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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第一章 青の女王
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14. 赤ちゃん竜、ごはんを食べる

14. 赤ちゃんドラゴン、ごはんを食べるの巻き



おばあちゃんがクローゼットを開けると、ユストは安心したように溜息(ためいき)()きました。背嚢(はいのう)からすり(ばち)(にゅう)(ぼう)を取り出すと、()れた様子でイノンドをすり(つぶ)し始めます。ユストがイノンドをすり潰し始めてると、すぐに部屋中に(さわ)やかな(かお)りが広がりました。ユストたちの国では、イノンドはハーブとしても重宝(ちょうほう)されているそうです。(ためし)に少し(もら)って口に(ふく)んでみると、(にが)みは(ほとん)どなく、ほんのりとした(あま)みが感じられました。葉や(くき)と違って、(たね)はピリリと(から)いのだそうです。

イノンドの香りに刺激(しげき)されたのか、赤ちゃん(ドラゴン)はカゴ(かご)から顔を出すと、クンクンと匂いを()ぎ始めました。ユストが赤ちゃん竜の口元(くちもと)にスプーンを近づけると、少し匂いを()いから、素直(すなお)に口を開けました。

うっくん

赤ちゃん竜の喉元(のどもと)にある()(のう)が大きく動きました。

うっくん

また(いち)(さじ)

うっくん

一口、二口と食べているうちに何日間も絶食(ぜっしょく)していたことを思い出したのか、赤ちゃん(ドラゴン)は夢中でイノンドを食べ始めました。一口飲み込んでは(つばさ)をばたつかせて次を催促(さいそく)します。


余談(よだん)ですが、()(のう)というのは鳥類(ちょうるい)によく見られる器官(きかん)で、食道(しょくどう)の一部が袋状(ふくろじょう)になったものです。鳥類(ちょうるい)などはこの中に食物を一とき的に(たくわ)えておき、少しずつ胃に送ることができます。よく()(のう)()(のう)混同(こんどう)する人がいますが、()(のう)は食物を(たくわ)えるだけ器官ですので消化(しょうか)機能(きのう)はありません。一方、()(のう)は胃の一部なので消化機能があります。鳥は意図的(いとてき)に小石や砂粒(すなつぶ)を飲み込んで()(のう)の中に()めておきます。胃が動くとこの小石や砂粒と食物(しょくもつ)()れて細かく(くだ)かれます。

(ドラゴン)は鳥ではありませんが、見た目が似ているだけに、体の仕組(しく)みにも共通した部分があるようです。


必死になって食べる(さま)を見ているうちに、リューイには何とき(いつ)しか目の前にヘンテコな生き物が可愛らしく見えてきました。これが所謂(いわゆる)、ブサカワというヤツでしょうか。夢中になって見ているリューイがユストの腕をぐいぐい押すので、その度にイノンドがスプーンから(こぼ)れそうになります。

「おいおい、リューイくん、そんなに押すなよ。(こぼ)れるだろ。」

ユストは苦笑(くしょう)しました。リューイと触れ合っている腕から、健康(けんこう)清潔(せいけつ)な気が流れ込んできます。ときがゆったりと流れているように感じます。動物と子供に(かこ)まれて()ごす時間は、政争(せいそう)(つか)れた心を(いや)してくれるような気がしました。


やがて、赤ちゃん(ドラゴン)はお腹がいっぱいになったのか、リューイがスプーンを近づけても口を開けなくなりました。ユストは眠たそうにこくりこくりと(ふね)()(はじ)めた赤ちゃん竜の(くち)(はし)をタオルで(ぬぐ)ってやると、赤ちゃん竜を()()こして、あやすように背中をポンポンと(たた)いてあげました。何度かそうしていると、赤ちゃん竜がユストの胸の中で頭を二、三度振り、ゲプッと空気を吐き出しました。

どうやら(ドラゴン)も人間と同じようにゲップをするようです。リューイは(みょう)なところで感心しました。赤ちゃん竜のゲップは少しだけイノンドの匂いがしました。

ユスト(いわ)く、赤ちゃんは胃や食道は未発達(みはったつ)なので食べ物と一緒に飲み込んだ空気を上手(うま)()()すことができないそうです。だから、こうやって大人が胃の中に()まったガスを吐き出させてあげないと、食べた物をガスと一緒に(もど)してしまうそうです。

新米(しんまい)ママも()(さお)なユストのイクメン()りに、おばあちゃんは(いた)く感心しました。

「すごいわ、ユストさん!素晴(すば)らしいわ!なんて素晴(すば)らしいんでしょう!貴方(あなた)はきっと良いお父さんになりますよ!私が保証(ほしょう)します!」

大絶賛(だいぜっさん)(あらし)です。

「そうだといいのですが…」

(なお)()めちぎるおばあちゃんに、ユストは(ひか)()微笑(ほほえ)みました。

肉親(にくしん)(えん)(うす)いユストには自分が家庭を持つことなど想像(そうぞう)も付きませんでした。しかし、もしも結婚できるとしたら、相手は彼女しか考えられません。でもその女性(ひと)は…

――いけない、いけない。

ユストは(あわ)てて(かぶり)()りました。


しばらくすると、ユストの腕の中からすぴすぴという平和な寝息(ねいき)が聞こえてきました。どうやら眠ったようです。ユストがそっとカゴ(かご)に戻すと、赤ちゃん竜は(つばさ)の下に顔を入れて丸くなりました。心なしか顔付(かおつ)きも(おだ)やかになったように見えます。お腹も一杯になって安心したのかもしれません。

赤ちゃん(ドラゴン)をカゴ(かご)の中に(もど)したユストは、椅子の()(もた)れに(もた)れかかると、ほっと吐息(ためいき)()らしました。

おばあちゃんは赤ちゃん(ドラゴン)をクローゼットの中に戻し、そっと(とびら)を閉めました。







挿絵(By みてみん)




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