19. ミュウがベッドを壊しました
19. ミュウがベッドを壊しました
「はぁ」
夜中に目を覚ましたリューイはベッドから出ると、溜息をつき、腰をポンポンと叩きました。爺むさい仕草が妙に板に付いているリューイ(10歳)の目下の悩みは…目の前ですやすやと眠っているミュウでした。
ミュウを家に引き取ってから、早5ヶ月。その間、リューイとミュウは毎晩、同じベッドで寝ていました。ペットと一緒に寝ることが長年の夢だったリューイは、最初の頃こそ、ミュウとの添い寝を楽しんでいましたが、その楽しみは徐々(じょじょ)に苦痛へと変化していきました。最近では、どうにかしてミュウがベッドから出ていってくれないものかとすら思うようになっています。
それというのも、ミュウの身体が予想を上回るスピードで成長しているからです。今では、ベッドの2/3がミュウに占領されてます。ベッドの端に追いやられたリューイは、ベッドから落ちないようにミュウにしがみついて寝ている始末です。もはや、寝返りを打つこともかないません。
かといって、甘えん坊のミュウが一人で寝られるわけもなく――「ミュウはまだ、赤ちゃんなんだから」と自分に言い聞かせつつ、ここ数ヶ月間、リューイはひたすら耐えてきました。が、そろそろ限界です。
リューイはミュウの大きなお尻を押して横に動かそうとしましたが、びくともしません。お尻をペチッと叩いても起きる気配もありません。リューイは再び溜息をつくと、もそもそと空いているスペースに潜り込みました。
グルルル~
しかし、今度はミュウの重低音のいびきがうるさくて眠れません。
「うるさいよ、ミュウ…」
一応、注意はしてみるものの、疲れ切ったリューイの声はミュウの耳には届かないようでした。重低音は大きくなるばかりです。
イラッとしたリューイは、思わずミュウのお尻に蹴りを入れてしました。その途端、いびきがピタッと止まりました。
――んっ?
リューイはもう一度、ミュウのお尻を蹴ってみました。すると、ミュウは寝ぼけたまま、もぞもぞと横に移動しました。
――やった!
喜んだリューイは、空いているスペースへと体を潜り込ませました。
ピシッ、ピシッ、ピシッ
すると、二人の体の下から不吉な音がし始めました。
ピシッ、ピシッ、ピシッ
音はまだ続いています。
リューイが音の原因を突き止めようと、体を起こしたそのときです。メキッ、メキッ、メキッという大きな音がして、ベッドが真っ二つに裂けてしまいました。
ドシン!
一階で寝ていたお父さんとお母さんは、大きな音に慌てて飛び起きました。咄嗟に辺りを見回しましたが、部屋の中はいつもと変わりませんでした。
「うわっ!」
一瞬遅れて、二階からリューイの声が聞こえました。どうやら大きな音と振動の発生源は子供部屋のようです。二人が子供部屋へと駆けつけてみると、壊れたベッドの真ん中にミュウとリューイが座っていました。
「ベッドが壊れちゃったみたい…ヘヘッ」
唖然とする二人に、リューイはそう言って笑ってみせました。が、戸口で固まっている二人から言葉が返ってくることはありませんでした。ミュウもきまり悪そうに二人をチラッチラッと見ています。
最初の衝撃から立ち直ると、お父さんとお母さんは改めて被害状況を確認しました。被害はベッドのみ。リューイとミュウは無傷です。もっと悪い状況を想像していていた二人にとって、被害がこれくらいで済んだことは奇跡にすら思えました。問題のベッドはリューイが幼稚園の頃から使っている子供用の小さなもので、ミュウの体重を考えれば、いつ壊れても不思議ではありませんでした。二人はリューイとミュウを叱る気にはなれませんでした。
「怪我はなかったかい?」
こっぴどく叱られると思っていたリューイとミュウは驚いて、お父さんの顔を見つめました。
「壊れてしまったものは、仕方がない。ベッドはいずれ大人用のものに買い替えるつもりだったしな。ベッドのことは気にしなくていいから、今夜は二人とも床の上に布団を敷いて寝なさい。」
「そうね、明日になったらどうしたらいいかみんなで考えましょう。二人とも風邪をひかないようにちゃんとお布団を掛けて寝るのよ。」
お父さんに腕にそっと手を添えると、お母さんも優しくうなずきました。
やけに優しい二人の言葉に、リューイは思わず自分のほっぺたを抓ってしまいました。これは夢でしょうか。いいえ、夢ではないようです。壊れたベッドが何よりの証拠です。
「ミュウ、怒られなくて良かったね。」
二人が静かに部屋を出ていくと、リューイはミュウにそっと囁きました。
「クー」
ミュウも同感のようです。
リューイは壊れたベッドから布団と毛布を引き摺り出すと、床に敷きました。床の上に直に寝るのは初めてです。なんだかワクワクします。布団からはみ出してしまいますが、ベッドと違って、床の上では手足を伸ばして眠れます。
「はあ~、快適~♪もっと早くこうしていれば良かった…」
リューイは布団の中で思いっきり体を伸ばすと、そう呟やかずにはいられませんでした。
んふ~♪
隣で寝ているミュウからも、気持ちよさそうな鼻息が漏れました。
その夜、リューイは不思議な夢を見ました。夢の中で、リューイはミュウの背中に乗って夜空を飛んでいました。冷たい夜風を顔に受けながら、リューイはミュウと一緒ならどこまでも飛んで行けると思いました。
――あっ、流れ星っ!
リューイは前方を指差しました。流れ星はものすごいスピードでリューイ達に近づいてきたかと思うと、瞬く間に暗い空の彼方へと飛び去っていきました。
――ミュウ!すごいねっ!今の見たっ!?
リューイが叫ぶと、ミュウがグルルルと低く鳴いて応えました。いつもと違って、空を飛んでいるときのミュウはとても凛々(りり)しく見えました。体全体が青く光っています。
――ミュウ、もっと早く!もっと高く!
ブワンッ!
リューイに呼び掛けに応えて、ミュウは更に高く舞い上がりました。ものすごい風圧に、リューイは必死にミュウの背中にしがみつきました。
――そういえば、ミュウはいつ飛べるようになるんだろう。
リューイは夢の中でふと、そんなことを思いましたが、そんな疑問も一瞬にして背後にと飛び去って行きます。ミュウの背中には翼のようなものが付いていましたが、それは体に比べてかなり小さかったため、飛べる機能があるとは思ってもみませんでした。
「ミュウ、翼…」
リューイが寝言で何かを言うと、隣で寝ているミュウがそれに応えるかのようにグルルと喉を鳴らしました。
二人はそのまま朝まで深い眠りに就きました。
皆さんは拾ってきた子犬が予想以上に大きくなってしまった経験はありませんか?
ペットがいつも人間の思い通りになるとは限らないのは皆さんもご存じの通りです。
小さい頃は可愛い、面白い、楽しいと溺愛していたのに、ペットが成長して子犬特有の可愛らしさがなくなったり、手に負えなくなると、途端に世話をしなくなる人がいるのは悲しいものです。
ペットどころか、自分の子供ですら、小さくて可愛くて親の意のままになっている間は溺愛するのに、自我が出てきて面倒になった途端、育児から逃げる人たちがいます。この傾向は特に男性に強いですね。今、イクメンと言われている人たちの中に、子供が大きくなっても育児に参加してくれる男性がどれだけいるのか…考えると恐ろしくなります。
リューイとミュウもこれから同じような問題にぶち当たっていきます。どんどん大きくなっていくミュウにリューイがどのような対応をするのか、いろいろな問題提起もしつつ、描いていきたいと思います。




