表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第二章 幻を見る者
54/70

22. ミュウが庭に本格的な巣穴を作り始めました。

22. ミュウが(にわ)本格的(ほんかくてき)()(あな)を作り始めました。



しばらくすると、ミュウはさかんに()ばたきをして、()練習(れんしゅう)をするようになりました。ミュウが()ばたきをする(たび)に、(にわ)草木(くさき)がなぎ(たお)されていきます。しかし、被害(ひがい)はそれだけにとどまりませんでした。リューイとの生活で完全(かんぜん)野生(やせい)(うしな)っていたミュウですが、長い野外(やがい)生活(せいかつ)によって、ミュウの中の(なに)かが目覚(めざ)めました。生まれて初めて屋外(おくがい)()ごすミュウにとって、(かべ)屋根(やね)(かこ)まれていない空間(くうかん)は、非常(ひじょう)(こころ)もとないものでした。ですから、なんとしてでも、安心(あんしん)して()ごせる場所(ばしょ)必要(ひつよう)でした。ミュウは本能(ほんのう)()(うご)かされるがままに、(にわ)(あな)()り始めました。庭はかなり悲惨(ひさん)状況(じょうきょう)になりましたが、(だれ)がミュウを()めることができましょう。誰にもできません…と思いきや、ここに一人、いるようです。ちょっと、(のぞ)いてみましょう。


「こらっ、ミュウ!何度(なんど)、言ったらわかるの!庭に穴を()ったら駄目(だめ)でしょ!」

今日も朝からリューイのお説教(せっきょう)です。お説教(せっきょう)をするほうもけして良い気分(きぶん)ではありませんが、不本意(ふほんい)ながら、リューイはこのところ、毎朝、学校へ行く前にミュウにお説教するのが日課(にっか)となっていました。

「ミュウのせいで、庭がめちゃくちゃじゃないか!」

リューイは腕組(うでぐ)みをすると、(こわ)い顔をしてみせました。しかし、ミュウはリューイと視線(しせん)を合わせようとしません。あらぬ方向を見ています。

「ミュウ、聞いてる?」

リューイがミュウと視線(しせん)を合わせようとして視線の先に(まわ)()むと、今度は(べつ)方向(ほうこう)へと視線を向けます。

「ばかミュウっ!」

リューイは(どろ)だらけになったミュウの頭をペシッと(たた)きました。

「ク~」

(なさ)けない声を出して、上目遣(うわめづか)いにリューイを見る様子(ようす)は、反省(はんせい)しているようにも見えなくもありませんが…

――ふんっ!(だま)されないぞっ!

ミュウはリューイにバレないように(みじか)(あし)を少しずつ微妙(びみょう)に動かしながら方向(ほうこう)転換(てんかん)すると、リューイにお(しり)()けました。これにはリューイも少し笑ってしまいましたが、ここで笑ってしまうと、(しつけ)になりません。

「ミュウっ!ちゃんと聞きなさいっ!」

リューイはミュウの大きなお尻をペチンと(たた)きました。毎朝、どれだけ(きび)しく(しか)っても、リューイが学校に行った途端(とたん)、ミュウはすぐに穴を()り出すのです。今日だって、目の前からリューイがいなくなった途端、穴を掘り始めるに(ちが)いありません。そうでなければ、毎日、穴が大きくなっていくわけがありません。

さらに悪いことに、ミュウが()()げた土はお(となり)のミズリさんの庭まで()んでいっていました。(さいわ)いなことにミズリさんは動物が大好きで、ミュウのことも気に入ってくれていたため、これまで苦情(くじょう)を言われたことはありませんが、リューイたちはいつ苦情がくるかと内心(ないしん)、ヒヤヒヤしていました。

「ミュウが()()ばした土だって――」

リューイが(なお)もお説教(せっきょう)(つづ)けようとすると、ミュウが大きな(した)でリューイの顔をベロンと()めました。

「うわっ!」

リューイは思わず尻餅(しりもち)をつきそうになりました。

「リューイ、それくらいにしてやれ。」

お父さんが(うし)ろからリューイに声を()けました。

「だって、お父さん…」

「まあ、いいから。そろそろ、行かないと学校に(おく)れるぞ。」

お父さんはそう言うと、リューイの(かた)()いて強引(ごういん)(そと)()()しました。


(えき)までの(みち)すがら、お父さんと(なら)んで(ある)きながら、リューイはミュウがいかに悪い子か、自分の言う事を聞かないか、そして自分がいかに苦労(くろう)しているかをお父さんに切々(せつせつ)と(うった)えました。リューイの(うった)えに(だま)って耳を(かたむ)けていたお父さんは、駅に()くとおもむろに口を開きました。

「リューイの努力(どりょく)はお父さんもわかっているよ。リューイは()(むし)として、よくやっているよ。」

「うん。」

そうでしょう、とリューイは(うなず)きました。

「だけどな、リューイ、もしもリューイがミュウの立場(たちば)だったらどう思うかな?毎日(まいにち)毎日(まいにち)、ガミガミ(しか)られたら、すごく(いや)気持(きも)ちになると思わないか?自分が悪いとわかっていても、素直(すなお)反省(はんせい)できないんじゃないかな?」

お父さんは(やさ)しくリューイを(さと)しました。

――うっ…それはそうかもしれないけど…

「リューイだって毎日、朝から(しか)られたら、(いや)だろう?」

「それは、そうだけど。でも…」

リューイは不服(ふふく)そうに口を(とが)らせました。

――だって、庭がめちゃくちゃになってるし…悪いのはミュウなのに…

リューイが心の中でお父さんの言葉に反駁(はんばく)していると、お父さんはさらに言葉を続けました。

「リューイが何を言いたいか、わかってるよ。でも、なあ、リューイ、何かを育てるっていうのはそんなに単純(たんじゅん)なことじゃないんだ。(しか)ってばかりでは駄目(だめ)なんだ。それに――」

お父さんは(うで)時計(どけい)にちらっと視線(しせん)をやりました。

「ミュウはいわゆる野生(やせい)動物(どうぶつ)ってヤツだ。野生(やせい)本能(ほんのう)ってのは、理屈(りくつ)ではどうにもならないんだよ。」

お父さんは子供の(ころ)()っていた動物たちを思い出しました。

「今のうちはまだ、ミュウもリューイの言うことを聞くかもしれない。だけど大人になったらどうだろう?大人のドラゴンがリューイの言うことを素直(すなお)に聞くと思うかい?その(へん)のところも少し考えておいたほうがいいんじゃないかな。」

お父さんはもう一度、(うで)時計(どけい)を見ると、リューイの頭をなでてから、改札(かいさつ)へと消えていきました。

「いってらっしゃい…」

()っていくお父さんの(うし)姿(すがた)に、リューイは(ちから)なく手を()りました。未消化(みしょうか)言葉(ことば)が胸の中で(うごめ)いています。

――だって、だって、だって…お父さんのばかあ~!


その(ころ)、庭ではミュウはせっせと穴を()っていました。()()むまで穴を()(ひろ)げると、早速(さっそく)、中に入って居心地(いごこち)を確かめます。

――ムフッ、いい感じ♪()ちつくぅ~♪

ミュウは満足(まんぞく)そうに鼻から息を()き出しました。しかし、ミュウの体は毎日、脅威(きょうい)のスピードで大きくなり(つづ)けています。この穴だって、すぐに(せま)くなってしまうでしょう。

――明日も()らなきゃ…

ミュウは(かた)く心に(ちか)うのでした。





子供にペットの躾を任せると、躾がやけに厳しいことがありますね。

あれって、なぜなんでしょうね。

いつも自分が叱られている立場だからでしょうか(苦笑)。

たぶん、子供は人生経験が少ないため、相手に立場になって(叱られている側の立場になって)物事を考えることができないからだと思います。

それを優しく諭すのも、大人の役目ですよね~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ