい……ゴホン。
あの武器について少しお話をうかがってもいいですか?」
「カオリ、ローザはどうだった?」
「文句ありません。というか、私も修行し直しです……
あの子は私より、姉に近い、天賦の才能があります」
「ほう、そこまでか……」
「あ、そうそう、研究させてもらうために力を使い果たして向こうで倒れているので、回収してください。さてコウメイちゃ、さん。あの弓は……」
それから天破のカオリさんはコウメイと何やら話し込んでいた。
「……すごすぎますSクラスの人たちは……」
力を使い果たしてぶっ倒れていたローザはそう言い残して気絶した……
「俺を見てSクラスを軽く見られても困るからな、ただな……
恐ろしいことに、今回呼んだSクラスは、皆理性的な人選、つまり、人間っぽいメンバーだ。
Sクラスはぶっ飛んでるから、こんなもんじゃないぜ、想像より世界は広いぜ」
ラシエルさんは、推薦状を俺らに託して、ボコボコにされながらオリヴァーさんに引きずられて連れて行かれた……
「弟子が世話になったお礼だ、俺も一言添えてある」
それだけ言い残して、嵐のように去っていった。
他のSクラスのメンバーも、推薦状をくれると皆去っていった。
ジンゲンが一太刀だけラーケンさんに指導を受けて感動していた。
「儂も、Sを目指す!」
ケイジはメラーノさんにアタックして……
「自分より弱い男に興味が持てないのよねー、ごめんねー」
と、相手にもされなかった。
「俺も」
ジンゲンとケイジが燃えていた。
こうして俺とローザはSクラス冒険者からの推薦により、史上最年少でSクラスになることになった。
正式決定は、各国のギルド長会議……
その会場に、ついに、呼ばれる日が来たのであった。