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第3話 変化

「まぶし……」


 日光が俺の顔を容赦なく照らした。

 ゴザで寝たにしては、妙に寝心地が良かったように思える。


「お前ら……」


 ゴザをめくると、5匹のスライムがうすーくなって俺の体を支えるクッションになってくれていた。

 どうやら寝苦しそうにしていた俺を心配して、入り込んできたみたいだ。

 俺は優しくみんなを撫でる。


「あれ? もう一匹は?」


 昨日水に入っていったスライムが戻ってきていない。


「まさかまだ水の中にいるのか?」


 俺は小川に近づいていく。

 日の出の光を受けて輝いている小川から、スライムが上がってくる……


「なんか、色と形変わってないか?」


 なんていうか、丸く弾力のあるフォルムから、ゆるいというか柔らかい平べったい、青っぽい身体に変わっている。


『スライムが水スライムに【変化】しました。

 【水魔法】【収納】【形状変化】

 スライムマスターの効果で、テイムしたスライムが【変化】【収納】を共有します』


 頭の中に、声がした。

 この声、記憶の中のカゲテルの声だ。


「変化……?」


『火スライムに変化しました。

 【火魔法】【温熱変化】【熱変化耐性】』


「え、なに?」


『土スライムに変化しました。

 【土魔法】【硬化】【物理耐性】』


「まって、待って」


『風スライムに変化しました。

 【風魔法】【質量変化】【気配察知】

 水スライムが十分な栄養素を保有しており、【増殖】しました。

 【増殖】を共有しました』


「まってくれ、何がなんだか!」


『水スライムが【保存】を覚えました。

 【保存】を共有します』


 俺がツッコミを入れようが、頭の中にはカゲテルの抑揚のない声が次々と湧き上がってくる。

 目の前のスライムは2匹に増えているし、振り返ると石を食ってるスライムや燃えた木々を食べてるスライムがそれぞれ色が変わっている。

 水面と水スライムが陽の光を浴びてギラギラと輝いている。


「頼むから落ち着いてくれ……」


『光スライムに変化しました。

 【光魔法】【魔力探知】【意思共有】』


「落ち着け! とりあえず集まれ!」


 意思共有とやらの力か、各自自由に動いていたスライムたちが、皆俺の前に集まってきた。

 緑の普通のスライムが2匹、水色のべちゃっとしたスライムが4匹、少しゴツゴツした茶色いスライムが3匹、赤いスライムが1匹、なんというか、複雑な形態をした薄緑のスライムが1匹、薄っすらと光っている透明のスライムが1匹。

 6匹のスライムが、一瞬で倍になってしまった。

 しかも、見たこともないスライムに変わっているのもいる。

 そして、その一匹一匹から、昨日よりも明らかにはっきりとした意思が伝わってくる。

 なんというか、自分を大事に思ってくれるような気持ちが流れ込んできて、昨日の不安と相まって、思わず涙が出てしまった……

 すると、心配そうにスライムたちが集まってくる。


「そうか、なんかよくわかんないけど、みんな変わってるけど、変わってないんだな」


 自由にさせるとすぐに周囲の自分に相性のいいものを食べて増えようとする。

 火スライムからは火を起こせという強い要望を感じる。


「とにかく、一旦……そうだな、あの森へ行こう。

 あれ……そう言えば荷物は?」


 気がつくと俺の荷物が消えている。

 すると、スライムが身体からニューーーと荷物を出してくる。

 どう考えても身体に収まる大きさじゃないのに……


「す、凄い能力だな、収納ってやつかな?

 持ってくれるんだよね?」


 肯定の意思を感じる。

 おかげで俺は、荷物も持たずに歩けば良くなる。

 

「これだけでも、商売とかすれば……凄いんじゃないか?」


 しかし、それは始まりに過ぎなかった。

 俺が歩き出すと、しばらくはあとを付いてきていたが、急に足元に土スライムが潜り込んできて、座らされた。


「な、何……ってぬわーーーーっ!!」


 次の瞬間、すごい速度でスライムたちが進み始めた。

 俺と他のスライムも土スライムにくっついている。

 風スライムが俺の前に広がって風よけになってくれている。

 どうやら、風を受けているだけで何らかのエネルギーを受けているみたいで、増殖した。

 光スライムも光さえ当たっていれば同様にエネルギーを得るみたいで増えた。

 簡単に小川も超えて、指し示した森へとついてしまった。

 たぶん馬を使うよりも、疾い……


「す、凄いんだな……とりあえず、他の魔物に注意して、みんな食べたいなら食べたら?」


 おれの許可を得ると、スライムはそれぞれ散っていく。

 火スライムは近くの枯れ木を咥えると火が起きた。

 一生懸命火をおこしているので、俺は薪を拾って手伝ってやる。

 燃え上がる炎を嬉しそうに食べている。

 

『スライムを通じて他のスライムがテイムを求めています。

 応えますか?』


「うおっ! びっくりした……え? なに、応じます?」


『スライムがテイムされました。

 【感覚共有】を共有しました』


「感覚共有?」


 なんだそれは? と思ったら、スライムの見ている映像が、自分でも知覚できるようになった。

 すごい数の情報が流れ込んできて混乱したが、すぐに慣れた。


『光スライムが【情報高速処理】【高速思考】を習得しました』


 どうやらスライムが俺のために色々とやってくれているみたいだ。

 俺としては、感謝しか無い。

 どうやらスライムたちは各々の求めるものをこの森の中で好き放題ゲットしているようだ。

 俺なんかでは太刀打ちできないような魔物も、なんか魔法とか使ったりして倒して食べて、その能力を吸収していく。

 俺のための食材なんかも集めてくれて、俺は、気がつけば森の一角で快適な住居を作り上げていた……

 

 木材を切り出して組み上げられた家。

 そして、様々な家具。

 収納・保存によって様々な食材を好きなだけ利用ができる。

 動物素材だろうが、木の実、果実、きのこ、なんでも有りだ。

 土スライムは取り込んだ鉱物を加工して道具も作れるし、光スライムは照明になってくれるし、風スライムは火スライムと一緒に、肌寒くなった室内を温めてくれる。

 火起こしは火スライムがしてくれるし、毎日が天国みたいだ。


 狩猟による獲物も大量に集まるし、これを持って村に帰るってことも考えたけど……


「う……うぷっ……」


 村に帰ることを考えると、聞こえるはずのない人々の非難の声が聞こえてきて、スライムたちが心配する状態だった。


「それに、お前たちの可能性をもっと広げてやりたい」


 村に居たら、たぶん、このまんまだ。

 確かに今の生活は過ごせるが、スライムと一緒に世界を感じることは出来ない。

 両親の愛は残念ながら彼に味わわせてあげられなかったが、世界を歩く冒険は味わって欲しい。

 俺は、森全域にスライムが到達したので、次の森を目指すことを決めた。


 この頃は、まだ気がついていなかった。

 スライムマスターにとって、使役しているスライムの成長が何を意味するのかを……

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