6. ホットケーキのお布団
6. ホットケーキのお布団
「ふぅ~、あぶない、あぶない。もう少しでばれるところだった。」
リューイはホットケーキを机の上に置くと、ベッドの上を確認しました。ミュウは先程と同じ場所に大人しく座っています。リューイは安心すると、早速、ホットケーキにかぶりつきました。
「うまっ!」
ホットケーキは甘くて、温かくて、ほんのりとミルクと小麦粉の香りがしました。
「うま~♪」
食べ始めたら止まりません。
ムシャムシャ…
――ん?
ふと背中に強い視線を感じて振り向くと、ミュウがリューイのほうをじっと見ていました。
――なんだろう?ホットケーキを食べたいのかな?
リューイはお皿を手に持つと、ベッドへと近づきました。ベッドの端に腰を下ろしてホットケーキをミュウの鼻先に近づけてみます。しかし、ミュウはホットケーキには反応しませんでした。
――ホットケーキを食べたいわけじゃないんだ… じゃあ、何が欲しいんだろう?
リューイはお皿を持ったまま、じっとミュウを見つめました。ミュウは少し震えていました。顔色も悪いような気がします。しかし、元々が灰色なので、顔色が悪いのかどうかよくわかりません。雨で濡れたので、体温が下がってしまったのかもしれません。
――う~ん、どうしたんだろう?少し温めたほうがいいかな?
リューイは部屋の中を見回しました。しかし、ミュウの体を温められるような物は何も見つかりませんでした。ヒーターや湯たんぽのような物があれば良いのですが、まだ初秋だったので暖房器具は出してしませんでした。お母さんに見つからずにミュウの体を温める良い方法はないでしょうか。
「そうだ!」
リューイはポンと手を打ちました。何やらひらめいた様子です。
リューイは机の上からホットケーキを一枚取ると、それをミュウの背中にパフンと乗せました。
「ギュッ!ギュルルルー!」
ミュウがものすごい鳴き声を上げたので、リューイは思わずベッドからころげ落ちそうになりました。
「うわっ、うわっ~、なに、今の声?!びっくりした~。」
しかし、最初の衝撃が収まると、ミュウはピタッと鳴き止みました。そして何もなかったかのように目を閉じてウトウトし始めました。
「あ、熱かったの?」
リューイはいまだにドキドキしている心臓を押さえながら、ミュウの顔を覗き込みました。なんとなくですが、ミュウは体が温まって気持ち良さそうに見えます。
「ミュウ、気分はどうだい?」
「クルルルル~」
リューイが優しく声を掛けると、ミュウがそれに応えるように柔らかく鳴き返しました。今度は普通の鳴き声でした。
「あ~、よかった。」
リューイはほっと胸をなでおろしました。
「ミュウはいい子だね。」
ミュウの頭を軽くポンポンと叩いてあげると、ミュウは気持ち良さそうにリューイの手の平に頭を擦りつけてきました。
「ふふっ、かわいい~!」
どうやら、ホットケーキ作戦は大成功のようです。リューイは満足するとベッドから飛び降り、再びホットケーキを食べ始めました。
数分後、すべてのホットケーキを食べ終えたリューイは、ミュウの背中をじっと見詰めていました。
「もっと食べたい…」
リューイは、ベッドの上でうつらうつらしているミュウに近づくと、ミュウの背中のホットケーキを指で突いてみました。ミュウの背中の一枚は、まだほんのりと温かさを保っていました。
「う~ん、どうしよ…」
リューイはしばらくの間、迷いましたが、結局、ホットケーキは食べずにそのままにしておくことにしました。なぜかですって?それはホットケーキを乗せたまま寝ているミュウがとっても面白可愛かったからですよ。
――あ~幸せかも~。ホットケーキも食べたし、念願のペットも手に入れたし…
リューイは大きなあくびをすると、ミュウをベッドの端に寄せ、布団の中に潜り込みました。
「あ~、極楽、極楽。」
リューイはじじむさく呟くと、布団の中で大きく伸びをしました。それから手を伸ばしてミュウを抱き寄せましたが、ミュウはされるがままで目も開けませんでした。
「ぷぷっ、変なかお~」
ちょっと間抜けなミュウの寝顔に自然と笑みがこぼれます。スピスピという鼻息が顔に掛かってちょっとくすぐったいのも、リューイにとっては新鮮な体験でした。リューイは初めてのペットを誰かに自慢したい気持ちでいっぱいになりました。しかし、しばらくは誰にもバレないように、黙っていなければなりません。
――誰にも見せられないなんて、残念だな~。こんな可愛くて面白いのに。
リューイはミュウを突いたり、鼻の穴を塞いてみたり、飽きずに眺めたりしていましたが、ミュウの眠気が伝染したのか、いつの間にか眠り込んでいました。
寝ている間にミュウが布団に潜り込んできたのがわかりましたが、眠くて目が開けられませんでした。ミュウが布団に潜り込むときにホットケーキのシロップが頬に付いたせいで、リューイはベタベタする雨に降られる夢を見ました。
良い子のみなさん、食べ物で遊んではダメですよ。




