第202話 没入
極点に至った人間と悪魔による究極と言える斬撃、無数の刃に莫大なエネルギーを乗せ敵を霧散させるまで切り刻む、本来の姿の技は今まで誰も扱うことが出来なかった幻の技を受けて……
「かっこよく締めたかったんだが……」
「相手は神だぜ、諦めろよ」
「大きなダメージを与えたことは事実ですから、同じ手は効きませんけど」
目の前に再生した天使長を見て、ため息が出た。
この世界を司る莫大なエネルギーがある限り、神の尖兵たる天使長様は何度でも蘇る。
「……それこそ、俺たちが神にならなければ、終わらないってことか」
「それはお前に任せる。俺はそんなガラじゃない」
「ずるいぞフランガ」
「任せたぞカゲテル神」
「なんだその語呂の悪い呼び方は」
「マスターは最初から私にとっては神のような存在です」
「お前まで冗談はやめろ」
「全く冗談ではありません」
「俺だってそろそろローザとディーンたちと普通の家族の時間を過ごしたいんだが」
「無理だな」
「無理ですね」
「いや、容赦ないな」
「とにかく、戦いが終わる前からそういう事を言うのは、危険だから、さっさとこいつを倒しちまおうぜっ!!」
「その通りです、変なフラグは止めてください!!」
「悪い悪い、フランガが来て気が緩んでるな」
「わーったわーったそういうのも、全部ひっくるめて、終わったあとだ」
「おうよ!」
「マスター、頑張ってください!」
永遠に続くとも思えてしまう戦いも、今の俺には悲壮感はない。
コウメイが、そしてフランガが共に戦ってくれている。
実際には瞬きするほどの刹那に幾合も打ち合いへし合いしているから思考加速で頭が沸騰しそうではあり、コウメイからの指示に必死に食いついて戦線を安定させている。
攻撃を喰らわせては相手から力を奪い取る、喰らってるわけだ。
敵は無限とも思える領域からエネルギーを補充し続けて戦い続けている。チートだ……。
フランガと俺の二人を利用してコウメイは次から次へと策を講じて敵の上手上手をいっている。
コウメイは策を講じながらも敵の魔法攻撃を一手に引き受けてくれている。
コウメイと俺とフランガ、3人をつなぐ魂のラインによってタイムラグのない思考の共有ができていることが現在戦いを有利に運んでいる大きな要因だ。
「すみませんマスター、3分ほど戦闘を任せてもいいですか?」
「さ、三分か……よし、フランガやるぞ!」
「おうよ!!」
「申し訳ありません。魔法は対応しますので」
「よっしゃ、死ぬほど気合い入れるぞっ!」
「やってやる!!」
そんなわけで、コウメイという強力な札を封印して対応するとなると、途端に必死になる。
「フランガ、右! いや上!!」
「うるせぇ、わーってる! そっちいったぞ!!」
途端にてんやわんやのバタバタになってしまう。
今まで楽にしのげていた攻撃が頬をかすめて行く、ほんの少し対応の間違いで致命的な攻撃になってしまう。
「まずいな!」
「もう1分くらいたったか!?」
「まだ5秒もたってねぇよ!!」
「まじか、あぶなっ!!」
「カゲテル! もっと俺に合わせろ!」
「フランガが俺に合わせろよ!!」
「お前の無手の戦い方は独特すぎるんだよ!」
「フランガの攻撃だって周りに広すぎて危なくて近づけねーんだよ!」
「だったら武器で戦えばいいだろ!!」
「使ってるだろ! 素手を混ぜるから敵の対応の遅れが作れるんだよ!」
「俺だって敵の回避能力を考えればこれくらいの攻撃になるのはしかたねーだろ!!」
「……確かに……」
「……まぁ、無手で状況打開する場面は何度も見たわな……」
「少し、意思疎通しながら攻めるように、するわ」
「ああ、俺も、できる限り、気をつける……わりいな……」
「いや、俺が、悪かった」
「よし、終わり終わり!! 行くぞカゲテル!!」
「ちゃんとついてこいよフランガ!!」
「お前も遅れんなよ!!」
俺もフランがも相手が何をしようとしているのかを理解しようとしながら立ち回るように変わっていく、それによって相手の考えもわかってきて、それに合わせてお互いが動くようになる。
そんな動きを繰り返していくと、どんどんと攻撃が噛み合っていく感覚がある。
今までも連携は取れている方だと思っていたが、そういう次元から逸脱していっている。
まるで自分がフランガになったような、フランガが自分になったような感覚がだんだんと大きくなっていく。
「これは……」
「なるほど、面白い。そういう狙いがあるのか」
「いや、そこで切り返すとこう動けるように考えられているのか……」
お互いが深いところでの相手の意図を理解し始める、すると、次から次へとアイデアが浮かんでくる。そのアイデアを打ち合わせをするでもなく色々と試していく。
「ははは!! なんだこれ!! こんな戦い方があるのか!」
「見える! 見なくても見える!」
味方の動きを完璧に理解できると、そこから想定される敵の動きまでも正確に予想がつく。
まるで戦いの場で踊っているかのように剣をふるい拳を交えていく。
集中力が、ひとつ上の領域に入っていくことがわかる。
これは、完全にゾーンへと入った。