表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第二章 幻を見る者
30/70

5. ミュウ、家竜になる

5. ミュウ、家竜になる



「ただいま~!」

「おかえりなさい。」

リューイが玄関で声を張り上げると、家の奥からお父さんとお母さんの声が聞こえてきました。

――あっ、いけない!今日はミュウを連れていたんだっけ…

つい、いつもの習慣で大きな声を出してしまいました。おばあちゃん()から帰ってくる途中でゲリラ雷雨(らいう)(おそ)われたせいで、ミュウを連れて帰ってきた言い訳すら考えていませんでした。リューイが言い訳を考えていると、お母さんが急に顔を出したので、リューイは(あわ)ててミュウを背中に隠しました。

「リューイったら、ずぶ濡れじゃないの?傘を差してこなかったの?」

ずぶ濡れのリューイを見て、お母さんは顔を顰めました。

「うん。」

お母さんの問いに、リューイは短く答えました。

「午後から雨になりそうだから、傘を持っていきなさいって言ったでしょ?」

「うん…」

「また?」

「…」

お母さんは呆れ顔です。

「ば、ぼく、着替えてくるね。」

リューイはお母さんの横をカニ歩きで通り抜け、二階へと続く階段を後ろ向きに上り始め

ました。そのあまりにも不自然な動きに、お母さんは危うく吹き出しそうになりました。が、何も気が付かないふりをしました。

――思いっ切り怪しいわね。何を隠しているのかしら。あとで、こっそり調べなくちゃ!

一方、リューイはお母さんにバレているとは毛ほども思っていないので、後ろ向きで階段を上りながらさりげなく話し掛けました。

「そう言えば、おばあちゃんがフューイに会いたいって言ってたよ。しばらく会ってないから、顔が見たいって。」

「あら、そう。じゃあ、今度、みんなでおばあちゃんの所に遊びに行かないといけないわね。いつがいいかしら。」

お母さんは頬に手を当てて、考え込みました。

「いつでもいいんじゃない。」

「そう?リューイの学校はいつから始まるの?」

「まだ、当分、行かなくても大丈夫。」

「だったら、いつでもいいわね。あとでお父さんに相談してみましょう。」

お母さんはそう言うと、それ以上は何も言わずに奥へと引っ込みました。


――うわぁ~、ドキドキしたぁ~

リューイはほっと一息つくと、ミュウを抱え直しました。そのときです。

「そういえば――」

お母さんがキッチンから急に顔を出したので、リューイは危うく階段から落ちそうになりました。

「な、なにっ?」

声が裏返ってしまいます。

「ホットケーキが焼けているから、着替えたらすぐに降りてらっしゃい。」

パタン。

お母さんはそう言うと、またすぐにキッチンへと姿を消しました。



「ふぅ~、あぶなかったぁ!」

リューイはドアを閉めると、ミュウを抱えたままベッドの上にドサッと腰を下ろしました。とりあえず、第一(だいいち)関門(かんもん)は突破しました。次は第二(だいに)関門(かんもん)ですが、まずはその前に腹ごしらえです。

リューイは濡れた服を素早く着替えると、Tシャツで濡れているミュウの体も拭いてあげました。そしてミュウをベッドの真ん中に寝かせると

「ちょっと下に行ってくるから、大人しくしてるんだぞ。」

と言ってさっさと下へ降りて行ってしまいました。


ダダダダダッ

階段を駆け下りてくる大きな足音に、離乳食を食べていたフューイがビクッと体を硬直させました。

「お母さん、ホットケーキ!」

キッチンに飛び込んだリューイを、小麦粉とバターの香りがふわりと包み込みました。

「リューイったら!」

リューイの第一声に、お母さんもお父さんも吹き出しました。

「リューイが帰ってきたら、急に家の中が騒がしくなったな。」

そう言いつつ、二人とも嬉しそうです。

リューイがテーブルに着くと、お母さんはすぐに焼き立てのホットケーキをお皿に移してくれました。リューイはホットケーキにバターとシロップを掛けると、ナイフで切るのももどかしく、かぶりつきました。大きく口を開けたリューイに、お母さんが話し掛けます。

「リューイ、おばあちゃん()は楽しかった?」

「うん!」

「おばあちゃんは元気だったか?」

お父さんも読んでいた新聞を置いて、話し掛けてきました。

「うん、元気だったよ!あのね…」

リューイは上機嫌で森での出来事を話そうとしました。

「あっ…」

――どうしよう。ミュウのこと、何も考えてなかった…

お父さんとお母さんはリューイをじっと見つめながら、話の続きを待っています。

「ん?どうしたんだい、リューイ?」

お父さんが優しく問い掛けました。二人とも今日はやけに優しいような気がします。

――僕がいなくて寂しかったのかな?

フューイが生まるまではずっと一人っ子だったので、お父さんとお母さんの関心はいつもリューイに集まっていました。二人にこんなふうにじっと見つめられるのは、いつ以来でしょうか。この久しぶりの感覚は悪くありません。悪くはないのですが、今はちょっと困ります。

言葉に詰まったリューイを二人の視線がじりじりと追い詰めます。

「あのね…僕ね…」

リューイはホットケーキのお皿を(つか)みました。

「自分の部屋で食べるね。」

そう言うと、リューイは駆け下りてきたときと同じように、ダダダダダッと大きな音を立て階段を駆け上ってしまいました。

「リューイ、あとでお皿をちゃんと片づけるのよ!」

階段の下でお母さんが叫んでいます。返事はありません。

「まったく、騒がしい子ね。」

肩をすくめるお母さんに

「男の子なんて、みんなあんなもんだよ。」

とお父さんは笑ってみせました。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ