epi.~神神が集う場処~
「・・・・・・」
天宇受賣命は、今日も今日とてぼんやりと、思兼神と天手力男神を見ていた。
夫夫が夫夫、ばらばらと忙しそうに立ち動いている。勉強に筋トレにと。そう。要するに宇受賣は暇なのである。
(何よ何よ何よーーーっ!!少し前まで、二柱してあたしを取り合っていなかったかしら!!?)
その様な事実は無いが、要するに今が退屈だからその様に感じるだけである。
「何を締りの無い顔をしている」
手力男の筋トレ風景を眺めていると、背後から硬く冷やかな声が落ちてくる。
「・・・あら、アチヒコ」
「・・・・・・その諱で呼ぶのは止せ」
キツネの様な面が眉根を寄せて益益愛想の無い貌になる。天智彦は少し前に、父・高御産巣日神の隠居に伴い完全に高木を継ぎ、新しい役職名を貰っていた。其こそが思兼神である。
声変りも済み、子ギツネが鋭利な青年ギツネだ。子ギツネだった面が懐かしい。
「あたしがシツヒコを見ている事に、嫉妬?」
「自意識過剰も程程にするのだな。そんな事より、手力男についてもその諱で呼ぶのは止め給え。全く、そういった処が君の―――・・・」
くどくどと思兼の嫌味兼お説教が始った。
宇受賣は初め、ヤキモチからくるものだと余裕をかまして聞いていたが、段段と苛苛してきて、最終的には
「あーーーもううーーーうるさいわね!!嘘でもいいから少しはかわいい事を云ってみなさいよ!!」
「はぁ・・・っ!?」
思兼、本の少し頬が紅くなる。完全なる痴話喧嘩へ移行した。
「・・・・・・何遣ってんだあいつら・・・・・・」
外野でガヤガヤ遣っている二柱に手力男が気づいて呆れる。チンチン楽器の鳴る音が次第に近づいて来る。
「やあ手力男。調子は如何だい?」
天児屋命と布刀玉命が彼等の許に遣って来た。
その背後では
「えぇーーい喧しい!!」
と、之迄聞いている声の中で一番喧しい声が聞えている。玉祖命の声だ。
「たぁまちゃーん。あぁたが一番喧しいよー」
伊斯許理度売命も緩やかにツッコミ乍ら遣って来る。
その気も無いのに神神はいつの間にやら一つの場処へと集結していた。
天照大御神が天岩屋戸へ篭り、『護法魔王尊』サナト=クラマが地球へ降り立つのは、未だ先のお話。




