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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第一章 青の女王
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2. 男の子、森の中を捜索する

2. 森の中を捜索(そうさく)する


その日、リューイはお母さんに頼まれて、森の奥に住むおばあちゃんの家にくるみパンを届ける途中でした。リューイが不思議な声を聞いた場所は、ちょうど森の中程(なかほど)でした。森は適度(てきど)に手入れされており、日も差して明るく、人が歩く道も(つく)られているのですが、それでもこんな所にはいる(はず)もない動物の鳴き声にリューイは戸惑(とまど)いました。

ミュウ、ミュウ…

――まさか、この声は…

男の子は嬉しい予感に身を(ふる)わせました。

――子猫!

子猫の鳴き声にしては、ちょっとしわがれているような気がしないでもありませんが、きっと鳴き過ぎて声が()れてしまったのでしょう。とにかくリューイが知る限り、そんな鳴き方をするのは小さくて、可愛らして、ふわふわの毛玉しかあり得ません。リューイは持っていた(かご)を地面に置くと、一心に子猫を探し始めました。

リューイの脳裏(のうり)には、三ヵ月ほど前に生まれたお隣のベニーの赤ちゃんの絵が鮮明(せんめい)に浮かんでいました。生まれたての子猫たちは手の平に乗るくらい小さくて、体のすべてが毛で出来ているのではないかと思うくらい軽くて、ふわふわとしていました。

初めて子猫を見たリューイは一目で心を奪われてしまいました。あんなに可愛らしい生き物を見たのは初めてでした。

――あの子たち、かわいかったなぁ~

リューイに顔は自然に綻んで(ほころんで)しまいました。今はその子猫たちも大きくなって、3匹とも他所の家に引き取られてしまいました。

――ウチで飼えたらよかったのに。ちぇっ。

リューイはお母さんの鬼の形相(ぎょうそう)を思い出しました。

――僕、ちゃんとお世話するって言ったのに。

リューイのお母さんはなかなかに怖い人でありました。


――子猫だったらいいなぁ

リューイは脳裏(のうり)に浮かんだお母さんの怖い顔を追い払うと、鳴き声を頼りに森の中を進み続けました。

――だけど、子猫を拾った(あと)はどうしよう。

不安が一瞬だけ頭の中をよぎりましたが、そこは10歳の男の子、予想されるお母さんの反対よりも、早く子猫を見つけてぎゅっと抱きしめたい誘惑のほうがはるかに上回っていました。

――なんとかなるさ。お母さんだって鬼ではないもの...たぶん…

「捨ててらっしゃい!」というお母さんの声が天から聞こえてきたような気がして、リューイはぶんぶんと頭を振りました。

期待とほんのちょぴりの不安を胸に、リューイは森の中を進んでいきました。


か細い鳴き声を頼りに10分ほど背丈(せたけ)ほどの(くさむら)の中をかき分けながら進むと、リューイはやがて小さな小川のほとりに出ました。小川のほとりには小さな黄色い花をつけた草が沢山(たくさん)生えていました。

――あれぇ、こんなところに小川なんてあったかな?

リューイは一瞬、戸惑いました。小さい頃からよく遊んでいる森の中です。こんな恰好(かっこう)の遊び場、知らない筈はないのですが。小川の水は透き通り、浅過ぎもせず、深過ぎもせず、船を浮かべたり、水車を回して遊ぶには恰好のでした。小さな魚たちも群れをなして泳いでいます。

しかし、今日は水遊びよりも子猫の捜索が第一です。リューイは深く考えもせず、黄色い花の中を探し始めました。鳴き声から、目標にかなり近づいたという確信もあり、捜索の手にも力が入ります。

ほどなくして、リューイは柔かい草の中に()もれるようにして置かれた小さな(かご)を見つけました。鳴き声はたしかに篭の中から聞こえていました。

しかし、リューイが篭を持ち上げた途端、篭の中の生き物はうんともすんと言わなくなってしまいました。

――やっと見つけた!

リューイは篭を膝の上に乗せると、期待に胸を(ふく)らませて白い布をそっと持ち上げてみました。




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