4. どうしようか…
4. どうしようか…
「変なの」
リューイは呟きました。
ヘンテコな生き物は男の子の言葉がわかったかのように、ビクッと身を震わせました。
なんなのでしょう、コレは。一言で言えば、がっかりな生き物です。期待外れです。
リューイは、躊躇いながらも人差し指でそのヘンテコな生き物のお腹をそっと押してみました。
途端に篭の中の生き物はミュウミュウと大きな声で鳴き出しました。
――やめて!やめて!怖いよ。
「あれっ?あったかい…」
灰色の生き物の体はぷにっとして柔らかく、ほんのりと温かく感じました。爬虫類のように冷たい体を想像していたリューイは少し驚きました。
リューイはもう一度、灰色の生き物のお腹を押してみました。灰色の生き物はリューイの指から逃れようと、懸命に体を動かすのですが、頭が大きいうえに腕(翼?)も脚も短いので、頭を上下にガクンガクンと揺するだけで、少しもリューイの指から逃れることができません。
なんとも間抜けなその様子に、リューイはクスクスと笑い出しました。
「だいじょうぶだよ、何もしないって。おまえって、なんだか面白いなぁ。」
リューイは灰色の生き物がまだ体も満足に動かせない生まれたばかりの生き物であることに気付くと、そっと抱き上げました。
――すごく可愛くない赤ちゃんだけど、こんなふうに目も明かないってことは生まれたばかりってことだよね。
灰色の生き物はしばらくの間、リューイの上の中で盛んに首を動かしていましたが、やがて、疲れたのか短くミュウと鳴くと、リューイの腕に頭を凭れて大人しくなりました。灰色の生き物の大きな頭が乗っている部分から体温が伝わってきます。リューイがそっと頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに瞼が下から上へと上がりました。
――あれ…なんだろ。可愛いかも…
もしかすると、どこかの家で飼われていたのでしょうか。いつもこうやって人に撫でてもらっていたかのようです。
――この状況はどう見ても捨てられたとしか思えないし、捨てられる前はどこかで飼われていたのなら、人間に慣れていても不思議じゃない…
リューイが腕の中の灰色の生き物を見ながら、そんなことを考えていると
――たすけて
腕の中から小さな声が聞こえました。
「ええっ!しゃべった?!」
思わず腕の中の生き物を落としそうになった男の子は、慌てて抱え直しました。
たしかに、今、「たすけて」という声が聞こえました。リューイはまじまじと腕の中の奇妙な生き物を見つめ直しました。
一分、二分…そして三分。腕の中の生き物はまったくしゃべりませんでした。
――空耳だったのかな…まっいいや。
リューイは灰色の生き物の両脇に手を入れて抱き上げると、顔の高さにまで持ち上げました。奇妙な生き物はリューイに抱き上げられても、目を開きません。おそらく、まだ目も見えていないのでしょう。
「オスかな?それとメスかな?」
外見からこの奇妙な生き物の性別を判別することは不可能でした。リューイが奇妙な生き物を左右に揺すると、尻尾もぶらぶらと左右に揺れます。灰色の生き物はリューイのなすがままです。一言もしゃべりませんが、すごく怯えているのか、リューイの親指の下で小さな心臓がものすごい速さで動いているのがわかりました。
「だいじょうぶだよ、怖くないよ。」
リューイがそっと抱き締めてあげると、灰色の生き物はリューイの胸に顔を擦り付けてきました。
「なんだか可愛いな…」
会話ができるペットがいたら、どんなに楽しいことでしょう。リューイは想像しました。
――そうじゃなかったとしても
リューイは考えました。この森を通る人は殆どありません。リューイが拾わなければ、この子はずっとここに放置されたままでしょう。常に寒そうに体を震わせているのも気になります。今は昼間なので森の中も暖かいのですが、夜には気温もぐっと下がります。このままここに置いておいたら、死んでしまうかもしれません。
――少しだけでも毛が生えていたら、寒くないのに。
しかし、それは無理な注文というもの。自分にはこの子を拾って帰る責任があるような気がします。それにこの森には、危険な肉食獣がうじゃうじゃいるのです。夜行性の彼等は昼間はけして、人間の前に現れませんが、夜になればここは彼等の天国です。
――でも…
リューイの頭にお母さんの怖い顔が目に浮かびました。このヘンテコな生き物を家に連れて帰ったら、お母さんは何と言うでしょうか。
「捨ててらっしゃい!」
絶対にそう言うに違いありません。
「どうしよう…」
「むむむっ」
男の子は顎に手を当てて考えました。
――いったい、どうしたら…
そのときです。急に素晴らしいアイデアが閃きました。
「そうだ!おばあちゃんちに連れていこう!」
なんでもっと早く考えつかなかったのでしょうか。おばあちゃんの家で飼ってもらえば、この子にしょっちゅう会いに行くことができます。それに、おばあちゃんは一人暮らしだから、リューイが遊びに行ってあげられないときでも、ペットがいたら寂しくないでしょう。
急に楽しくなったリューイは、灰色の生き物を抱えると足取りも軽くおばあちゃんの家に向かいました。
スキップするリューイの腕の中で灰色の生き物は首をガクンガクンさせていました。