4. 月の雫
タイトルの「月の雫」は、ドラゴンの涙を指しています。
「月の雫」の画像を貼りたいと思ってインターネットで検索したのですが、スイーツとか、お酒しかヒットせず、良い画像が見つかりませんでした。
4. 月の雫
――ミュウ!
どこかから、眠りを呼び覚ます声が聞こえます。閉じられた瞼の下で眼球が盛んに動き、四肢がピクピクと痙攣しました。
――だれ?
ミュウは重たい体を起こしました。
――ボクを呼んでいるのはだれ?
自分でも気づかぬうちに、ミュウは声のする方へと走り出しました。しかし、後ろ足に何かが引っ掛かって、すぐに転んでしまいました。体が鉛を飲み込んだように重く、思うように動かせません。
それでもミュウは本能的に前へと進もうとしていました。誰かが…よく知っているはずの誰かが呼んでいます。
――ミュウ!
再び自分を呼ぶ声がして、ミュウはやっと声の主がわかりました。
――リューイ!
ミュウは必死になって短い脚を動かし、なんとか身体を起こしました。そして自分が冷たい石牢に横たわったまま、もがいていたことに気が付きました。夢の中で足に引っ掛かった何かは、後ろ足に着けられた重たい足枷でした。
がらんとした石牢にはミュウの荒い鼻息だけが反響していました。石牢の隅にいた一匹の鼠がミュウの動きに驚いて一瞬、立ち止まり、すぐにどこかへと消えていきました。
――夢か......
強い失望を覚えたミュウは、ドサッと体を横たえました。
あれから何日が経ったのでしょうか。体の痺れは未だにとれず、頭もぼうっとしたままです。
ここに連れてこられてから数日間、ミュウはずっと浅い眠りの中を漂っていましたが、夢はいつも失望に終わりました。
――リューイ......もう会えないのかな?
悪人どもに攫われる前の数ヶ月間、ミュウはリューイを徹底的に避けていました。なぜなら、ミュウは口うるさいリューイに嫌気がさしていましたし、人間に合わせる生活も窮屈に感じ始めていたからです。今となっては、あんな状態のままリューイと別れてしまったことが悔やまれてなりません。
――こんなことになるんだったら、もっと仲良くしておけばよかった......
ミュウが急にいなくなって、リューイはどう思ったでしょう。ミュウが自分から出ていったと思ってはないでしょうか。
――リューイ、ボクは勝手に出ていったんじゃないよ…ボクは…ボクは気が付いたらここに閉じ込められていたんだよ!
あの夜、首に焼けるような痛みを感じて――気が付いたときには、暗い石牢に閉じ込められていたのです。いったい、ここは何処なのでしょうか。ミュウは自分が地の果てにいるように感じていました。
目の前の現実から目を逸らしたくて、ミュウはそっと瞳を閉じました。その瞬間、涙が一粒、零れ落ち、冷たい床に当たって砕けました。微かに差し込む月明りの中で、竜の子が流した涙はキラキラと輝くクリスタルの欠片になりました。
ちょっと話がずれますが、ドラゴンでさえ、家族が煩わしいと思うことがあるようですね。
多くの人は忘れているようですが、家族とは本来、面倒なものなんです。家族でも、恋人でも、友人でも、面倒なことを乗り越えた先にしか、愛や絆を生まれないと思いませんか。
現代人は面倒なことをできるだけ避けて、簡単に、お手軽に愛を得ようとしてしまいますが、どんなに便利な時代になっても、愛だけは簡単に手に入らないんですよね。
家族って煩わしい。けれど、愛しい。




