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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第一章 青の女王
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16. 不老不死の薬

16. 不老(ふろう)不死(ふし)の薬



(あれ)が生まれてすぐに、()(くに)(ドラゴン)血肉(けつにく)を求める悪党(あくとう)どもが潜入(せんにゅう)してきました。竜の血肉は万病(まんびょう)の薬として、ブラックマーケットでは高値(たかね)で取り引きされています。肉、皮、(うろこ)(きば)など体のありとあらゆる部位(ぶい)売買(ばいばい)の対象となりますが、(なか)でも竜の心臓(しんぞう)不老(ふろう)不死(ふし)の薬として、(いっ)(こく)(あがな)えるほどの高値(たかね)がつきます。」

「なんてこと…」

おばあちゃんは絶句(ぜっく)しました。

「それって本当なの?」

(たん)なる迷信(めいしん)ですよ。」

淡々(たんたん)と語るユストでしたが、その一言に嫌悪感(けんおかん)(にじ)()ていました。

真偽(しんぎ)のほどは確かではありませんが、(わたくし)(なん)根拠(こんきょ)もない迷信(めいしん)だと思っています。」

(ドラゴン)を食べる人がいるなんて、リューイには想像もつきませんでした。

「人間はどこまでも欲が深く、満足を知らない生き物なのです。」

ユストの言葉におばあちゃんは大きく(うなず)いてみせました。

(ドラゴン)の中でも(はく)(りゅう)血肉(けつにく)絶大(ぜつだい)美容(びよう)効果(こうか)があるとされており、その為、一部の貴族の間で大変な人気を集めています。」

ユストは大きく息を吐き出すと、手の平を上に向けてみせました。

やっと元気を取り戻した赤ちゃん(ドラゴン)の姿を思い出して、おばあちゃんは強い(いきどお)りを感じました。

「私はこれほどまでに悪食(あくじき)をする生き物を他に知りません。全ての肉食(にくしょく)(じゅう)は生きるために他の動物を()りますが、必要のない殺生(せっしょう)はけしてしません。しかし、人間は必要もないのに、他の動物を殺し続けています。この地上に人間より残酷(ざんこく)な生き物がいるでしょうか。」

おばあちゃんは(だま)って頭を振りました。

――僕の学校にも乱暴(らんぼう)な子や意地悪(いじわる)な子はいるけど…。人間ってそこまで悪い生き物なのかな?

先程(さきほど)からおばあちゃんはユストの言葉に強い共感を示していましたが、小学生のリューイにはまだ人間がそれほど悪い生き物だとは思えませんでした。


「少し脱線(だっせん)してしまいましたね。話を(もと)に戻しましょう。」

ユストはお茶を一口(ひとくち)飲むと話を続けました。

悪党(あくとう)どもが領内(りょうない)侵入(しんにゅう)してきた目的は、母竜ではなく、生まれたばかりのあの子でした。体の小さな子竜でしたら簡単に(つか)まえられますし、運び出すのも簡単です。

私たちはいろいろと手を()くして奴等(やつら)から(あれ)を守ってきましたが、悪党(あくとう)どもはなかなか(あきら)めませんでした。当初(とうしょ)奴等(やつら)(あれ)を生きたまま()()るつもりだったようです。が、最初の目論見(もくろみ)が失敗に終わると、今度は呪術(じゅじゅつ)によって(あれ)(のろ)い殺そうとしました。殺してから国外へ運び出したほうが確実だと(さと)ったのでしょう。

奴等(やつら)が連れてきた魔術師(まじゅつし)はなかなかに強力な呪術を使う男で、我が国の魔術師たちが(たば)になって()かっても太刀打(たちう)ちできませんでした。お恥ずかし話ではありますが、私たちは結界(けっかい)を張って奴等(やつら)浸入(しんにゅう)を防ぐのが精一杯だったのです。その間も黒魔術師たちは昼夜(ちゅうや)を問わず絶え間なく結界の(ほころ)びを()いて侵入してこようとしていました。

数か月ほど、双方(そうほう)の力が拮抗(きっこう)する状態が続きましたが、やがて極度(きょくど)疲労(ひろう)とストレスにより白魔術師たちが()()ぎと倒れ始めました。(かろ)うじて(たも)たれていたバランスが(くず)れると、黒魔術師たちは結界内に一気(いっき)突入(とつにゅう)してきました。

奴等()突入(とつにゅう)同時(どうじ)に、(わたくし)は女王の(めい)を受けて(あれ)を国外へと連れ出しました。流石(さすが)にそれ以上、(あれ)を女王の(もと)においておくことは危険でした。奴等(やつら)の目的は竜の血肉であり、政治的な野望(やぼう)はありませんでしたので、(あれ)さえ近くにいなければ女王は安全な(はず)です。」

ユストは混乱(こんらん)(うず)の中で最後に見た白魔術師たちの顔を一人一人思い浮かべました。彼等()脱出(だっしゅつ)するユストの(たて)となってくれたのです。

――すまない…

彼等()はどうなったのでしょうか。安否(あんぴ)が気に掛かりますが、今のユストにはそれを知る手立(てだ)てがありませんでした。脱出する間際(まぎわ)、僅かに生き残っていた白魔術師の一人が最後の気力(きりょく)()(しぼ)ってユストに魔法をかけてくれました。ユストにはそれが何の魔法かわかりませんでした。気が付いたら見知らぬ場所に立っていたのです。


見知らぬ土地に飛ばされてから最初の数ヶ月、ユストは黒魔術師たちを警戒(けいかい)して人気(ひとけ)のない場所から場所へと移動していました。その時から常に強い違和感(いわかん)を感じていましたが、リューイたちに会い、こうして話しているうちに、違和感の正体(しょうたい)次第(しだい)にわかってきました。どうやら自分たちはパラレルワールドに飛ばされたようです。

――どうやって帰ればいいんだ…

ユストは痛む頭を押さえました。しかし、ユストは白魔術師たちを(うら)む気にはなれませんでした。(はげ)しい戦闘(せんとう)最中(さなか)彼等()は精一杯のことをしてくれたのです。


ユストは話を止めると、リューイをじっと見詰(みつ)めました。

「私が(あれ)を国外に連れ出した理由は二つです。一つは、女王が(あれ)を非常に愛していたおり、どうしても死なせたくなかったこと。そしてもう一つは、(たと)迷信(めいしん)に過ぎないとしても、(まん)(いち)にも悪人(あくにん)の手に竜の血肉を渡さないようにするためです。」

「なんだかとんでもない事になっているのね…」

おばあちゃんはポツリと(つぶや)きました。小学生のリューイにはユストの話は少し(むずか)しくて、すぐに全部を理解することは出来ませんでした。

「この目の傷はそのときに()ったものです。」

ユストはそう言うと、リューイからは見えないように髪を()()げて見せました。

「この傷がお孫さんを(おどろ)かせないといいのですが。」

おばあちゃんは首を振りました。

「大変でしたのね。」

そして、(いた)わるようにユストの手を軽く(たた)きました。

「あなたの外見(がいけん)を悪く言うような人がいたら、それは人ではありませんよ。人の(かわ)(かぶ)った悪魔(あくま)です。」

「さっきはごめんね…」

リューイは小さな声で(あやま)りました。

「最初、見たときはちょっとびっくりしたけど…もうびっくりしないよ。ごめんなさい。」

ユストはリューイの頭をわしわしと()でました。

「リューイ君が悪いわけじゃないから、気にするな。」

先程(さきほど)の事には全く(こだわ)っていなそうな様子に、リューイはほっとしました。

片目(かため)がないのは不便(ふべん)ですが、私はそんなに気にしていません。いつか天国に帰ったら神様が全部、(もと)に戻してくれると信じていますから。」

ユストはおばあちゃんに微笑みかけました。

貴方(あなた)は神様からとても愛されていますのね。私にはわかりますよ。」

おばあちゃんはユストの強さがどこからくるのか、少しだけわかった気がしました。


しかし、リューイにはユストの傷よりも気になることがありました。

「ねえ、その悪党たちがここまで追い掛けて来ることはないの?大丈夫なの?」

リューイはユストがきっぱりと否定(ひてい)してくれることを期待しました。

「ありません、と言いたいところですが、残念ながら保証はできません。どこにいても100%安全ということはないのです。しかし、どうやらこちらはパラレルワールド*のようですし、すぐに悪党どもがやってくることはないでしょう。今は()だこちらへ来る手段を模索(もさく)している段階ではないでしょうか。」

「パラレルワールド???」

「リューイ君には少し(むずか)しかったかな。パラレルワールドというのは、ある世界と並行(へいこう)して存在(そんざい)する別の世界のことだよ。」

リューイの頭は混乱(こんらん)する一方(いっぽう)でした。





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