番外編 伝説の竜王ルウと白竜の姫君の話
小さい読者のみなさん、ごめんなさい。今回は大人の人向けのお話です。「婚活」とか、わからない単語がいっぱい出てきます(笑)。わからない言葉があれば、お父さんやお母さんに聞いてくださいね。
伝説の竜王ルウと白竜の姫君の話
グゴー、ガゴー
今日も西の谷の洞窟に、地鳴りのようなイビキが響き渡ります。
「お師匠さま、お師匠さまったらぁ。起きてくださいよぉ。」
弟子のレッドは、仰向けで寝ているルウをなんとかして起こそうと、その巨体を揺り動かしました。
「う~ん、ムニャ、ムニャ…もう、食べられない…」
レッドは困ったように頭を掻きました。
――はあ~、この人、寝てばかりなんだよな~。この人に弟子入りしたのは間違いだったかな…
「すみませんねぇ、師匠は最近、お疲れみたいで…いつもはこんなんじゃないんですよぉ~」
レッドは客人のほうを振り返ると、己の師を恥じるように言い訳をしました。
仰向けで腹を見せたまま寝ている師匠は、見ようによってはお皿に載せられた七面鳥のように見えます。
――ったく…威厳もクソもありゃしない。
心の中の悪態が聞こえたのか、ルウがレッドに背を向けるように寝返りを打ちました。
「う~ん、もう少し寝かせてくれ。最近、眠くてしかたがないんだ…」
「何を言ってるんですか、爺むさい...」
――たしかに、ジジイだけど…そこまで老け込む年じゃないだろ…
ミニチュア・ドラゴンのレッドは呆れたように溜息をつきました。それでもなんとか師匠を起こそうと、自分の何倍も大きな体を懸命に揺さぶります。
「師匠!師匠!起きてくださいよ!お客様ですよ。もうっ!師匠ってばっ!」
やっとのことで起きたルウは、目の前に佇む美女の存在に、固まりました。
――なぜ、こんな辺鄙な場所にこんな美女がいるのだ…夢でも見ているのか?それとも幻か…
ごしごしと目を擦りながら、ルウは何度か瞬きをしました。しかし、目の前の美女は消えてなくなりません。それどころか、ルウに向かって微笑んでさえみせるのです。薄暗い洞窟の中で、美女の周りだけ明るく光って見えます。
――夢ではないようだ…
ルウの後ろからレッドがそっと囁きました。
「お師匠さま、ヨダレが垂れています。」
弟子に指摘されて、ルウは慌てて口元を拭いました。美女の目の前で、とんだ醜態を晒してしまいました。ルウは、こっそりと美女の様子を窺がいましたが、美女はさほど気にするふうでもありませんでした。
――美人というのは、おっとりとしたものだな…
起きてから一言も口をきいていないにもかかわらず、ルウの頭の中には様々な思いが忙しく駆け巡っていました。
「コホンッ」
そんな様子に、ルウの肩口にとまっていたレッドが、咳払いをしました。
「お師匠様、この方はエラム国の6番目のお姫様ですよ。師匠に一目会いたいと、わざわざここまで飛んで来てくださったのです。」
「奇特な方もいらっしゃるものですねぇ」という言葉は、口にしないでおきました。
「せっかくいらしてくださったのですから、失礼のないようにちゃんとご挨拶してくださいね。」
レッドにそう言われて、ルウはむっとしました。
「子供ではないのだから、そんなこと、言われなくてもわかっておる!それよりも、お前は無駄なおしゃべりばかりしていないで、お客様にお出しするお茶でも用意してこいっ。」
ルウは短い前腕を腕組みすると、おしゃべりな弟子をジロリと睨みつけました。
「はい、はい、わかりましたよ。おお、怖い。」
「”はい”は一度でいいっ。」
師匠に対する尊敬の念が微塵も感じられないその様子に、ルウはフンッ!と鼻から勢いよく息を吐き出しました。
「あ~~れ~~」
ルウの鼻息で、レッドはあっという間に洞窟の奥まで飛んでいきました。
「あ~、コホン!」
うるさい弟子がいなくなったところで、ルウは改めて美しい客人に向き直りました。
「こんな辺鄙な所に、よくぞお出でくださいました。お疲れでしょう。大したおもてなしもできませんが、こんなむさ苦しい所でよかったら、ゆっくり休んでいってください。」
「ありがとうございます。」
ルウに声を掛けられて、白竜の姫君ははにかんだ笑顔を見せました。姫君の可憐な笑顔にルウは一瞬、瞬きを忘れました。顔が赤くなったのが自分でもわかります。
――まあ、なんと可憐な…
ルウは咳払いをしると、赤くなった顔を誤魔化しました。
「ところで、こんな遠くまで飛んで来てくださったのには、何か特別なご理由でもおありかな?わしに何かご用でも?」
「あの…」
姫は口ごもりました。
「ルウ様…」
「は、はいっ」
涼やかな声で名を呼ばれて、ルウは年甲斐もなく声が上擦ってしまいました。ミルクように白い肌、愛らしい目元、優しい声…亡き母の優しい面影にもよく似た姫の美しさに、ルウはうっとりと目を細めました。
――う~む…わしがもう少し若ければ…
ルウの思考を遮るように、姫が口を開きました。
「わたくしは小さい頃からあなたのお話を聞いてずっと憧れておりました。エラム国ではあなたはヒーローです。是非、一度お会いしたいと思い続けていましたが、なかなか、お目にかかることができず、今日、やっと願いが叶いました。本物のルウ様にお目にかかれて感激ですっ!」
姫は潤んだ瞳でルウを見つめました。
「いや、いや、お嬢さん、人違いではなかろうか?わしは有名になるようなことをした覚えはないのだが…」
ルウは慌てて顔の前で手を振りました。若い娘に尊敬の眼差しで見られるのは悪いものではありませんが、後でがっかりされるのも嫌です。何か勘違いをしているようであれば、正しておかなければなりません。
ルウには若い娘のまっすぐでキラキラした視線を受け止める自信がありませんでした。
しかし、白竜の姫君はルウの戸惑いには気が付かないようで、興奮した面持ちで言葉を続けました。
「ルウ様、エラム国では、デストロンの闘いは本にもなっておりますし、映画化もされました。貴方様はわたくしにとって、本物のヒーローなのでございます。」
「デストロン…はて、デストロンね…どこかで聞いたことのある名前だな…」
ルウは懸命に記憶の糸を手繰り寄せました。
なにしろ、5千年も生きているのです。いろいろありすぎて、昔のことはすぐには思い出せません。
「わたくしは貴方様と勇者リューイ様のお話が大好きで、子供の頃、寝る前にいつも読み聞かせてもらっていました。」
「リューイ」と聞いて、眠っていた記憶が蘇りました。5千年前に1年ほど一緒に暮らした人間の子供。すっかり忘れていましたが、ルウは一時期、人間と暮らしたことがありました。今ではリューイの顔の輪郭もよく思い出せませんが、毎日、楽しかったことだけは覚えています。「ミュウ」という可愛らしくも恥ずかしい名前を付けてくれたのもあの子供でした。あの頃は良かった…あれはわしが純粋だった頃のかけがえのない思い出…今、思えばあの頃が一番、楽しかったのう…
思い出に耽るルウは、遠い目をしました。
「おや、なんですか、この雰囲気!なんだか、いい感じじゃないですか。お師匠さまも隅に置けませんね~、この~、この~。」
お茶を淹れて戻ってきたレッドは、空気が変わったことを察して、すかさず茶々(ちゃちゃ)を入れました。
ゴンッ!
レッドの頭にルウの鉄拳が振り下ろされます。
「こらっ!姫に失礼なことを言うな。だいたいな、レッド!おまえは日頃からいちいち一言、多いのじゃ。少しはこの姫を見習うがよい。見ろ、この方はこんなにも礼儀正しく、控えめで――」
「痛いなぁ~、もう、お師匠さまは乱暴なんだからぁ。なにも殴らなくってもいいのに~。」
レッドは痛む頭を擦りながら、ぶつぶつと文句を言いました。そんな弟子は放っておくことにして、ルウは遠くから来た姫のために、伝説の竜王らしい話をいくつか披露することにしました。
しかし、その前にお茶を一服。ルウは香草を煮出したお茶をズズズッと啜りました。鼻と口から香気がすっと抜けて、頭がすっきりしました。
「お嬢さん、昔の話がお聞きになりたいかな。」
白竜の姫君は大きく頷きました。
「さて、どこから話そうか......」
一時間後。
「ええ、そうなんですか?知らなかった!」
「そうそう、それでな――」
二人は今日、初めて会ったとは思えないほど、打ち解けていました。姫の言葉遣いもいつの間にか若い娘のそれに変わっていました。
「――わしはガッコウへ行くことにしたのだ。」
「えっ?ガッコウって、あのガッコウですか?」
姫が聞き返すと、ルウは胸を張って答えました。
「そうだ、あのガッコウだ。そこでわしは人間の子供たちに混ざってジュギョウを受けたのだ。」
グッ
隣で聞いているレッドから、奇妙な音が漏れました。見ると、レッドは口を押えたまま、肩を震わせています。
「なんだか、とっても楽しそう。」
「ああ、とても楽しかった。」
ルウは姫の言葉に頷きました。
「人間の子供といっても、まだ幼くて動物とあまり変わりがないゆえ、山猿のような連中だったがのう。」
その山猿のような連中と一緒になって騒いでいたことは内緒です。美しい姫は、その様子を思い浮かべたのか、クスクスと笑いを漏らしました。
「子供たちもみんな、わしのことをミュウ、ミュウと呼んで――」
グフッ
レッドの喉の奥から、再び奇妙な音が洩れました。
「ミュウ?」
姫が不思議そうな顔をしました。
「ああ、わしの当時の呼び名だ。真名を人間に教えることはできなかったので、リューイが新しい名前をつけてくれたのだ。」
「ずいぶんと可愛らしいお名前ですね。」
姫は少し首を傾げながら、優しく微笑みました。姫と目が合ったレッドは、姫が笑い出したいのを堪えているのがわかりました。
「プッ!」
レッドは堪らず、吹き出しました。ずっと笑いを堪えていたのでしょう。笑い出したら止まりません。空中でお腹を抱えて笑っています。見ると、姫も下を向いて笑っているようです。
「ギャハハハ!もうダメですぅ!可笑しくって、我慢できないぃ~。ヒ~ヒ~」
「さっきから聞いていれば、ガッコウへ行ったとが、ミュウと呼ばれていたとか、師匠に似あわな過ぎですよぉ。ギャハハハ。」
ルウはむっとしました。
――我が弟子ながら、本当に失礼なやつだ。
「ガッコウへ行ってなにが悪い!それにな、ミュウという名だって当時のわしにぴったりの名前だったのだ!」
「ギャハハハ、ヒー、ヒー、笑い過ぎて、お腹が痛いですぅ。これ以上、笑わせないでくださいよぉ。」
「ウフフフ」
とうとう、姫までもが一緒になって笑い出しました。娘らしい明るい笑い声に、暗い洞窟が一気に華やぎます。
「当時の貴方様はとても可愛らしかったと思いますわ。」
へそを曲げたルウに、姫はとりなすように優しい言葉を掛けてくれました。
「ああ、そうだとも。あの頃はわしも可愛らしかったのだ。体の色も今のような灰青色ではなく、薄い水色だったしのう。」
ルウの言葉に姫はニコリと微笑みました。
「それからな、ユキガッセンというものもしたぞ。あれは――」
姫のたった一言で気分が再上昇したルウは、その後も上機嫌で姫を相手にしゃべり続けました。
さらに1時間後。
笑いっぱなしの姫は、目尻に溜まった涙を拭いました。
「ルウ様って本当にお話が上手ですこと!わたくし、笑い過ぎて疲れてしまいましたわ。でも、本当に、今日はお会いできて良かったです。」
ルウは姫に微笑み返しながら、しゃべり疲れた喉をお茶で潤しました。
「ルウ様は伝説になられたぐらいのお方ですから、少し近寄り難いところがあるのではないかと思っていましたが、実際にお会いしてみれば、少しも気取ったところがなく、親しみやすくて、お優しく、なんて素敵な方なんでしょう。急に押し掛けてしまったのに、嫌な顔もされず、いろいろと楽しいお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございます。」
姫はペコリと頭を下げました。
「いや、いや、礼にはおよびません。わしも久ぶりに楽しい時間を過ごすことができました。」
その言葉ににっこりと微笑み返したた姫は、急に真面目な表情になりました。
「実はわたくし、お見合いが厭で父の所から逃げてきたんです。」
「なんと、お見合いとな!そなたは何歳なのだ?」
「今年で700歳になります。」
姫は恥ずかしそうに答えました。
「700歳とな!若いのう!しかし、700歳では結婚にはちと早すぎんかのう?まだ、結婚したくないから逃げ出してきたのか?」
「いいえ、そういうわけではないんです。結婚に対する憧れは強いほうなので、結婚自体は嫌ではないんです。ただ…お相手の方が土竜で…」
姫はそこで言葉を濁しました。
「なんと、お相手は土竜とな...」
土竜はルウも苦手でしたから、姫の言いたいことが何となくわかりました。土竜は気難しく、捻くれ者が多いことで有名です。
――よりによって土竜がお相手とは。気の毒と言えば、気の毒じゃ…。明るく振舞ってはいるが、こんな最果ての地にまで飛んでくるくらいじゃ。よほど嫌だったのだろう。しかし、エラム国の姫君ともなれば普通の娘のような恋愛結婚は難しいだろうなあ。困ったものだ…。
「お気持ちはよくわかるが、親御さんは心配しておられるだろうな。今では竜の数も随分、減ってきているがゆえに、異種間婚もやむを得ないのではないか?」
ルウがそう言うと、姫はハッとしたように顔を上げました。
――ルウ様がそんなことを言うなんて…ルウ様ならきっと、わたくしの気持ちをわかってくださると思ったのに…
先程までの会話で、互いに深く分かり合えたと思っていた姫は、悔しそう唇を噛み締めました。
「それは重々(じゅうじゅう)、承知しております。けれども…けれども、わたくし、土竜は厭なんです!」
姫は思いつめたようにルウを見詰めました。
――そんな目で見ないでくれ。わしは何もしてやれん…
姫の視線の強さにたじたじとなったルウは、目を逸らしました。ついでに話も少し逸らすことにします。
「そう言えば、そなたは白竜なのに翼があるのじゃな。珍しのう。」
話題が変わったことで、強張っていた姫の表情が少し和らぎました。
「はい、わたくしたち一族の中にはときどき、わたくしのように翼を持った者が生まれます。これは母方の隔世遺伝なんです。父は、わたくしが翼を持っているものだから、高慢になっているのだと責めるのです。でも、わたくしは翼のない方を見下しているわけではなくて…ただ、一緒に空を飛べる方が好きなだけなのです。地面に縛り付けられている方の考え方には、どうしても堅苦しいところがございますし。」
――ふむ、ご両親の希望と自分の素直な感情の間で板挟みになっておられるのだな…優しいご気性ゆえ、ご両親を悲しませるのも辛いだろう。姫のような優しい娘さんには、是非とも幸せになってもらいたいものじゃ。
年配者として若い娘の幸せを願いつつも、一方で、先程からルウの頭の中をグルグルと駆け巡っている思いはただ一つ。
――残念じゃのう、わしがもう少し若ければ……
ルウは慌てて首を振りました。
――いかん、いかん!わしは何を考えているのだ!いくらなんでも歳の差があり過ぎるぞっ!
ルウは心の中で自分を諫めると、咳払いを一つしました。
「そうか、姫は空を飛べる者が好みなのじゃな。他に何か条件はあるかな?」
ルウは知り合いの若い竜たちの顔を思い浮かべました。
――条件に合う者がおるといいのだが…
「先程も申しましたように、できれば一緒に空を飛べて」
「ふむ」
「気取らなくって」
「ふむ」
「年上で」
「ふむ」
「できれば、白竜の血を引いていて」
「ふむ」
そこまで聞いて、ルウははたと膝を打ちました。
「なんと!まるでわしではないか!」
ルウの言葉に、姫は顔を赤らめて俯きました。
「ヒュ~」
それまで黙って二人の会話を聞いていたレッドが、冷やかすように口笛を吹きました。
「お師匠さまもまだまだ捨てたもんじゃありませんねぇ。こんな若い娘に告られるとは!」
「こ、こらっ、レッド!勘違いするでない!姫は、ただ単に結婚相手の条件を挙げられているだけじゃ。わしのことを言っているわけではない。」
レッドに言った言葉は半分、自分に言い聞かせるための言葉でした。
――勘違いをしてはいかん。こんな若くて綺麗なお嬢さんがわしのことを好いてくれるわけがない…このぴちぴちのお肌を見ろ!わしのお肌とは雲泥の差だ。こんなコがわしのことを好いてくれるだなんて、考えるほうがどうかしている。しかも、成人しているとはいえ、こんなに若い子が相手ではなにやら後ろめたい気分にさせられる…いや、いや、後ろめたいも何も、そんなことがあるわけもなく…わしは、わしは…今日、こうして会えて、楽しく会話ができただけで充分じゃ。
肯定したり、否定したり、気分が上がったり、下がったり、自問自答を繰り返しているうちに、ルウは頭がグルグルしてきました。
――ああ、もうっ、じれったいっ!これだから、師匠はいつまで経っても独身なんだよっ!こんなチャンス、二度とないのに!
煮え切らない師匠の態度に、レッドはイライラしてきました。
若く見えても3頭の仔の父親であるレッドには、これを逃したらルウは一生結婚できないことがよくわかりました。
――まったく…ここは俺が一肌脱ぐしかないな…
レッドは数秒間、黙って師匠の顔を眺めると、おもむろに口を開きました。
「そうですか?お師匠様だって、本当はお姫様のことが気に入っているんじゃないんですか?俺にはそんなふうには見えますけどね。それに、ねえ、お姫さん、結婚相手の条件って、そのまんま、師匠のことを指してくるんですよね?」
「こらっ、レッド!何を言うのじゃっ!」
慌ててレッドを遮ろうとしたルウの目の隅に、小さく頷く姫の姿が見えました。
――えっ?えっ?!
「ヒュ~ヒュ~」
レッドが再び、二人を冷やかしました。
「でも、お姫さま、師匠は5千歳を超えてますよ。こんな半分、化石化したようなジジイでいいんですか?貴女ぐらい綺麗だったら、相手はより取り見取りでしょうに。」
レッドが念を押すと、恥ずかしそうに俯いていた姫が顔を上げました。
「わたくしにとって、ヒーローはただ一人だけでございます。」
「ヒュ~」
驚きと称賛の口笛がレッドの口から出ました。
――お見事!この勝負、お姫さんの一本勝ち!
なかなかどうして、このお姫さん、大人しそうに見えて、なかなか大胆だねえ。
それを聞いたルウは参ったというように、額に手を当てました。
――ああ、降参じゃ!
「良かったですねぇ~、お師匠さまぁ。やっと、お師匠さまにも春が来ましたねぇ。」
姫につられて赤くなったルウを、レッドは遠慮なく冷やかすのでした。
それから数か月後、ルウが若くて綺麗なお嫁さんをもらったという噂が西の谷に広がりました。西の山の上をいつも二人でランデブーしているとか、寝てばかりいたルウが急に活動的になったとか、おはようとおやすみのチューは欠かさないらしいとか、etc.。婚活に苦労している若い竜たちがその噂を聞いて、大層、羨ましがったのは言うまでもありません。
めでたし、めでたし。
五千年後のミュウの歳の差婚のお話でした。ミュウの一人称が「ボク」から「わし」に変わっていますし、人格(竜格?)も変わり過ぎです(;^_^A)。ちょっとやり過ぎかた感がありますが、人間でも幼少期と老齢期とではこのくらい違ったりしますので、ご容赦くださいませ。




