第42話 手先
ケイジとジンゲン、それにローザも神気、仙気の扱い方を戦いの中で身につけていった。
やはり、俺達は、繋がっている。
簡単に言えば、神気が外への力。
仙気が内なる力の増大だ。
仙気に目覚めると超パワーアップする。
神気を使うとアンデットなどの不浄な者相手には圧倒的に優位に戦える。
スライムからの圧倒的な力を与えられた俺は、力技で腕を斬った。
ケイジやジンゲンは技でアンデッドドラゴンを切り刻んでいく。
ローザはスライム弓兵と一緒に広範囲攻撃で戦闘を支えている。
すでにドラゴンは四肢を断たれて、その巨体を支えられないでいる。
痛みを感じないので斬られた断面をぐちょぐちょと音を立てながら普通に使おうとする。
「ケイジ、カゲテル、合わせるぞ! 首を落とす!!」
「わかった!!」「了解!」
ちょうど邪魔だった尾を根本から断ち切り、ドラゴンが大きくバランスを崩した。
背を走り、飛び上がる。
「うおおおおお!!」
「そりゃああああ!!」
「でりゃああああああ!!」
3人の斬撃が重なり、ドラゴンの素っ首を叩き切る!
ようやく大暴れを止めたドラゴンに大量のスライムが群がってみるみるうちにドラゴンの巨体が吸収された。
残念ながら、魔石は存在しなかった……
ドラゴンの魔石……食わせたかった……
周囲でも死霊が一掃されていた。
防壁もボロボロだけど、なんとかビーチェの街も守れた!
「よっしゃぁ!!」
「勝ったぞ!」
「ご助力感謝するぞー!!」
「すげーぞスライム達!!」
防壁の上から衛兵から歓声を受ける。
街の方からも歓声が上がっている。
「周囲の敵は一掃したね、空気も澄んで、妙な気配は……」
【ほう……やるではないか!
よもや水玉が竜を喰うとはな!
愉快愉快!】
ビリビリと空気が震えたような気がした。
強力なプレッシャーを感じる。
見上げると、大きなコウモリがバサバサと飛んでいる。
しかし、スライム達の探知の網に、一切かからない。
そこに強大な何かがいる。ただそれだけを感じるだけだ。
【面白い……ただのゴミではないようだな。
興が乗ったぞ、貴様ら、遊んでやる。
あまり早く壊れるなよ】
「ぐっ……ど、どういうことだ!」
なんとか声を張り上げる。
【フハハハハ、面白いものを見て気分がいい。
塵芥の問にも答えてやろう。
潰した王都から各地に我が手先を産み出そう。
この世界が飲まれるのが先か、お主達が王都につくのが先か……
もし王都にたどり着けたら……そうさな、帰ってやらんこともない。
ゴミが奇跡を成し遂げるさまは愉快であろうからな】
「王都が……潰した?」
【期待せずに待ってやろう……さらばだ】
再びのこちらの問は意に介さずに、コウモリは王都の方向へ消えていった。
同時に、周囲に張り詰められていたプレッシャーも解かれた。
「……カゲテル、よく声が出せたな……」
「王都には……十万を越す民が……」
ジンゲンとケイジは真っ青な顔色になっている。
ローザも座り込んでしまっている。
今考えれば、ホントに自分でもよく声が出たなと思う。
それくらい、圧倒的な力を感じた。
「悪魔って、あんなにでたらめなの?
過去に出た悪魔ってどうやって倒したんだ?」
「軍を持って当たったり、神の助けを借りたり、しかし、世界を口にするような悪魔……」
「ケイジ、心当たりがあるのか?」
「ああ、領主だったから知っている。
500年前に一度いくつもの国を滅ぼした悪魔がいたという伝承がある。
その時は神が勇者ケイロンを遣わしてようやく滅ぼした……
それが聖国ケイロンの初代王だと」
「おとぎ話の話だね……」
よく聞くおとぎ話で似たような物はたくさんある。
悪魔だったり魔王だったり魔神だったり……
史実が元になっているものもあるのだろう。
「とりあえずビーチェに入ろう、ギルドとも話をせねばな」
「さっきレベルの侵略が他の地も起きているなら、まずいな」
「とりあえず、可能な範囲の情報は探ってみる」
スライムによる広域探索、今回の戦いでかなりのエネルギーを得ることが出来た。
コウメイと相談して効率のいいスライム運用をしなければ。
「あれ、コウメイ?」
『はい、マスター。現在進化の管理や増殖のコントロールを行っております。
少々お待ちを』
「ああ、わかった。俺たちは街へ入るからしっかりと頼む」
『お任せを……』
どんどん数も増えているし、把握するだけでも一苦労だろう。
とにかく俺たちはビーチェの街に入る。
街の人々から歓迎を受けるが、どうしてもコイタルの件が思い出されて、素直に受け入れられない。
「今考えれば、王は悪魔に魅入られていたのかもな……
そして、悪魔の気まぐれで王都ごと……」
「あの悪魔、スライムの探索に全く引っかからなかった」
「認識阻害とかそういうレベルの高位のスキルなんだろうが……
悪魔という存在自体が規格外じゃからな」
「それにしても、神気やら仙気やら、自分には程遠い力を手に入れたと思ったら……
世界はどこまでも広いな」
「Sクラスレベルになったというのに、敵がアレでは全く喜べん……」
「Sクラスって神気や仙気を使えるの?」
「そうじゃな、Aクラスでも使える者もおるぞ」
「ユキムラさんとかも……どれだけ強いんだろ」
「ユキムラか、あいつなら一人でさっきのドラゴンを瞬殺だな」
「じゃろうな」
「まじで!?」
「ああ、ユキムラはSクラスでもトップレベル。
SSクラスを作ってもいいと言われているうちの一人だからな」
「そんなすごい人だったんだ……」
あの時は、全くそんな風には見えなかったけど……
俺は、憧れの人の顔をはっきりと思い出していた。
「とりあえず、ギルドへの報告じゃな」
俺たちはギルドの扉を開いた。