表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第二章 幻を見る者
56/70

24. 泡沫の夢

24. 泡沫(うたかた)(ゆめ)



「なんだろう…(まぶ)しい…」

カーテンを(とお)して()()んでくる光が(まぶ)しくて、リューイはいつもより早く目を()ましました。時計(とけい)を見ると 5時をちょっと(まわ)ったくらいでした。

――もしかして、この白さは…

リューイは()()きると、(いきお)い良くカーテンを()けました。

「うわ~!雪だぁっ!」

リューイは歓声(かんせい)をあげました。夜の(あいだ)()()もった雪で、(あた)り一面(いちめn)、銀世界(ぎんせかい)でした。


キリキアでは雪が()ることは滅多(めった)にありませんでしたから、子供たちはほとんど(ゆき)(あそ)びをしたことがありませんでした。リューイも()まれてから(かぞ)えるほどしか雪遊びをしたことがありません。しかし、大陸(たいりく)から(なが)()んできた寒波(かんぱ)影響(えいきょう)今日(きょう)記録的(きろくてきな)大雪(おおゆき)のようです。これなら雪合戦(ゆきがっせん)もできそうですし、(ゆき)だるまも作れるかもしれません。


興奮(こうふん)ですっかり目が()めてしまったリューイは、いそいそと学校へ行く準備(じゅんび)(はじ)めました。学校が(はじ)まるまでにはまだ2時間近(ちか)くありましたが、二度(にど)()などできそうにありません。

――今日は早目(はやめ)に学校に行って、みんなで雪合戦(ゆきがっせん)をしよう!

きっと、みんなも雪合戦(ゆきがっせん)がしたくて、早く来ているはずです。

――雪合戦(ゆきがっせん)(あと)は、大きな雪だるまを作ろう!みんなで作れば、すごく大きな雪だるまができるはず!

今日は楽しい(こと)目白押(めじろお)しで、考えただけでワクワクします。

だけど、さっきから何か肝心(かんじん)(こと)(わす)れているような気がします。リューイは手を()めました。

――なんだろう…

カチッ

何かが(あたま)の中でカチッと()っています。

――(おも)()せ。

カチッ

――なんだっけ?

カチッ

大切(たいせつ)な何か…絶対(ぜったい)(わす)れてはいけない何か…

カチッ

――そうだよ、アレ、アレっ!

カチッ

――?!

「あ“ーっ!ミュウっ!」

リューイは(おも)わず大きな声を出しました。

(わす)れてた!ミュウっ!ミュウはどこっ?!」

リューイは(ふたた)窓辺(まどべ)()()ると、()()()して(そと)様子(ようす)確認(かくにん)しました。(にわ)()(なか)には白い小山(こやま)出来(でき)ています。

――しまったっ!

「まさか…」

(かお)からサーッと()()()いていくのが、自分(じぶん)でもわかりました。

「どうしよう…」

リューイはパジャマのまま(そと)()()しました。


(あさ)(にわ)は光を反射(はんしゃ)して(まぶ)しいほどでした。ミュウに(よご)された(にわ)も今は雪化粧(ゆきげしょう)をされ、清浄(せいじょう)雰囲気(ふんいき)(つつ)まれていました。しかし、いつもとは(ちが)(しず)けさが、不吉(ふきつ)(こと)前兆(ぜんちょう)のように(かん)じられました。そして、何よりも不吉(ふきつ)だったのは、庭の()(なか)にある白い小山(こやま)が、リューイの目には墳墓(ふんぼ)のように(うつ)ったことでした。

リューイは小山(こやま)(はし)のほう――ミュウの顔が()もれていると思われる(あた)り――の雪を手で()(かえ)しました。しかし、雪の下からは生き物の気配(けはい)(まった)(かん)じられませんでした。リューイが雪を()(かえ)している振動(しんどう)は、雪の下のミュウにも(つた)わっているはずなのに…

――ミュウっ!ミュウっ!()きていてっ!

もしかしたら、まだ()()うかもしれません。

――だけど、もしも手遅(ておく)れだったら…

リューイはブルっと体を(ふる)わせました。

――どうして、ミュウにもっと(やさ)しくしてあげなかったんだろう。どうして、もっと一緒(いっしょ)()てあげなかったんだろう。どうして、もっと大好(だいす)きって(つた)えてあげなかったんだろう。どうしてもっと()めてあげなかったんだろう。どうして…どうして…

リューイは嗚咽(おえつ)()らしながら、雪を()(かえ)していました。後悔(こうかい)(ねん)ばかりが、()()げてきます。リューイには(あやま)らなければならないことが、沢山(たくさん)ありました。

――ごめんね。ごめんね。ミュウはちっとも悪い子じゃなかったのに、(ぼく)…ミュウのこと、(おこ)ってばかりで…

雪を()(かえ)しながら、リューイは心の中で何度(なんど)もミュウに(あやま)りました。(かんが)えてみれば、ミュウとは()らし(はじ)めてから、まだ一年ぐらいしか()っていません。ミュウとの()らしがこんなにも早く()わってしまうなんて…今となってみれば、(みじか)(ゆめ)を見ているようでした。

そのときです。リューイの指先(ゆびさき)に何かが()れました。雪の下に黒っぽいものが見えます。

――あっ!

リューイは(のこ)った雪を(いそ)いで(はら)()けました。雪の下から(あらわ)れたのは、いつもよりも黒っぽく見えるュウの顔でした。(ひとみ)(かた)()じられたままです。

「ミュウ!」

リューイは(さけ)びました。


ミュウは(ゆめ)を見ていました。人間の子供と一緒(いっしょ)()らす夢です。二人で遊んだり、学校へ行ったり、(とき)にはいたずらをして(しか)られて、一緒(いっしょ)家出(いえで)をしたりもしました。それらの風景(ふうけい)が、走馬灯(そうまとう)のように(つぎ)から(つぎ)へと()かび()がっては()えていきます。

――楽しかったけど、あっという()だった..

ミュウは自分の人生(じんせい)を、他人事(たにんごと)のように(おも)(かえ)していました。長いドラゴンの人生(じんせい)では、人間の子供と()らした時間(じかん)はほんの一瞬(いっしゅん)で、まるで泡沫(うたかた)(ゆめ)を見ているようでした。あれは本当(ほんとう)にあった出来事(できごと)だったのでしょうか。

半分(はんぶん)冬眠(とうみん)状態(じょうたい)(はい)っているミュウは、意識(いしき)(うす)れ、脈拍(みゃくはく)極端(きょくたん)()がっていました。

「ミュウ!」

(とお)くから(だれ)かの声が()こえます。

――この(こえ)()ってる…

「ミュウ!」

――この声…(ゆめ)の中に出てきた子の声だ!

ミュウの目がパチッと(ひら)きました。

グルルルー

大きく(いき)()った途端(とたん)、ミュウの心臓(しんぞう)(いきお)いよく(うご)(はじ)め、血が(ふたた)(めぐ)(はじ)めました。

「ミュウっ!よかった!()きてるっ!()きてるっ!」

リューイはパジャマが()れるのも(かま)わずミュウの首に()きつきました。

「ミュウっ!ミュウっ!」

リューイに()きつかれたミュウは不思議(ふしぎ)そうに首を(かし)げました。リューイに()きつかれたまま、体を(ふる)わせて()もった雪を()()とします。

「ミュウっ!ミュウっ!よかった…」

()()った体にはリューイの(なみだ)が、とても(あつ)(かん)じられました。ミュウはリューイの熱烈(ねつれつ)愛情(あいじょう)表現(ひょうげん)戸惑(とまど)いつつも、リューイの顔を(やさ)しく()めてあげました。

「ミュウ、今日は一緒(いっしょ)に学校へ行こう。」

リューイの提案(ていあん)に、ミュウは(うれ)しそうに(のど)()らしました。




このお話を書いているうちに、先代の猫を思い出しました。その子はとても優しい子でしたが、当時、私は本当に忙しくて、あまりかまってあげられませんでした。優しい言葉や誉め言葉も、あまりかけてあげなかったように思います。

これから先もずっと一緒にいられると思っていたので、「休みが取れたら、遊んであげよう」「時間が取れたら、思う存分、甘やかせてあげよう」と思っているうちに、急に様子がおかしくなり、気が付いたときにはぐったりしていました。病院へ連れていっても原因はわかりませんでしたが、それから24時間も経たないうちに亡くなってしまいました。

あの時ほど自分を責めたことはありません。泣いて謝って、遺体を抱き締めて、キスをして、なんとか奇跡が起こって、息を吹き返してくれないかと一晩中、待ちましたが、奇跡は起こりませんでした。

先代の子が亡くなってから、遺体に向かってたくさん謝って、「優しい笑顔が大好きだったこと」、「可愛い鳴き声にいつも癒されていたこと」、「穏やかな性格が大好きだったこと」などを何度も伝えましたが、あまりにも遅すぎました。あの子は自分がどれだけ私に愛されているか知らないままに逝ってしまったのです。天国で聞いていたら、「ええっ、私ってそんなに愛されていたの!?」とびっくりしたことでしょう。

天国で再開したら、今度こそ、言葉を惜しまず、たくさん愛を伝えるつもりです。

皆さんも愛する人や家族には先延ばしをせずに、今、愛を伝えてくださいね。目の前にいる人は永遠の存在ではないのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ