第47話 対話と対面
出てくる料理はどれも目にも鼻にも舌にも、時には耳まで楽しませてくれる。
それと合わせるお酒のも一級品、特上の時間を過ごさせてもらった……
「もう、食べられません……」
「いやはや、なんとも素晴らしい時間を過ごさせていただいた」
「本当に素晴らしかった。料理もお酒も、今後の参考にさせていただきます!」
「やはり、このレベルの料理はなかなかお目にかかれないな……
スライム達も本当に素晴らしいのだが……」
ケイジと俺があーだこーだと将来の展望を話し始めると、軌道修正とばかりにラシエルが話題を振ってくる。
「今度の話し合いの前に、カゲテル達にはあってほしい人達がいる。
明日少し時間をもらうぞ」
「ええ、構いませんけど、それが目的だったんですか?」
「まあな、スライムのおかげで王国の要であるコイタルを守る必要もなくなった……
あとは、明日話す」
「話はわかった。さて、後の時間はさらなる美酒をいただこうか!」
「お手柔らかにな」
「流石にこれからの支払いは俺たちもしますよ。
破産しますよ?」
「ぐ……では、そのお言葉に甘えるとしよう……
そんなに飲むのか?」
「ええ、カゲテル達はそんなに飲みます」
「困ったことに、そんなに飲むんじゃ……」
「俺も飲む方だと思ったが、カゲテルほどじゃない。
しかもずーっと味の探求を辞めないんだから恐れ入った」
「ふむ、俺はそんなに強くないからな、途中からはお茶で付き合うが」
「ラシエルさん、付き合わないである程度で帰りましょう……」
「そうじゃな、それが良いと儂も思うぞ……」
「そ、そうか……」
そして、ローザとジンゲンの予想通り、ドン引きのラシエルら3人が帰った後も、店の人に追い出されるまで様々なボトルを開ける俺達であった。
全財産の7割が消え去る恐ろしい事件になった。
その分、時間の大切さを知ることも出来たし、悔いはない……
「コウメイちゃんも、ちゃんと止めてよ……」
「返す言葉もありません」
「それとカゲテル、ああいうお店なのよ……少しは考えてね?」
「はい、夢中になりました」
「ケイジさんも大人なのに率先してどうするんですか……」
「申し訳ありません」
翌朝、ローザに二人とスライム一体が説教された。
結局約束の昼まで正座させられて足が痺れました。
「さて、行きましょう!」
「待ってくれローザ、君がさっきまで何をしていたのか覚えていないのか?」
「何言ってるのケイジ、これも含めて反省してもらわないと」
「手厳しい……」
「とりあえず、あまり揺らさずに頼む……」
ロスケットから王都方向へしばらく行った草原、それが指定された場所だ。
「驚いたな、アレだけ飲んで平気なのか?」
ラシエルさんがそこで待っていた。
「ええ、それよりもローザの説教のほうが効きました。
そちらの方々が今日の要件ですか?」
「ほう……な? 面白いだろ?」
ラシエルさんから少し離れた場所から、すうっと人が現れる。
何もないように見えた場所から人が出てくるように見えるかもしれないが、実際にはそこにいる人間を居ないと感じさせるような技術でそう見せている。
すごい技術だけど、悪魔にあってから色々と工夫したスライムレーダーからは逃れることは出来ない。
「気を悪くしないでくれ、アイツラが試すって聞かなくてさ」
「そりゃーそうでしょ、いくらラシエルの言葉だからって16歳の冒険者をS級に推すのは簡単なことではないぜ」
「そうですよ、若い人間を恐ろしい世界に引きずり込むことになりますからね……」
「しかし、本当に若いな……俺も歳を取るわけだ」
「あら、ラーケンは渋くて素敵よー」
「ふむ」
5人の男女。
「ま、まさか……不破の壁……ラーケン様……」
「五つ光のメラーノ、銀狼ヴェルグ、天破のカオリ……」
「師匠、時間通りに来てくれるとは思いませんでしたよ」
「ラシエルさんの師匠……槍神、オリヴァー……様」
巨大な盾を持つ大男、全身を鎧で身を包み、巨大な斧を持っている。不破の壁ラーケン。
真っ黒なローブ、その中は露出が多く、ダイナマイトなボディが見え隠れする女性が五つ光のメラーノ。
銀色の毛並みの狼の毛皮を被り、何故か上半身は裸な筋肉の塊、銀狼ヴェルグ。
巨大な弓を背負って特徴のある着物と呼ばれる民族衣装に身を包んだ天破のカオリ。
そして、一人、別格のオーラを感じる。
黄金の槍を持つ、真っ黒な鎧の男性が……オリヴァー……超有名人だ。
次の瞬間、ラシエルさんがオリヴァーさんにぶん殴られて地面にめり込んだ。
見えなかった……
「修行のし直しだな」
「痛っつつ……それは甘んじて受け入れるが、まぁ見てもらえますか……?」
すくっと立ち上がるラシエルさんもラシエルさんだと思う……
「見るまでもねぇ、俺はバカ弟子を叱りつけに来ただけだ」
「自分は力を見せてもらわねばな」
「あちしもそうねー」
「ローザさんね、私に腕を見せてもらうわ」
「あのラシエルさん、これは……?」
「Sはクラスへの昇級の最短ルートは、Sクラス冒険者5人からの推薦。
カゲテルとローザをSクラスに推薦する、ってことじゃな?」
「そうだ。俺はしばらく修行で動けなくなる。
後釜を任せたいからな」
ドゴン
もう一度地面にめり込んだ。
「てめぇの不始末をこんな子供にやらせて……地獄を見せてやる……」
今度はかすかに見えた……
「……師匠、ちょっと天国が見えましたぜ……」
「時間が惜しい、カゲテルだったな。
俺に一撃加えてみろ、それで俺は認める」
「魔法も使ってね~、それで私もOK」
「戦いの内容次第だな俺は……」
「ローザさん、我々はあちらで」
もう、何が何だか分からないけど、どうやらSクラス冒険者と手合わせをすることになった。