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第39話 酒と雷鳴

 酒と料理、それぞれ素晴らしいものだが、2つを組み合わせると、それぞれで食すよりも高みへと至ることがある。この素晴らしい組み合わせを結婚に見立てて、マリアージュと呼ぶ。


「まさにこの2つは運命の出会いだ!」


 ケイジが叫ぶ。


「荒々しいトリプルホーンブルを素材の良さそのままに塩と少しのスパイスだけで焼き上げた肉が、このワインと共にいただくと、まるで乱暴な子供が洗練された紳士になったかのようにひとつ上の味わいに変わっていく! ワインもそうだ、少し若いゆえのエグみがあったはずなのに、まるで絹を触れるかのような柔らかさ……少年と少女が出会い恋を知り、紳士と淑女に成長したようなマリアーーーーーージュ!!」


「素晴らしい表現ですね……より一層深くこの味の真髄に近づけたような気がします」


「お酒を飲んでいるときのカゲテルはなんかおかしい……」


「ローザ、気にしちゃいけない。

 ケイジもそうだけど、こういう人間は一定数いるのじゃ」


「そうね……美味しいのは確かだから……」


 ケイジに負けじと俺もこの奇跡の出会いを表現する。


「塩竈でじっくりと焼き上げたこのシリャケの素材そのものの味。

 絶妙な塩加減で素材の可能性を限界まで引き上げている。

 そう思っていた頃もあった……

 彼女の魅力は、この優しい味わいのジンが引き出してくれた。

 素材の味はそのままが一番ではない、複雑なハーブと苦味、一切の余計を入れなかったゆえの魅力が、ジンの化粧によって、まさに花開いた!

 わずかに残った川魚特有の臭みは跡形もなく消え失せ、塩気とハーブ、そして苦味が、味わいをしっかりと際立たせて、さらに上等なものへと変えていく……

 化粧ひとつ、おしゃれひとつ知らなかった少女の蕾が、都会の洗練された男と出会い、たちまち美しい社交界の華へと変貌する。

 この2つの出逢いを表現するなら、原石の可能性……2つの出逢いに……乾杯」


「素晴らしい、素晴らしいよカゲテル!」


 俺とケイジは、いつまでも酒の魅力を語り合った……


「本当にどれも美味しい。ありがとねスライムちゃん!」


 ローザに撫でられてスライム達もプルプルと嬉しそうだ。

 酒にそこまでの執着のないジンゲンも、いろいろな種類を少しづつ楽しみながら、様々な料理と合わせている。

 全員が料理と酒を存分に楽しみながら時間が過ぎていった。


 子どもたちはすでに眠り、ローザもちょっと休憩と風呂へと向かった。


 ゴロゴロゴロ……


「あれは王都の方向か……珍しいな、この時期にあの辺りに雷鳴とは……」


「このあたりにも影響が出そうだ。

 一旦片付けようか……」


「嫌な……風だな……」


 家の扉を閉めてしばらくすると空は暗雲に包まれ、大粒の雨が大量に降り注いできた。


「珍しいですね、この時期に大雨だなんて……」


「今年の夏は荒れるかもな……南から嵐がくる年は夏前に大雨が降る」


「それだと儂の記憶では南から雨がフッた気がするが、ここは王都より南、王都が先に雨雲に包まれるのは、やはりめずらしいのでは?」


「ふむ……」


 とりあえず俺たちも風呂に入る。

 あがってくるとちょうどいい大きさのテーブルに変わっていて、いくつかの食事と酒が置かれている。

 部屋の照明も落とされまるでランプの光のように静かに揺らめいている。

 とても落ち着きある雰囲気が演出されている。


「スライム達はわかっているなぁ……

 寝しなの酒はやはり香りをゆったりと楽しみながら静かにな……」


「雷鳴の中ゆったりと語り合うのも乙であるな」


「私先に寝ますね……」


「おやすみローザ」


「スライム、ローザ達の部屋の音を抑えてあげて」


 プルプルとスライムが震えてローザの後をついていく。

 マシューやネイサンも雷鳴や雨音が強すぎると眠りにくいだろう……


「それにしても、激しい雨だな……」


「止む気配は無いね」


「さて、儂も寝るとするか……」


「なんだなんだ、まだ夜は始まったばかりだぞ」


「お前たちと違って、儂はそこまで強くないんだ。

 気持ちいいうちに夢の中じゃ」


「おやすみジンゲン」


 コウメイは引きこもっているし、俺は少し周囲の警戒を強めておいた。

 水スライムが楽しそうに外で遊んでいるのを見ると、豪雨であってもそれほど嫌な気分にはならない。


「雷も凄いな……火事など起きないと良いが」


「心配?」


「まぁ、優秀なやつはたくさん育てたし、信じている」


「そっか……この家は天井に雷好きなスライムがワクワクしながら待機しているから大丈夫。

 安心して」


「ははは、それなら安心安心、ゆっくりと酒の味と香りを楽しめる」


「やっぱり時間には勝てないなぁ……

 色々と工夫して風味豊かにはなってきているんだけど」


「そうだな、やはり悠久の時間の中でじっくりと熟成されたものは、注ぎ込まれた時間の価値が乗っている。コレばっかりは、似せられても本物にはならないだろう。

 いや、十二分に旨いぞ?」


「10年20年後に楽しむための酒造りも、夢があるね」


「そうだな。カゲテルの酒が時間を経てどうなるか……

 俺の老後の楽しみがまた一つ増えた」


「期待に添えるように、頑張るよ」


 結局、夜遅くまで二人でゆっくりと過ごした。


 雷雨は収まる気配を見せなかった……




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