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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第二章 幻を見る者
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25. ミュウ、初めての雪合戦をするの巻



25. ミュウ、初めての雪合戦をするの巻



朝ごはんを食べ()えたリューイは、(いきお)いよく外に()び出すと、走りながらミュウに声を()けました。

「ミュウ、おいで。学校に行くよ。」

グルル~♪

ミュウは機嫌(きげん)良く(こた)えると、(つばさ)(ひろ)げてリューイの(あと)()いかけました。


「お~い、みんな~。おはよう!」

「あっ、リューイ、おはよう。雪合戦(ゆきがっせん)(はじ)まっているよ!早くこいよ!」

「うん、入れて!入れて!」

リューイが雪合戦をしている子供たちに手を()りながら()()ると、子供たちの頭上(ずじょう)の大きな(かげ)()し、ミュウが悠々(ゆうゆう)と校庭(こうてい)()()りました。劇的(ドラマチック)登場(とうじょう)に、子供たちから歓声(かんせい)()がります。

「わぁ、ミュウだっ!」

「すご~いっ!()べるようになったんだね!」

(ひさ)()り!」

「大きくなったねえ。」

「いいコにしてた?」

(みな)はミュウに()()ると、頭や背中(せなか)をなでてくれました。

――なでなでされるのすっき~♪もっとイイコ、イイコして~♪

ミュウは()()されるすべての手に頭をこすりつけました。

その様子(ようす)に、リューイまでもが(うれ)しくなります。よく(かんが)えてみれば、教室(きょうしつ)に入れなくてもみんなと一緒(いっしょ)(あそ)ぶ方法はいくらでもあったのです。こんなに(よろこ)んでくれるのであれば、もっと頻繁(ひんぱん)学校(がっこう)()れてくるべきでした。


ミュウの挨拶(あいさつ)がすむと、リューイとミュウは早速(さっそく)、雪合戦に参加(さんか)することにしました。しかし、(だれ)もが自分(じぶん)たちのチームにミュウを()れさせようとしたので、子供たちの(あいだ)でちょっとした(いさか)いが始まってしまいました。結局(けっきょく)、じゃんけんで()ったチームがミュウを取り、リューイは()けたチームに入ることになりました。

ミュウにとっては、(はじ)めての雪合戦です。雪合戦が(なん)なのかよくわかりませんが、何かとても楽しい事のようです。子供たちの興奮(こうふん)伝染(でんせん)して、ミュウもワクワクしてきました。


「よ~し、じゃあ始めるよぉ。」

子供たちはじゃんけんが()わるなり、いきなり雪の玉を()げ始めました。

――ちょっと、ちょっと、()ってよ!何、コレ!?なんかいっぱい()んできているんですけどぉ!

(だれ)もミュウに雪合戦のルールを説明(せつめい)してくれなかったため、ミュウはただ()()っているだけでした。

「ミュウ、一番(いちばん)前に()っていて!僕たちはミュウの(うし)ろから(ゆき)()げるから!」

どうやら、ミュウを()きた(たて)にするつもりのようです。雪の玉が全部(ぜんぶ)、ミュウに集中(しゅうちゅう)します。

――やめてよ~!なんて野蛮(やばん)(あそ)び!ボク、これ(きら)い!

ミュウは(おどろ)いて(あと)ずさりを始めました。ミュウの大きなお(しり)()されて、ミュウの(うし)ろでちょっとしたパニックが()こりました。

「ちょっと、ミュウ!()がってこないで!」

「おいっ!()すなよっ!」

「だって、ミュウが――」

わあ、わあ、きゃあ、きゃあ、大騒(おおさわ)ぎです。(ころ)んだり、(たお)れたり、長靴(ながぐつ)()げて靴下(くつした)のまま()()す子もいました。何人(なんにん)かがミュウのお(しり)下敷(したじ)きになりましたが、雪がクッションの役目(やくめ)()たしてくれたため、(さいわ)いにも怪我(けが)はしませんでした。


ミュウを獲得(かくとく)できなかったチームの子たちは、「ミュウがいるほうが、()ちにきまってるじゃん」とか、「ずる~い」などとブウブウ文句(もんく)()っていましたが、ミュウのへたれぶりを()にすると、俄然(がぜん)(いきお)いづきました。

「見ろよっ、ミュウがビビっているぜっ!」

「体は大きくても、弱いなあ。」

「いいぞ!やっちまえ!」

()(まど)うミュウチームに向かって、雪の玉がビュン、ビュン()んできます。容赦(ようしゃ)がありません。

「ちょっと()って!()って!」

「タイムっ!タイムだってばっ!」

ミュウチームの子たちは口々(くちぐち)にタイムを要求(ようきゅう)しますが、相手(あいて)チームは(まった)()()れてくれません。


()かねたリューイは一旦(いったん)戦線(せんせん)離脱(りだつ)すると、ミュウに()()りました。

「ミュウ、(あと)ずさりしちゃダメだよ!(うし)ろにいる子たちが(つぶ)されてしまうよ!前に()て!」

リューイの言葉(ことば)で、ミュウはようやく(あと)ずさりを()めました。それを見て、()げ出した子供たちも次々(つぎつぎ)に(もど)ってきました。この時点(じてん)で、子供たちの(くつ)の中はびしょびしょです。


そこから、体制(たいせい)()(なお)したミュウチームの(もう)反撃(はんげき)が始まりました――と、()いたいところですが、残念(ざんねん)ながらそうはなりませんでした。ミュウは子供たちに()されながら、嫌々(いやいや)、前へ(すす)み始めました。

しかし、(てき)チームは警戒(けいかい)して、じりじりと後退(こうたい)していきました。

「こっちに()たぞ!」

()()けろっ!」

ミュウがどんなポテンシャルを()めているか、(はか)りかねているようです。

しかし、後退(こうたい)しながらも、五月雨式(さみだれしき)(ゆき)(だま)()げることは(わす)れません。

「ミュウ!がんばって!」

「もっと前へ出て!」

――子供たち、やめろぉ~。

ミュウは何度(なんど)(うし)ろを()(かえ)りましたが、子供たちは()すのを()めません。どうしていいかわからなくなったミュウは、尻尾(しっぽ)をブンブン()(まわ)しました。すると、偶然(ぐうぜん)にもミュウの尻尾(しっぽ)()んでくる(ゆき)(だま)(たた)()としました。

「やったっ!」

「いいぞっ、ミュウ!」

ミュウはよくわからないまま、尻尾(しっぽ)()(まわ)しています。さらに何発(なんぱつ)かの(ゆき)(だま)が、ミュウの尻尾(しっぽ)()()とされました。

「フッ、フフッ」

「フハハハ」

すごいんだか、へなちょこなんだかよくわからないミュウの(わざ)に、(みな)から(わら)いが()れました。

「ハハハッ、ミュウ、すごいぞ~!」

「えらい、えらい!」

「火を()いて、あいつらやっつけちゃえ!」

(ちが)うよ、水だよ、水!ミュウ、水を()いて!」

ミュウの脱力感(だつりょくかん)満載(まんさい)(わざ)戦意(せんい)喪失(そうしつ)した子供たちは、雪玉を作る手を(やす)めて、口々(くちぐち)に勝手(かって)なことを()()しました。「楽しい」、「可笑(おか)しい」、「面白(おもしろ)い」。様々(さまざま)な感情(かんじょう)(うず)となってミュウの中に(なが)()んできました。

――エヘヘ、ボクってすごい!?

ミュウはフルフルと(つばさ)(ふる)わせました。ここへきて、やっとミュウにも雪合戦の楽しさがわかってきたようです。


ワンッ、ワンッ

どこから校庭(こうてい)(はい)ってきたのか、野良(のら)(いぬ)(あらわ)れて、わあ、わあ、きゃあ、きゃあ(さわ)ぐ子供たちの(まわ)りを()()ねるように(はし)(まわ)りました。



「楽しそうだなあ、子供たち…」

職員室(しょくいんしつ)(まど)から雪合戦の様子(ようす)を見ていたアベロ先生は、()らず()らずのうちにそんな言葉(ことば)(つぶや)いていました。

――いいなぁ~、(おれ)も雪合戦がしたいな~

「お~い、アベちゃ~ん!」

そんなアベロ先生の心の声が聞こえたのか、子供たちはアベロ先生に()かって手を()りました。

「せいせ~い、一緒(いっしょ)に雪合戦しようよ!」

「こっちのチームに(はい)って!」

アベロ先生は(まど)から()()()しました。

「えっ!先生も仲間(なかま)()れてくれるのかいっ!?」

「うん!」

「ってか、仲間(なかま)(はい)ってくれないと(こま)る。」

「そうだよ!先生、あっちはドラゴンがいるんだよ。(たす)けてよ。」

「よしっ!先生に(まか)せとけっ!」

自尊(じそん)(しん)をくすぐる子供達の言葉に、アベロ先生は(いち)()もなく職員室(しょくいんしつ)()()しました。


「先生、早く、早く!」

「こっち、こっち!」

(てき)チームが(さか)んにアベロ先生を手招(てまね)きしています。

「ほら、見てよ!あっちにはミュウがいるんだよ!ずるいでしょ?」

「ドラゴンを味方(みかた)につけるなんて卑怯(ひきょう)だよね?」

じゃんけんで()めたにも(かか)わらず、(てき)チームはまだミュウたちを卑怯者(ひきょうもの)(あつか)いしています。

「よ~し、わかった。()ってろよぉ、先生がへなちょこドラゴンをやっつけてやるからな!」

アベロ先生は雪をたっぷり(すく)()ると、あっという()に大きな雪玉を作りました。

「うわぁ、先生、何それ!」

「大きいっ!」

サッカーボールほどの雪玉に、どっと笑いが()きました。

「すごい!すごい!」

「先生、やっちゃえ!」

子供たちにおだてられて、アベロ先生はますます調子(ちょうし)()りました。

(おれ)のボールを()けてみろっ!」

先生はミュウ目掛(めが)けて、大きな雪玉を()げました。大人(おとな)なだけあって、アベロ先生の()げる雪玉は()距離(きょり)も長く、(ねら)いも正確(せいかく)でした。

ギャオォォォ

急所(きゅうしょ)である眉間(みけん)に雪玉が()たり、ミュウが思わず()えました。怪獣(かいじゅう)映画(えいが)さながらの迫力(はくりょく)に、子供たちの(うご)きが()まりました。

「すげえ、()えてる…」

本物(ほんもの)のドラゴンみたい…」

「うん…」

大迫力(だいはくりょく)咆哮(ほうこう)度肝(どぎも)()かれた子供たちの口から、(つぶや)きが()れました。しかし、アベロ先生はミュウの咆哮(ほうこう)にますます闘争(とうそう)(しん)()()てられたようで、雪玉を投げる手がどんどん加速(かそく)していきます。

「うぉぉぉ~」

目にも()まらぬ(はや)さで雪玉を()げだしたアベロ先生は、(うで)が3本も4本もあるように見えました。

――やばい…もしかしたら、ボク、退治(たいじ)されかけている…?

ミュウの脳裏(のうり)に、以前(いぜん)、リューイが()んでくれたドラゴン退治(たいじ)物語(ものがたり)(よみがえ)りました。


アベロ先生の加勢(かせい)によって、(てき)チームは(ふたた)(いきお)いを()(もど)しました。子供たちが雪玉を1つ()げる(あいだ)に、アベロ先生は3つも4つも()げてきます。(てき)チームの子供達はせっせと雪玉を作っては、アベロ先生に雪玉を(わた)しています。

「やべぇ、アベちゃん…」

「先生、ずるい!本気(ほんき)()げてるっ!」

大人(おとな)のくせに、手加減(てかげん)しないのかよっ!」

「ずるい、ずるい!」

ミュウチームからブーイングの(あらし)が起こりました。

――大人気(おとなげ)ない…

とミュウが思ったかどうかはわかりませんが、ミュウは(つばさ)(ひろ)げて子供たちを(まも)りながら、カカカカッとアベロ先生を威嚇(いかく)しました。ミュウが()まれて(はじ)めてクラッキングをした瞬間(しゅんかん)でした。ドラゴンをクラッキングさせるなんて、アベロ先生はある意味(いみ)最強(さいきょう)です。


キンコーン、カンコーン、キンコーン、カンコーン

始業(しぎょう)10分前のチャイムを合図(あいず)に、子供たちにとっては数年(すうねん)ぶり、そしてミュウとっては(はじ)めての雪合戦が終了(しゅうりょう)しました。(みな)気持(きも)ちの()疲労感(ひろうかん)(かん)じていました。

「みんな、昇降(しょうこう)(ぐち)でちゃんと雪を(はら)()としてから教室(きょうしつ)に入るんだぞ。じゃないと、教室(きょうしつ)がびしょびしょになるからな。」

「は~い」

チャイムと同時(どうじ)に、子供たちは学校に来た本来(ほんらい)目的(もくてき)(おも)()し、アベロ先生も「大きいお兄さん」から「先生」に(もど)りました。



「あ~、今日も充実(じゅうじつ)した一日だったなぁ~。」

残業(ざんぎょう)時間(じかん)、アベロ先生は職員室(しょくいんしつ)でお(ちゃ)()みながら(つぶや)いていました。その日は快晴(かいせい)だったので、午後(ごご)には雪も完全(かんぜん)()けてしまい、子供たちは授業(じゅぎょう)()わるとすぐに帰ってしまいました。

「もっと雪合戦したかったな~。また、雪が()らないかな~」

今日は突然(とつぜん)のお(さそ)いだったため、アベロ先生はスラックスのまま雪合戦に参加(さんか)してしまいました。

――今度(こんど)、雪が()ったら、ジャージに着替(きが)えておこう。

今からやる()満々(まんまん)のアベロ先生でした。


その(ころ)、リューイも家で食後(しょくご)牛乳(ぎゅうにゅう)()みながら(つぶや)いていました。

「あ~、今日も楽しい一日だったなぁ~。」

お昼休みには、(どろ)()じりではありますが雪だるまも作れました。

()沢山(だくさん)な一日を終え、リューイは大満足(だいまんぞく)でした。ミュウも楽しんでくれたようで、なによりです。

リューイと目が合うと、(にわ)()ていたミュウは口の中が見えるくらいの大きな欠伸(あくび)をし、それからうにゅ~と()びをして、(ふたた)び目を()じました。(こころ)なしか口元(くちもと)(わら)っているように見えます。

――ミュウ、また雪が()ったら、一緒(いっしょ)に学校に行こうね。

リューイは心の中でミュウにそう(はな)()けました。







さて、これで第二部は終了です。ここまで読み続けてくださった皆さま、本当にありがとうございます。

ここで、一旦、休眠に入らせていただきます。第三部が始まるまでには間があいてしまうと思いますが、気長にお付き合いいただければ幸いにございます。


第三部も引き続き宜しくお願い致します。



挿絵(By みてみん)

画像:地獄谷温泉のニホンザル


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