8. ドラゴンと一緒にできる10の遊び
8. ドラゴンと一緒にできる10の遊び
『ミュウがお母さんたちに見つかった後も、いろいろと大変でした。家族会議を開いたり、おばあちゃんに助っ人に来てもらったり、ミュウが赤ちゃんのフューイに乱暴なことをしないかテストされたり、ミュウが変な物を食べて大量に吐いてカーペットをドロドロにしたり、ミュウが何かを壊したり、ミュウがいろいろと壊したり、ミュウがアレやコレやを壊したりしたけど、最終的にはおばあちゃんの「せっかく助けた大切な命なのだから」の一言で、ミュウを飼ってもらえることになりました。
おばあちゃん曰く、命の重みは人間も竜も同じなんだって。もちろん、僕は最後までちゃんとミュウの世話をするという約束をさせられました。』
By リューイ
ミュウがリューイたちの家に来てから三ヵ月が経ちました。拾われた竜の子は家族の愛情を一身に受け(?)すくすくと成長しているようです。すっかり人間の生活に馴染んだミュウの様子をちょっと覗いてみましょう。
ケタケタケタ
バスルームからリューイの笑い声とそれに続く疲れたような「あ”~」というため息が聞こえてきます。もう10分ばかり、「ケタケタ」と「あ”~」が続いています。いったい、何をしているのでしょうか?
フューイのおむつを替えていたお母さんは、傍らで新聞を読んでいたお父さんに言いました。
「ねぇ、あなた――」
ケタケタケタ…あ”~
「ちょっと、様子を見てきてよ。このままじゃ、あの子、笑い過ぎて死んでしまうわ。」
お父さんは読んでいた新聞をテーブルの上に置きました。
「そうだな、いい加減、長すぎるな。ちょっと様子を見てくるか。」
リューイはこのところ、毎晩のようにミュウと一緒にお風呂に入っていました。そして、一旦、お風呂に入るととても長いのです。お風呂の中で二人が何をしているのかお父さんもお母さんも知りませんでしたが、二人が風呂から出た後はお湯がほとんどなくなっていることからもわかるように、遊び倒していることは確かでした。
――いったい、何をしているんだ?
お父さんはバスルームのドアを開けると、二人に声を掛けました。
「楽しそうだな。」
お風呂の中で何やら熱心にしていたリューイは、急に声を掛けられて、ビクッと肩を揺ら
しました。顔を上げて、そこにいるのがお母さんではなく、お父さんであることを認めるとほっとしたような顔をしました。明らかに、この家で一番怖がられているのはお父さんではなく、お母さんでした。
「なんだ、お父さんかぁ。驚かさないでよ。」
――オレは完全になめられてるな。まあ、いいけど。
お父さんは心の中で自嘲しました。
リューイの手にはプラスチックのコップが握りしめられています。そして、その横には灰色の頭も見えます。風呂の中の湯は、もうほとんど残っていないようです。
――原因は、これか…
よくはわかりませんが、お風呂の水がなくなる原因はこの遊びのようです。お父さんは真相確かめようと身を乗り出しました。
「キミたちは何をしているのかな?」
お父さんがおどけた口調で問うと、リューイの顔に得意そうな表情が浮かびました。
「あのね、お父さん、ミュウがすごいんだよ!すごい事、できるんだよっ!」
リューイはツバを飛ばしながら力説しています。
「ホント、すごいんだよ。今、見せてあげるからね。見てて、お父さん!」
リューイはバスタブの底に残っているお湯をコップで掬うと、それをミュウの口の中にジャーと注ぎ込みました。
――おいおい、そのお湯、キレイなのか?飲んでも平気なのか?ドラゴンだから何を飲んでも平気なのか…?
お父さんは一言いいたくなりましたが、とりあえず黙って見ていることにしました。
「ゲフッ」
お湯を飲み込んだミュウは、少し苦しそうにゲップをしました。見ると、ミュウのお腹は水風船のようにパンパンに膨らんでいるではありませんか。しかし、リューイはそれをまったく気にすることなく、お父さんに言いました。
「見てて!いい?いくよ。こうやってミュウのお腹を押すでしょ――」
リューイが大きく膨らんだミュウのお腹を指でグッと押しました。
するとどうでしょう。ミュウの口から噴水のように勢いよく水が飛び出したではありませんか。
ピュー
ミュウの口から飛び出した水は綺麗な円弧を描くと、風呂の縁に置いてあったおもちゃのアヒルに命中しました。
カタン、コロン
アヒルがタイルの上に落ちる音が、バスルームに響きわたりました。
「こりゃ、すごいな。」
お父さんも思わず感心です。
ケタケタケタ
それを見たリューイは、またお腹を抱えて笑い出しました。そして、ひとしきり笑うと、疲れたようにため息をつきました。
あ”~
感心はしたものの、リューイほどツボに嵌らなかったお父さんはいささか困惑気味です。
――コレを何回繰り返したんだ?いい加減、飽きてもよさそうなものを…
「いい?もう一回、やるよ。見てて。」
飽きもせずに同じことを繰り返そうとする息子を、お父さんは慌てて止めました。
――もう一回ぐらい、見たいような気がしなくもないが…いや、いかん、いかん。
お父さんは心の中でブンブンと首を振りました。
――いくらなんでも、この腹はちょっと異常だろう...ここは父親としてきちんと指導をしなければ…
「なあ、リューイ。ミュウのこの腹は――」
――大丈夫なのか。
と言い掛けて、お父さんは言葉を飲み込みました。ミュウが珍しく得意そうな表情でお父さんを見上げていたからです。
「おお、すごいな。すごい、すごい。」
お父さんは言い掛けた言葉を飲み込んで、手を叩いてあげました。リューイは益々(ますます)、得意になり、ミュウはほっとしたような表情を浮かべました。
いつもお母さんに叱られてばかりのミュウです。たまには褒めてあげたい気持ちもなくはありませんが、、何事にも限度というものがあります。どう見てもこのお腹は異常です。
――ミュウはいつも否定ばかりされているからなぁ。ここでまた、数少ない特技を否定するのも可哀想だが…
お父さんはミュウを否定せずに二人の遊びを止めさせる方法を考えなければなりませんでした。
「ええと…そうだな、二人とも、もうそろそろ風呂から出たほうがいいと思うぞ。次はお母さんとフューイの番だからな。フューイが眠くならないうちに風呂に入れてやらないと。」
お父さんは、そう言って二人を風呂から出るように促しました。
「は~い」
二人は意外にもあっさりと水遊びを止めましたが、ミュウをお風呂から出すのは大変でした。膨らみ過ぎたお腹が邪魔になって、バスタブの縁に脚が掛からないのです。ミュウが短い脚をバタバタさせる度にカギ爪がバスタブに擦れてキーという嫌な音を立てました。
――しかたない。持ち上げてやるか。しかし…
お父さんはこの三ヶ月で三倍ぐらいになったミュウを見遣りました。
――ぎっくり腰になりそうだな…
お父さんは溜息をつくと、今では秋田犬ほどの大きさに成長したミュウをバスタブから引き上げてあげました。
「それで、いったいなんだったの?」
肩にバスタオルを掛けてスーパーマンのように走り回っているリューイと、ヨタヨタと歩くミュウを横目で見ながら、お母さんはお父さんに問い掛けました。
「あのな、お母さん。」
お父さんは改まって言いました。
「ミュウにはすごい特技があったんだぞ。本当にすごいからお母さんも一度、見せてもらうといい。」
お父さんがそう言うと、「ミュウ」という言葉に反応したミュウが、得意そうに振り返りました。お父さんはお母さんに「たまには褒めてやれ」と目で訴えましたが、お父さんのメッセージはお母さんには伝わらなかったようでした。
「あら、そうなの。ミュウの特技は寝る、食べる、壊すだけかと思ったわ。」
お母さんはお父さんの思いやりをばっさりと切って捨てました。お父さんは苦笑いを浮かべるしかなく、ミュウはがっくりと肩を落としました。
さらにこのお話にはとんでもない後日談があります。
翌朝、お母さんが二人を起こしにいくと、二人は仲良く寄り添ってクークー寝ていました。ぽっこりと膨らんだお腹を無防備にさらしてヘソ天で寝ているミュウは野生本能を完全に失っているようで、その寝姿は七面鳥の丸焼きを連想させました。
――寝ているときだけは、天使ね。
常日頃、二人のいたずらに悩まされているお母さんも、動物と子供という最強の組み合わせに思わず顔を綻ばせました。
しかし、布団をめくろうとリューイの枕元に手をついたお母さんは、すぐに非常に不快な感触に気付きました。
「えっ、なに…」
お母さんはもう一度、布団を触ってみました。布団は枕元までびっしょりと濡れています。慌てて掛布団をめくったお母さんは、さらにびっくりしました。ベッドの端から端までバケツで水を撒いたようにびっしょりだったのです。
後でわかったのですが、布団がびしょびしょになった原因はミュウのおねしょでした。まだ子供とはいえ、さすがは竜、おねしょもスケールが大きいようです。
その後、リューイとミュウがお母さんからこっぴどく叱られたのは、言うまでもありません。唯一の救いは、ミュウは草食性なので、おねしょがあまり臭くないことでした。
遊びの加減もわからない子供一人と幼獣一頭は、まだまだ修行が必要なようでした。
表題は「10の遊び」になっていますが、ここでは「1の遊び」しか書いてありませんね。残りの「9の遊び」は、これから少しずつご紹介していく予定です。乞うご期待!




