表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第一章 青の女王
8/69

8. 猫のベニー

8. 猫のベニー


その日の朝、いつもはなかなか起きないリューイが自分から起きてきたので、お母さんはびっくりしました。


お父さんは読んでいた新聞から目を上げると、「今日は雪が()るかもしれないな」と言って笑いました。お父さんはリューイが良い子にしていると、決まって「雪が降る」と言うのです。リューイはいつも「雪が降る」とはどういう意味かと質問するのですが、お父さんは笑うばかりで答えてくれた(ためし)がありません。

質問に答えてくれないお父さんは無視して、リューイは朝ご飯を食べながら、お母さんに今日も森へ行ってもいいかと(たず)ねました。

お母さんはおばあちゃんにミルクと小麦粉とバターを届けてくれるなら行っても良いと言ってくれました。森の中にはお店が一件(いっけん)もないので、リューイはときどき、おばちゃんに必要な物を届けているのです。

お母さんは「今日は必ず明るいうちに帰ってくるのよ」と付け加えました。言いつけを守らなかったら、今度こそ(ばん)御飯(ごはん)()きにされてしまいそうです。


朝ごはんを食べ終わると、リューイは早速(さっそく)、森へ行く準備(じゅんび)を始めました。お菓子をリュックに詰め、虫カゴを首から下げ、虫取り(もう)を右手に持ち、左手にはお母さんから(わた)されたバスケットを持っています。

「なんだかすごい格好(かっこう)ね」

フューイを()っこしたお母さんが、笑いながら言いました。

お母さんは「おばあちゃんによろしくね」と言いました。それから、急に思い出したように、昨日のバスケットをちゃんと持ち帰るようにと言いました。

お母さんにそう言われるまで、リューイはバスケットを森に置いてきたことなどすっかり忘れていました。

――あちゃ~。忘れてた!

昨日はそれどころではありませんでした。どこで失くしたのか、まったく覚えていません。

リューイは、内心(ないしん)、これはヤバイことになったぞと思いましたが、なにくわぬ(ふう)(よそお)いました。

「うん、わかったよ。」

「必ず持って帰ってきてね。あれがないと困るのよ。」

リューイのことならなんでもお見通(みとお)しのお母さんは、()()しそうになるのを(こら)えながら真面目(まじめ)面持(おもも)ちで言いました。大方(おおかた)、森で道草(みちくさ)()っているうちに()くしたのでしょう。

「うん…」


リューイの声が小さくなります。バスケットを見つける自信がありません。

「じゃあ、行ってくるね。」

リューイは不安を()()すように明るく手を()りました。

お母さんは抱っこしたフューイの手を振りながら、「お兄ちゃん、いってらっしゃい」と言いました。フューイもウ~ウ~と言っています。「いってらっしゃい」と言っているつもりなのかもしれません。

「いい子にしてるんだぞ。大きくなったらお兄ちゃんが森に連れて行ってあげるからね。」

そう言って頭を()でて上げると、フューイは嬉しそうに「ア~」と返事をしました。お兄ちゃんが大好きなのです。


家を出ると、お(となり)(へい)の上に猫のベニーが()そべっているのが見えました。リューイが近寄(ちかよ)ると、ベニーはお(なか)()でてもらおうとして仰向(あおむ)けになりました。リューイは背伸(せの)びをして(へい)の上のベニーを撫でてあげました。指の先にベニーの6つのおっぱいが()れます。ベニーはつい最近まで子猫を育てていたので、おっぱいが少し(ふく)らんでいるのです。しかし、ベニーの3匹の赤ちゃんは、全部、他所(よそ)に引き取られてしまったので、可哀想(かわいそう)なベニーにはおっぱいを飲ませる赤ちゃんがいませんでした。

「そうだ!」

リューイは閃きました。ベニーのおっぱいを赤ちゃん竜に飲ませたら良いのではないでしょうか?

「ベニー、おいで。一緒に森に行こう。」

リューイはベニーに話し掛けました。ベニーは「にゃーん」と返事をしましたが、リューイの後をついてこようとはしませんでした。

「ベーーニィー」

リューイはとっておきの優しい声で呼んでみました。いわゆる猫撫(ねこな)(ごえ)というやつです。ベニーは、今度は尻尾(しっぽ)をフサァと2、3度振ってくれましたが、やはり降りてくる様子はありません。

「どうしたらいいかな。」

リューイは考えました。そしてちょっと迷ったすえ、ベニーをリュックに入れて森に連れて行くことにしました。リューイは塀の側にある大きな石の上に乗ると、動こうとしないベニーを塀から(かか)()ろしました。リューイに抱っこされたベニーは遊んでもらえると思ったのか、期待(きたい)()ちた目でリューイを見詰(みつ)めています。

このベニーというメス猫はとても大人(おとな)しくて、人懐(ひとなつ)こい猫でしたので、リューイがベニーをリックに入れてもにゃんとも言いませんでした。リューイはリュックの口を(ゆる)くして、ベニーがリュックから顔を出せるようにしました。

リューイはベニーが嫌がらないので、ベニーも森に行きたいのだろうと自分に都合(つごう)の良いように考えました。

「これでよし!」

ずっしりと重たくなったリュックを背負(せお)うと、リューイは沢山の荷物を持ってヨロヨロと森へと向かいました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ