5. 希望と絶望の狭間で
5. 希望と絶望の狭間で
気が付いたら石牢の中にいたミュウですが、ここに連れてこられる途中、大きな黒竜の背中に乗せられて空を飛んでいた記憶がありました。
――あの竜はどこにいったんだろう? この近くにいるのかな?
空を飛んでいる間、ミュウは気力を振り絞って、何度か彼に話し掛けてみましたが、彼は何も答えてくれませんでした。もしかしたら、言葉が通じなかったのかもしれません。
その後、ミュウは痛みと寒さで気を失ってしまい、気が付いたら牢に閉じ込められていました。それ以降、彼に会うことはありませんでしたが、ミュウは時々(ときどき)、あの竜のことを思い出していました。彼も自分と同じように何処かから攫われてきて、悪い奴らに無理やり働かされているのかもしれません。だとしたら助けてあげなければならない。ミュウは自分自身が捕らわれの身であるにもかかわらず、彼のことを心配していました。
ミュウは彼の固い背中を思い出しました。黒竜の背中には大きな岩のような瘤がいくつもあって凸凹しており、そのせいで、ミュウは彼の背中にから何度も落ちそうになりました。その度にミュウは彼の背中に爪を立ててしまったのですが、彼は痛がる素振りも見せませんでした。
――あんなにたくさんの瘤があるなんて、普通じゃないよね。何か悪い病気にでもかかっているのかな?だとしたら、尚のこと、助けてあげなくちゃ。
もしかしたら、彼も自分と同じように劣悪な環境に閉じ込められているうちに、悪い病気に罹ってしまったのかもしれません。現に、ミュウも石牢の湿気のせいか、それとも排泄物を掃除してもらえない不衛生な環境のせいか、全身に赤い発疹のようなものができていました。
――もしも、ここから出られたら…そんなことができるかどうかわからないけど。彼も必ず助け出してあげよう。
ミュウは、心の中で誓いました。ミュウの心は希望と絶望の間を常に揺れ動いてはいましたが、すべての希望を失うには若過ぎました。
この時、ミュウはまだ一歳でした。
どんなに絶望的な状況でも、一晩寝ると、朝には再び希望が湧いてくる…それが若さというものではないでしょうか。
ところで皆さんは、「竜」と「龍」の違いをご存じですか。
厳密な定義はないようですが、日本のファンタジー界では西洋的なドラゴンを「竜」、東洋的なものを「龍」としているようです。




