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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第三章 悩める旅人
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2. 空っぽの

2. (から)っぽの(にわ)



「あっ!ミュウっ!」

リューイは(いそ)いで手を()ばしましたが、その手は(むな)しく(くう)()くばかりでした。暗闇(くらやみ)の中で(うす)れていくミュウの背中(せなか)を、リューイは(いそ)いで()いかけました。しかし、ミュウは()(かえ)りもしませんでした。

――ミ、ミュウ!

(のど)()まって声が出ません。足も思うように前に出ません。


リューイはそこではっとして()()きました。

――ああ、(ゆめ)か。夢でよかった…なんて気持(きも)ちの(わる)い夢を見たんだろう。

寝ている間に()っていたのか、ブランケットが足に(から)まっていました。

――ああ、(こわ)かった…

リューイは(ふる)える手で顔を(おお)いました。次の瞬間(しゅんかん)、なにか(ぬめ)るものに指が()れて、リューイは(あわ)て顔から手を(はな)しました。なぜか顔中(かおじゅう)がヌメヌメするもので(おお)われています。月明(つきあか)りの中で(あわ)てて手を見ると、()れた指先(ゆびさき)(ひか)っていました。

リューイは(おそ)(おそ)る手を()ばして、もう一度、自分の顔を(さわ)ってみました。そこでようやくヌメヌメするものの正体(しょうたい)脂汗(あぶらあせ)であることに気が付きました。()()けば、体中(からだじゅう)(あせ)でびっしょりです。

――脂汗(あぶらあせ)って、本当に(あぶら)(あせ)なんだ。すごくヌルヌルする............

部屋の中は邪悪(じゃあく)気配(けはい)()()()めており、リューイはブルッと体を(ふる)わせました。()(もの)としての本能(ほんのう)が頭の中で(さか)んに警鐘(けいしょう)()らしています。部屋の(すみ)何者(なにもの)かが()(ひそ)めているような気がしてなりません。

どこからか冷たい風が()いてきて、リューイは再び体を(ふる)わせました。

――あ、(まど)()いてる。()る前に()めたはずなのに。

カーテンの隙間(すきま)からは、巨大(きょだい)な赤い月が(のぞ)いていました。あまりの大きさに、(ゆめ)とも(うつつ)とも見当(けんとう)がつきません。

――真っ(まっか)だ...こんな月、見たことない。それに、ものすごく近い…

クレーターさえも見えそうな(ちか)さに恐怖(きょうふ)(かん)じて、窓に近寄(ちかよ)るのさえ躊躇(ため)らわれました。

――今まで、一度だって月を(こわ)いなんて思ったことはなかったのに…





挿絵(By みてみん)






しかし、月を(おそ)れる気持ちよりも、窓を()めて身を守りたい欲求(よっきゅう)のほうが(まさ)り、リューイは(おそ)(おそ)る窓に近づきました。ふと下を見ると、月の光に()らし()された庭がやけにガランとして見えました。

――なんでだろう…

しばらく考えて、リューイはその理由(りゆう)に気が付きました。

――あっ!ミュウがいない!どこに行ったんだろう?

リューイは庭の(すみ)から(すみ)まで視線(しせん)(はし)らせましたが、やはり、ミュウの姿(すがた)はどこにも見当(みあた)たりませんでした。

――ドクン、ドクン、ドクン

耳の中で自分の鼓動(こどう)がやけに大きく聞こえます。階段(かいだん)()()りて庭へ()()(あいだ)も、頭の中で低い声が、しきりに(ささや)()けてきました。

――(おそ)い。(おそ)い。もう手遅(ておく)れだ。


「っ!」

玄関(げんかん)から()()したリューイは、庭に(ただよ)強烈(きょうれつ)邪気(じゃき)()てられて、一瞬(いっしゅん)()(うご)きが出来(でき)なくなりました。庭に()()める邪気(じゃき)は、粒子(りゅうし)存在(そんざい)さえ感じさせるほど濃密(のうみつ)でした。リューイは死臭(ししゅう)など一度も()いだことがないにもかかわらず、一瞬(いっしゅん)()(しゅう)()いだような気がしました。


「リューイ…」

(おどろ)いたことに庭には先客(せんきゃく)がいました。


――ドクン、ドクン、ドクン

得体(えたい)()れない恐怖(きょうふ)鼓動(こどう)は大きくなるばかりです。

()(かえ)(ささや)き。

――(おそ)い。(おそ)い。もう手遅(ておく)れだ。

――ドクン、ドクン、ドクン


「お父さん…」

()(かえ)ったお父さんの手には一本の矢が(にぎ)られていました。




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