6. 町の噂
6. 町の噂
ミュウは24時間、番兵たちに見張られていました。三人の番兵は交代でミュウの番をしていましたが、ミュウがまったく動かないため、暇を持て余し、ずっと賭け事をしていました。番兵たちは非常に怠惰でしたので、できるだけ楽をして金を手に入れたいと思っていました。彼らはありとあらゆる悪事を働くことを喜びとし、自分たちの悪知恵を誇っていました。
最初の頃こそ、番兵たちはミュウを恐れて近づこうとしませんでしたが、ミュウが大人しいことを知ると、暇つぶしにミュウを槍で突いて遊び始めました。ここに連れてこられてから、彼らがミュウに意地悪をしない日はありませんでした。ミュウの身体は番兵たちの何倍も大きかったので、ミュウが本気になれば、彼らをやっつけることなど簡単なはずでした。しかし、ミュウは番兵たちにやり返しませんでした。なぜなら、「人間を攻撃する」という考えが、ミュウには思い浮かばなかったからです。
底意地の悪い番兵たちに遭って、ミュウは初めて人間の中にも良い人と悪い人がいることを知りました。
――リューイ、助けて!辛いよ!苦しいよ!
ミュウは生まれて初めて、声を上げて泣きました。身を震わせて哭きました。一度、泣き始めたら涙が止まらなくなりました。ポロポロ、ポロポロ。次から次へと零れ落ちる涙が砕け散って、クリスタルの欠片になりました。クリスタルの欠片は誰にも気付かれることなく、冷たい石牢の床の上で、ただ冷たい月の光を反射していました。
幸いなことに、番兵たちは常に酔っていたので、クリスタルには気が付きませんでした。もしも、彼らがクリスタルに気が付いていたなら、もっと多くのクリスタルを手に入れようと、ミュウにどんな惨い仕打ちをしたかわかりません。
ウオォォーン、ウオォォーン
ミュウの泣き声は石牢のすべての扉をビリビリと振動させました。驚いた番兵たちはトランプを投げ捨てて逃げ出しました。入口に立っていた番兵は、持っていた槍を取り落としました。
最初は、誰も何が起こったかわかりませんでした。なぜなら、ラゴンの鳴き声を聞いたことがある人間は彼らの中に一人もいませんでしたし、ミュウは連れてこられてから、一度も鳴いたことがなかったからです。
驚きと恐怖で逃げ惑っていた番兵たちが、落ち着きを取り戻したのは、それから半時ほど経ってからでした。恐ろしい音の正体がミュウの泣き声だと知った番兵たちは、胸をなで下ろしました。ミュウならば、恐れるに足りないと思ったからです。
その日から、ミュウはずっと泣き続けました。何日も何日も泣き続けました。ミュウの泣き声は昼も夜も続き、聞く者すべてを陰鬱な気持ちにさせました。程なくして、「ドラゴンが牢に閉じ込められているらしい」という噂が町の人々の間に広がりました。
ある者はそんなものは噂に過ぎないといって、笑い飛ばしました。ある者は好奇心から牢の中を覗こうとしました。また、ある者はドラゴンを恐れて、城から遠く離れた場所へ引越そうとしました。少数の心ある者たちだけが、ミュウの泣き声に深い悲しみを感じ取り、見たこともない生き物のために胸を痛めていました。
この世界は善い人、普通の人、悪い人たちが混ざり合って構成されています。非常に残念なことですが、この世には番兵たちのような人も多く存在します。
素晴らしいことをするのも人間であれば、その一方で信じられないくらい残酷なことをするのも人間です。今の世の中はモラルや価値観が乱れ、なんでもありの状態が常態化し、加速度的に悪い方向へと向かっているように感じられます。でも、私は人間の中に残された一欠片の良心を信じたい。数は減っているけれども、少数の善い人達の存在を信じたい。
余談ですが、貴石、半貴石を含め「ドラゴンの涙」と名付けられた宝石がいくつかあるようですね。今も昔もドラゴンは人々の想像力をかきたてる存在のようです。




