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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第二章 幻を見る者
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番外編 おばあちゃん、凄腕ハンターになる

おばあちゃん、凄腕すごうでハンターになる



あれは、一ヵ(いっかげつ)ほど(ほどまえ)のことでした。おばあちゃんは毎日(まいにち)家庭(かてい)菜園(さいえん)を荒らしにやってくる七面鳥(しちめんちょう)()を焼いていました。どんなに追い払ってもすぐに戻ってくる七面鳥に(ごう)()やしたおばあちゃんは、ちょっと(おど)すつもりでおじいちゃんの猟銃(りょうじゅう)を持ち出しました。おじいちゃんは木こりでしたが、食料の(とぼ)しい冬の間は猟銃で森の動物たちを仕留(しと)めることもありました。その銃はおじいちゃんが亡くなった後も暖炉(だんろ)に上に(かざ)られていました。

今でこそ随分(ずいぶん)(たくま)しくなったおばあちゃんですが、もともと、町育ちで本物の銃を見たこともありませんでした。ましてや、自分が銃を使うなんて考えたこともありません。


おばあちゃんは(おそ)(きょう)る銃に(たま)を込めると、庭の隅に隠れて七面鳥がやってくるのを待ちました。森の中には野生の七面鳥も棲息(せいそく)していましたが、おばあちゃんの庭に現れる七面鳥は、羽の色から(さっ)するに農場(のうじょう)から逃げ出してきた七面鳥のようでした。農場で余程(よほど)(つら)い事でもあったのでしょうか。問題の七面鳥は相当(そうとう)、心が(すさ)んでいるようでした。

七面鳥はいつもの時間に現れると、植えたばかりのトマトの苗木(なえぎ)を引き抜き、ブンブンと振り回し始めました。トマトに相当の(うら)みがあるようです。次に七面鳥は土の中からジャガイモを掘り出し、(くちばし)で突いて穴をあけ、不味(まず)そうにペッペッと吐き出しました。

――んまあ、なんて(にく)たらしい…

おばあちゃんは銃をぎゅっと(にぎ)()めました。七面鳥のこういうところが、おばあちゃんには許せませんでした。お腹が減って食べ物を探しに来ているならまだしも、この七面鳥は明らかに嫌がらせをしに来ています。

――やっぱり、許せないわ!

「クエッ!」

おばあちゃんの気配(けはい)を感じたのか、七面鳥は一瞬動きを止め、鋭い目付(めつ)きで辺りを見回(みまわ)しました。この七面鳥はおばあちゃんが見た中でも飛び抜けて体が大きく、おばあちゃんの腰ほどもありました。

七面鳥は自分に逆らう者がいなことを確認すると、今度はほうれん草を食い千切(ちぎ)り始めました。まさに食べ散らかすといった表現がぴったりです。畑の中を移動しながら、頑丈(がんじょう)な足で(さか)んに土を掘り返すことも忘れません。

――そろそろお悪戯(いた)の時間も終わりよ。

物陰(ものかげ)から様子を(うかが)っていたおばあちゃんは、静かに(ねら)いを定めました。

――どうせ、当たりっこないと思うけど、少しだけ驚かせてあげましょ!

おばあちゃんは深く考えずに、そのまま引き金を引きました。

ズドン!

大きな衝撃(しょうげき)があり、気がつくとおばあちゃんは発砲(はっぽう)反動(はんどう)でひっくり返っていました。

――なんてまあ…物騒(ぶっそう)な道具なのかしら。

おばあちゃんは手の中の銃を呆然(ぼうぜん)(なが)めました。あまりの衝撃に、七面鳥のことなどすっかり頭から抜け落ちていました。

ややあって、おばあちゃんがふと顔を上げると、物凄(ものすご)形相(ぎょうそう)の七面鳥がおばあちゃんを(にら)みつけていました。七面鳥の(つばさ)から血が出ています。

――えっ!?やだ、どうしましょう!当たってしまったみたい!ごめんなさいっ!

「クエーッ!」

怒り狂った七面鳥は、おばあちゃんに向かって突進してきました。

――ああ、神様!お助けください。殺される!

尻もちをついたまま動けなくなったおばあちゃんは、思わず目を(つぶ)りました。

ズドンッ!

強い衝撃におばあちゃんはもんどり打ちました。七面鳥に体当(たいあ)たりされた衝撃で銃が(はじ)()ばされ、(ちゅう)()います。

――ああ、私は死んだのかしら…

しばらくして、おばあちゃんが(おそ)(おそ)る目を開けてみると、目の前には動かなくなった七面鳥と細い煙が立ち上る銃が転がっていました。







挿絵(By みてみん)





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