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第100話 海上の決戦

「温かい……」


 不思議な光景が広がっている。

 テティスの甲板に上がっているのだが、周囲は荒れ狂う猛吹雪と高波で、とても外に居られるような状態ではないのに、周囲の海面は穏やかに揺れており、暖かいそよ風が頬を抜けている。


「魔道具による障壁で甲板周囲を保護しています」


「とんでもねーなこれ……」


「海ー!」


「あぶねーぞガキンチョ共、落ちるなよ」


「大丈夫です。転落防止対策もきちんとしております!」


「頭が混乱するわね……」


「現在低速で移動していますから、どうぞこちらをお使いください」


 外海用のごっつい釣具がセットされている。


「よし、ガウ勝負だ!」


「おうよ!」


「奥様がたにはスライムが補助しますね」


「よろしくね」


 そんなわけで、暴風の中、穏やかに釣り合戦が始まるのであった。

 スライムたちが海底を調べてくれて魚影は確認しているらしい。


「うおっ! もう食った!」


 ガウの竿がしなっている。

 最初のヒットはガウ。


「な、なんだこれ勝手に糸を引いてくれるのか?」


「説明が遅れました、かなり深くまで糸を落とすので自動的に引く形になっています。

 ある程度以上の力がかかると引くのを止めますが、竿も糸もスライムが丹念に作ったものですので、力負け以外はまず切れたり折れたりはしません」


「よっしゃ、なら思いっきりシャクってやる!」


 ぐんぐんと竿を立ててあっという間に獲物を海上に引きずり出した。

 良い形のメギラスという魚が甲板に上げられる。

 スライムがすぐに神経締めをして血抜きを行う。


「1.8m、600kg」


「よっしゃ!!」


「やるなガウ」


「いやー、楽だコレ」


 餌もスライムがつけてくれるので、再びガウは竿を出して糸を落としていくだけだ」


 そんな感じで、スライム補助による全自動の釣りは、全員が次々とヒットしていく。


「来たわよー!」


「かなり糸が暴れてるな……イサギャスか!?

 塩焼きが最高だから頑張れローザ!」


 頑張れと言っても、お腹への負担を考えてスライムが補助しまくっているので、糸が引かれるのを待つだけ状態なんだが……


「きゃー! 釣れたわー!」


 サイズは50cmほどだが、引き締まって美味そうだ。


「俺はサヴェスばっかりだなぁ……」


 数では一番だが、小型の魚しか釣れない、いや、旨いんだけどね。


「なんだなんだ、俺が一番かぁ?」


「ネイサン様が大きいのを引いたようです」


「なんか、釣ってる途中に急に勢いがすごくなったよ!!」


「ああ、途中で別のが食ったか! でかいぞ!!」


「なかなか……強いですね……」


 コウメイやスライムも慎重に対応している。

 これは大物があがりそうだ……!


「……カゲテル様、ガウ様、戦いの準備を……」


「魔物か、わかった!」


 巨大な魚影が海面に映る。

 デカすぎる。


「甲板に、あげます!!」


 ドッパーン!!

 スライムが網状になってその獲物を甲板に引きずりあげた。

 ドッタンバッタンと大騒ぎだ。


「ガルペラード!! 海の掃除屋!」


「こいつ、旨いんだよな!?」


「超高級食材だ!!」


「よーしでかしたぞネイサン!!」


 おでこが槍のようになっており大型の船も時折コイツに沈められる。

 凄まじい速度で移動するために退治するのも一苦労で、専業の冒険者が一本釣りで退治して釣り上げるのだが、一本上がれば一年は食っていけると言われるほどの高級魔物だ。

 甲板に上がってしまえば激しく動くものの、俺とガウの敵じゃない。

 一刀で首を落として、すぐにスライムが釣り上げ血抜きを行う。

 甲板の汚れはスライムたちがすぐに掃除していく。


「優勝はネイサンだな」


「ああ、今晩は鍋だな」


 血抜きを終えたガルペラードをスライムが鮮やかに解体していく。


「肝も立派ですし、素晴らしいですよネイサン様」


「えへへー」


「くっそー、次は負けねーからなー」


 大きな鍋に火をかけて肝だけを入れる。

 火にかけられて肝から滲み出してくる脂で自分自身を香ばしく焼かれてたまらない匂いが辺りを包んでいく。

 根菜や葉物をその脂でさっと炒めたら、別の鍋で骨をガンガンに煮出した汁を入れていく。

 濃厚な肝と骨から出たエキスが融合して、最高の鍋が完成する。

 あとは薄く切り出した身をさっとくぐらせて野菜と一緒に食べる。

 

「幸せだ……これは幸せの味がする……」


「うっま! これ、うっま!!」


「肝もこちらのおたまに入れて熱を入れてどうぞ」


「ぐっは!! やばい、コレはヤバい!」


 語彙がどこかへ飛んでいってしまう。


「やはり、鍋にはコレですね」


 穀物を並行複醗酵させて穀物の味わいを色濃く出した酒。

 セイシュと呼ばれる東の島国の酒から構想を得て作った新作だ。

 濃厚な汁を少しすすってから、酒を口に含むと……

 ああ、脂と出汁との相性が良すぎる……

 低くない酒精が喉を熱くさせ、穀物の奥深い甘みと、さっと切れる風味が食事をより際立たせ、次のひとくちを自然と口に運ばせる魔力がある……


「コチラ根菜と辛味のある香料を混ぜたものです。

 少量を茹でた身と合わせて野菜でくるむとまた味わいが変わりますよ」


 ……ああ、コレは罪深い。

 少しお腹が落ち着いてきたのに、さっぱりとそしてピリッとした風味が胃袋を活発にさせてしまう。


「た、食べ過ぎちゃう……」


「奥様、肝は控えめに、身の方はむしろお肉よりもヘルシーですから」


「そうよね、少し辛味があって汗もかいているから運動しているようなものよね!」


 とんでもないことを言い出してローザがおかわりをしている。


 気持ちはわかる。


 ああ、海の旅は最高だ!


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