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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第三章 悩める旅人
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6. 町の噂

6. 町の(うわさ)



ミュウは24時間、番兵(ばんぺい)たちに見張(みは)られていました。三人の番兵は交代(こうたい)でミュウの(ばん)をしていましたが、ミュウがまったく動かないため、(ひま)()(あま)し、ずっと()(ごと)をしていました。番兵たちは非常(ひじょう)怠惰(たいだ)でしたので、できるだけ(らく)をして(かね)を手に入れたいと思っていました。彼らはありとあらゆる悪事(あくじ)(はたら)くことを(よろこ)びとし、自分たちの(わる)知恵(ぢえ)(ほこ)っていました。


最初(さいしょ)(ころ)こそ、番兵たちはミュウを(おそ)れて(ちか)づこうとしませんでしたが、ミュウが大人しいことを知ると、(ひま)つぶしにミュウを(やり)()いて遊び始めました。ここに()れてこられてから、彼らがミュウに意地悪(いじわる)をしない日はありませんでした。ミュウの身体(からだ)番兵(ばんぺい)たちの何倍(なんばい)も大きかったので、ミュウが本気(ほんき)になれば、彼らをやっつけることなど簡単(かんたん)なはずでした。しかし、ミュウは番兵たちにやり(かえ)しませんでした。なぜなら、「人間を攻撃(こうげき)する」という考えが、ミュウには(おも)()かばなかったからです。

底意地(そこいじ)の悪い番兵たちに()って、ミュウは初めて人間の中にも良い人と悪い人がいることを知りました。

――リューイ、助けて!(つら)いよ!(くる)しいよ!

ミュウは生まれて初めて、声を上げて()きました。身を(ふる)わせて()きました。一度、泣き始めたら涙が止まらなくなりました。ポロポロ、ポロポロ。次から次へと(こぼ)()ちる涙が(くだ)()って、クリスタルの欠片(かけら)になりました。クリスタルの欠片(かけら)(だれ)にも気付(きづ)かれることなく、冷たい(いし)(ろう)の床の上で、ただ冷たい月の光を反射(はんしゃ)していました。

(さいわ)いなことに、番兵(ばんぺい)たちは(つね)()っていたので、クリスタルには気が付きませんでした。もしも、彼らがクリスタルに気が付いていたなら、もっと多くのクリスタルを手に入れようと、ミュウにどんな(むご)仕打(しう)ちをしたかわかりません。


ウオォォーン、ウオォォーン

ミュウの泣き声は(いし)(ろう)のすべての(とびら)をビリビリと振動(しんどう)させました。(おどろ)いた番兵たちはトランプを()()てて()()しました。入口に立っていた番兵は、持っていた(やり)()()としました。

最初は、誰も何が()こったかわかりませんでした。なぜなら、ラゴンの()(ごえ)を聞いたことがある人間は彼らの中に一人もいませんでしたし、ミュウは連れてこられてから、一度も()いたことがなかったからです。


(おどろ)きと恐怖(きょうふ)()(まど)っていた番兵たちが、()()きを()(もど)したのは、それから半時(はんとき)ほど()ってからでした。恐ろしい音の正体(しょうたい)がミュウの泣き声だと知った番兵たちは、(むね)をなで下ろしました。ミュウならば、(おそ)れるに()りないと思ったからです。


その日から、ミュウはずっと泣き続けました。何日(なんにち)何日(なんにち)も泣き続けました。ミュウの泣き声は昼も夜も続き、聞く者すべてを陰鬱(いんうつ)な気持ちにさせました。(ほど)なくして、「ドラゴンが(ろう)に閉じ込められているらしい」という(うわさ)が町の人々の間に広がりました。

ある(もの)はそんなものは(うわさ)()ぎないといって、笑い飛ばしました。ある者は好奇心(こうきしん)から(ろう)の中を(のぞ)こうとしました。また、ある(もの)はドラゴンを恐れて、城から遠く(はな)れた場所(ばしょ)(ひっ)()そうとしました。少数(しょうすう)(こころ)ある者たちだけが、ミュウの泣き声に深い悲しみを(かん)()り、見たこともない生き物のために胸を(いた)めていました。





この世界は善い人、普通の人、悪い人たちが混ざり合って構成されています。非常に残念なことですが、この世には番兵たちのような人も多く存在します。

素晴らしいことをするのも人間であれば、その一方で信じられないくらい残酷なことをするのも人間です。今の世の中はモラルや価値観が乱れ、なんでもありの状態が常態化し、加速度的に悪い方向へと向かっているように感じられます。でも、私は人間の中に残された一欠片の良心を信じたい。数は減っているけれども、少数の善い人達の存在を信じたい。


余談ですが、貴石、半貴石を含め「ドラゴンの涙」と名付けられた宝石がいくつかあるようですね。今も昔もドラゴンは人々の想像力をかきたてる存在のようです。


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