10. 呼応する二つの魂
冷たく暗い石牢の中で、ミュウはずっと眠っていました。目を閉じて、耳を閉じて(ドラゴンの耳は顔の後ろのほうにある、小さな穴です。ドラゴンはこれを意識的に塞ぐことができます。)、心のスイッチを切って、できるだけ何も感じないようにしていました。
浅い眠りの中で、いつも考えるのは、リューイたちのこと、ユストのこと、一度だけ会った黒竜のことでした。
あの黒竜もまた、自分と同じように人間たちに酷い目に遭わされているのでしょうか。同じ境遇に置かれた身として、ミュウは密かに胸を痛めていました。
その頃、キリキアでは一人の少年も、いなくなった親友を思って胸を痛めていました。机の上には、ミュウがまだ小さかった頃、着けていた緑色の首輪が置かれていました。ミュウがいなくなってから二週間が経ちますが、依然としてミュウの消息は掴めませんでした。
ミュウがいなくなってから、リューイ達は毎日、周囲を捜索していましたが、何の痕跡も掴めませんでした。
もう少しミュウを大切にしていたら、こんなことにはならなかったのではないだろうか?どうしてもっと優しくしてあげなかったのだろう。怒ってばかりいたから、僕のことを思い出しても、嫌な気持ちにしかならないんだろうな…浮かんでくるのは、自分を責める言葉ばかりでした。
昼間は学校があるので気が紛れますが、夜、窓から荒れ果てた庭を眺めていると、「家族に見捨てられたミュウの心の中もこんなふうに荒んでいたんだろうか」と悲しくなってしまいます。
そんな夜、久し振りに森からお手紙鳥が飛んできました。そこには大きな文字で「至急!」とだけ書かれていました。リューイは胸騒ぎを覚えて、すぐにおばあちゃんの家に向かいました。急ぎ過ぎて、お母さんたちに出掛けることさえ告げずに飛び出してしまいました。
真っ暗な森は怖かったけど、目をつぶって夢中で駆け抜けたら、あっという間におばあちゃんの家に着きました。
おばあちゃんはパジャマのまま駆け込んできたユストを迎え入れると、すぐにテーブルの前に連れていきました。
そこにはユストから貰った白い魔石のペンダントが置かれていました。リューイの代わりにおばあちゃんが大切に保管していてくれたものです。
ユストの貰った時は冷たい白い石でしたが、今、魔石は心臓のように鼓動し、鼓動に合わせるかのように内部から淡い光が浮かび上がっていました。
おばあちゃんの話では、1時間ほど前に急にクローゼットの中から奇妙な音が聞こえてきたので、扉を開けてみると魔石が光っていたと言うのです。
「これは......」
リューイはごくりとつばを飲み込みました。
おばあちゃんは頷いてみせました。
「ユストさんはこの石を魔石だと言っていたわよね、リューイ。そして何かあったらこの石を通して、自分に助けを求めるようにとも。」
おばあちゃんが魔石に手を伸ばすと、驚いたことに白い石はその手から逃げるようにスススッと動きました。
リューイははっとしておばあちゃんの顔を見ました。
「リューイが来るまでに何度か試してみたんだけど、ずっとこうなのよ。」
おばあちゃんはリューイの目を見詰めると、もう一度、頷きました。
「きっと、この石はリューイにしか使えないんじゃないかしら?」
おばあちゃんに促されて、リューイが恐る恐る魔石のほうに手を伸ばしました。果たして、魔石は逃げずにいてくれるでしょうか。自分にはそんな特別な力があるとは思えません、
しかし、魔石は逃げることなく、あっさりとリューイの手に中に収まりました。いつの間にか白い光も消え、ただの白い石になっていましたが、ほんのりとした温もりが残っていました。
アーサー王とエクスカリバーのお話を読んだ子供は、100人中100人が「自分ならエクスカリバーを抜けるかも」と思うと聞いたことがあります。
この魔石も100人中100人が、「自分なら使えるかも」と思うかもしれませんね。




