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竜の赤ちゃん、拾いました。第一章~第三章  作者: 小川せり
第一章 青の女王
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13. 謎の男の正体

13. (なぞ)の男の正体(しょうたい)



リューイと男の人がおばあちゃんの家に帰ってみると、二人の妖精たちはちゃっかりおばあちゃんお手製(てせい)クッキーをご馳走(ちそう)になっているところでした。

「キキ!リン!こんなところにいたのか!」

自分の家のように(くつろ)いでいる妖精たちを見て、男の人は(あき)れたように言いました。

「あら、よくここがわかったわね。」

妖精たちはちらっと男の人を見ましたが、すぐに興味(きょうみ)なさそうに視線(しせん)をクッキーに戻しました。どうやら、三人は()()いのようです。

「あら、大変!どなたか存知(ぞんじ)ませんが、ずぶ()れじゃありませんか。そんなところに立ってないで、さあ、さあ、早く中に入って!」

おばあちゃんは戸口(とぐち)に立っている男の人を見ると、(まよ)わず部屋の中に(まね)()れました。

「今、タオルを持ってきますから、そこに待っていてくださいね。」

男の人は、一瞬(いっしゅん)(まよ)ったようでしたが、リューイがテーブルまで手を引いて行くと、遠慮(えんりょ)しつつも椅子に腰を下ろしました。

「ねえ、小母(おば)さま。小母さまの焼いたクッキーって本当に美味(おい)しいですわね。食べ始めたら止まらなくなってしまいましたことよ。お()わりをいただいてもよろしいかしら?」

妖精たちは男の人には(かま)わず、澄ましておばあちゃんにクッキーのお()わりを要求しました。二人とも口調(くちょう)まで変わっています。おばあちゃんは妖精たちにクッキーを褒められると(そう)(ごう)(くず)しました。

「はい、はい、リンちゃん、キキちゃん、わかりましたよ。タオルと一緒にクッキーのお代わりも持ってきましょうね。」

男の人が(あき)れたようにいいました。

「おい、キキ、リン、ちょっと図々(ずうずう)し過ぎやしないか。」

男の人が二人を(たしな)めると、二人はそっぽを向きました。

余計(よけい)なお世話よ。」

「そうよ、私たちは小母(おば)さまと友達になったんだから。」

三人の会話を聞いたおばあちゃんは、ちょっと(おどろ)いたようでした。

「あら、三人はお知り合いなの?世の中、狭いわね。」

リューイも男の人が妖精たちの知り合いだと知って驚きました。

「キキちゃんとリンちゃんのお友達なら(なお)のこと歓迎(かんげい)しますわ。どうぞ、どうぞ、遠慮(えんりょ)せずに座ってくださいな。」

リューイが出掛(でか)けている間に妖精たちとおばあちゃんは随分(ずいぶん)、仲良しになったようでした。



期待(きたい)感謝(かんしゃ)()ちた目でおばあちゃんを見送ると、妖精たちはクッキー談義(だんぎ)に花を咲かせました。

「わたし、このレモンクッキーが気に入ったわ。」

「わたしはレーズンが入っているほうが好き。」

「チョコレートクリームを(はさ)んであるのも美味(おい)しいわね。」

「二人とも随分(ずいぶん)とご機嫌(きげん)じゃないか。」

男の人が揶揄(からか)うと、妖精たちはつんと()ましました。

「それはそうよ。わたしたち、ずっと誰かさんのまっずい手料理(てりょうり)しか食べさせてもらえなかったんだから。甘い物なんて何ヶ月ぶりかしら。」

「そうよ、そうよ。誰かさんの不味(まず)い手料理とは大違(おおちが)いだわ。私たちがあまりにも酷い物しか食べていないのを知って、小母(おば)さまは私たちのために何かご馳走(ちそう)を作ってくれるって約束してくれたわ。ホホホホ。」

二人は()(ほこ)ったように笑いました。食べ物の(うら)みとは、恐ろしいものです。二人の言葉に男の人はただ肩を(すく)めるばかりでした。

実際(じっさい)、妖精たちは非常に良い気分でした。その理由の一つは、妖精族(ようせいぞく)が甘い物に目がない種族(しゅぞく)であること。もう一つの理由は、二人がこれまで(かたく)なに人間を()けていたせいで、このような歓待(かんたい)が初めてだったことです。二人にはクッキーという美味(おい)しい食べ物があって、ニコニコと話しを聞いてくれる優しいおばあさんがいるこの家が、とても心地良(ここちよ)く感じられました。そんなわけで、妖精たちは心密(こころひそ)かにまたこの家を(たず)ねてこようと決めていました。

「それにしても、このクッキー本当に美味しいわね。これを女王さまに食べさせてあげたら、きっと元気になるのにね。」

「キキ!リン!」

男の人は、咳払(せきばら)いをすると、妖精たちにそれ以上しゃべらないようにと目配(めくば)せしました。

しかし、妖精たちは男の人の目配(めくば)せなど気にする様子もありませんでした。

「あら、何を(あせ)っているの?」

「もう遅いわよ。だって、私たち全部しゃべってしまったもの。」

「!」

男の人はリンの発言にかなりの衝撃(しょうげき)を受けたようでした。リューイは男の人の頭上(ずじょう)に、一瞬、「!」マークが見えたような気がしました。男の人は何事(なにごと)かを(つぶや)くと、両手で頭を押さえました。

妖精たちはおばあちゃんに何をどこまで話したのでしょうか。どうしたら、二人組(ふたりぐみ)のおしゃべりを()められるでしょうか。男の人が目紛(めまぐる)しく頭を働かせていると、リンと言われたほうの妖精が男の人にこう言いました。

「怒ってばかりいないで、少しはわたしたちに感謝してもらいたいわね。私たちがあの子がここに()るのを見つけたのよ!」

「!」

男の人は再び(おどろ)きました。それもその(はず)です。偶然(ぐうぜん)、助けた男の子の家に赤ちゃん(ドラゴン)がいるなんて、これが神様の(はか)らいでなくてなんでしょう。男の人は思わずその場に(ひざまず)いて感謝の(いの)りを(ささ)げそうになりました。


そうこうしているうちに、おばあちゃんがタオルとクッキーを持って(みんな)のところに戻ってきました。おばあちゃんは男の人にタオルを渡すと、クッキーが入った小皿を妖精たちの前に置きました。妖精たちが食べ(やす)いように、クッキーは細かく(くだ)かれていました。リューイと男の人の前には、(くだ)いていないクッキーが置かれました。

男の人は(れい)を言ってタオルを受け取ると、まだ()れている髪をわしわしと()き始めました。一瞬、隠れていた顔が(あら)わになり、(ひたい)から右目に走る大きな(きず)が見えました。右目は閉じており、完全に失明(しつめい)しているようです。

「あっ!」

その傷を見たリューイは、思わず声を()げてしまいました。すぐに口を(ふさ)ぎましたが、きっと聞こえてしまったに違いありません。

リューイがそっと男の人を(うかが)うと、男の人は気にする様子もなく髪を()き続けていました。顔半分は(すで)に髪で(おお)われており、傷は見えなくなっていました。おばあちゃんも見ていた(はず)ですが、おばあちゃんは何事(なにごと)もなかったような顔をしていました。


ややあって衝撃(しょうげき)から()(なお)ると、リューイはおばあちゃんにベニーが木の上から()りられなくなっていたこと、川に落ちて(おぼ)れそうになったこと、男の人がベニーを助けてくれたことなどを話して聞かせました。

ベニーはいつの間にかグルグル()きにされた上着から抜け出して、部屋の(すみ)で熱心に毛を(かわ)かしていました。

おばあちゃんが男の人にお礼を言うと、男の人は当然(とうぜん)の事をしたまでですと答えました。そして、自分はユストという名の旅の軍人(ぐんじん)であること、妖精たちと(ドラゴン)の子と一緒に旅を続けたきたことなどを話し始めました。

(もう)(おく)れましたが、私(私)は青の国の女王の側近(そっきん)で、ユストと申します。女王の(めい)を受けて、ある目的の(もと)(あれ)を連れてずっと旅して(まい)りました。(いま)(がた)、この(もの)たちに聞いたところによると、(あれ)はこちらでお世話(せわ)になっているとか。」

「ええっ!あの子のことも知ってるのっ!」

リューイは(おどろ)きました。

「ええ、ええ、おりますとも。こんな(ぐう)(ぜん)ってあるものなんですね。あの子のことまでご存知(ぞんじ)だなんて。」

おばあちゃんが(うれ)しそうに(うなず)くと、ユストと名乗(なの)った男の人は立ち上がって、(ドラゴン)の子を見せて欲しいと言いました。

「あの子はずっと何も食べてなかったのですよ。随分、弱っているところを、この二人に助けてもらったんです。」

おばあちゃんはクローゼットの(とびら)を開けながら、ユストにそう説明しました。



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