第45話 ロスケット
『すでに各地にスライムを走らせております。
なんといってもこの魔素から得られるエネルギーをありったけ回収したいので、ついでに街とかも救っていきましょう!
聖加護があれば、死霊なんてボーナスステージみたいなものですからね!
さらにさらに、収納間の距離の問題も解決しました!
ダンジョンコアは素晴らしいですね。
収納による物資の高速運搬が可能になります。
ただ、内部にも距離の概念があるので、瞬間移動は出来ないのと、相変わらず生命は収納できません。
それが出来れば超高速移動も可能だったんですが、おしいおしい』
黙って聞いていたらめっちゃ早口で説明された。
けが人の治療なども自分の判断でしっかりと行ってくれる頼れるコウメイだが、実験とかの話になると少し人が変わったようになる。
そう言えばもうひとりのカゲテルもスライムの話になると饒舌になったなぁ……
最近すっかり夢に出てこなくなった。
結局、各地に突然スライムの集団が現れて死霊を飲み込んで行く怪現象が起こることになった。
人が集まる場所の安全はある程度確保されたが、非常に強力な死霊兵が王国内を歩き回るようになって、物流が滞ることになったが、それもすぐに解決された。
スライムによる長距離輸送を利用した。
各町にある程度のスライムを配置した。
「いまのところ聖国や帝国は攻めてくるような暴挙には出ないようじゃが。
ただ、儂らの国はトップがいない状態ですからな……
ケイジ、お前しかないないだろ、王族は……」
「王都が全滅だと……そうなっちまうな……」
「あの悪魔をなんとかしないと……」
「まずはそれからだな」
「ところで……」
「あちらのお方はいつまで一緒に行くんだ?」
「ラシエルさん……」
なぜかラシエルさんが同行している。
今はもう一台の馬車にいてマシューやネイサンと遊んでくれている。
現在俺たちは隣国である聖国ケイロンとガリンダーム帝国の国境が交わる王国の都市ロスケットに向かっている。
帝国領との間には時代を感じさせる石造りの砦が延々と続いている。
かつては激しく戦闘を繰り返した王国と帝国は現在停戦状態。
血みどろの戦闘を繰り返してきた帝国の石壁。
その壁沿いを北へと進んでいる。
コイタルに行く予定だったラシエルさんはこの馬車に乗っていると離れていっちゃうわけなんだけど……
「ま、良いから良いから」
と、ついてきてしまった。
いい人だし、凄い戦力なのでありがたいんだけど、最近戦闘はスライムに任せっぱなしだ。
死霊兵に中級上級の敵兵、流石にドラゴンは出てこないが、強い個体も出てきているんだけど、なんといっても聖魔法は死霊系の敵にはめっぽう強いので、圧倒してスライムのエネルギー源になっている状態だ。
おかげさまでスライム軍は順調に成長している。
そして、今回の被害の全容も見えてきた。
残念ながら、王都の壊滅は事実だった。
王都周囲にはドラゴンゾンビからアークデーモン、死霊騎士など超強力な軍隊が守っている。
聖魔法で優位に戦えるのは間違いないが、敵の大群、それと、親玉の悪魔がいるので、うかつには手は出せない。
その代わり、周囲に派兵される敵兵を倒してエネルギー稼ぎを行っている。
王都にいる悪魔は完全に俺たちを舐めているのか、こちらの様子を伺う素振りもない。
その間に王国中に張り巡らせたスライムネットワークに引っかかった死霊軍をパクパクいただいている状態だ。
強力な死霊を支える魔素に秘められているエネルギー量は莫大で、コウメイは魔界に行こうかと本気で考え始めているようだ。魔界には魔素が満ちているらしい……
いずれは実行しそうで怖い。
過去には勇者的な存在が魔王的な存在を倒すために魔界へと行ったとかなんとか……
少なくとも、悪魔がこちらに出ることがあるのだったら、こちらからもあっちへ行けるんだろうけど……
「見えてきた、ロスケットの街だ」
王国、帝国、聖国の国境が交わる街。
3国の貿易の要となっている。
そして、今回各地の冒険者ギルドの代表者が一同に解する。
そこに、俺も呼び出しを受けることになった。
王国内だけとは言え各地に現れたスライムが俺のものだというのはすでにギルドを通じて周知の事実となっている。
俺の呼び出しは当然だろう。
こっそり聖国と帝国にも偵察を出している。少数だけど。
そんなわけで、各地を助けているスライムは今や守り神扱いだ。
スライムの人形を飾っておくと商売が繁盛するというおかしな風潮も流行っているらしい……
「なんにせよ、会見は一週間後だ。
さて……市場へ行こう!
食材だ! 酒だ! 聖国と帝国が俺たちに飲まれるのを待ってるぞ!」
「待ってました!!」
「まったく……」
聖国と帝国の物流が混じり合うこの土地は、各国の食事や酒が楽しめる。
もちろん様々な食材も集まっている。
「買い物をするぞ、金貨の準備は十分か?」
「お金にはたぶん一生困らないけど、無駄遣いは駄目だよカゲテル」
「ふははは、カゲテルが抑えても、俺が押さえないから意味がないのだ!」
「ケイジさんも胸を張って言うことじゃないですからね!」
「馬鹿な値段の芸術品を買わないようには言ってやる」
「ジンゲンさんだけですよちゃんとやってくれるのは……」
「ねーちゃんも服欲しいってぼやいてたじゃん」
「最近は胸がきついって」
「ば、ばか!!」
……はち切れそうだった。
「カゲテルのバカー!!」
パァン
頬が痛い。