皇帝としてやるからには徹底的に 後編
2ヶ月空いた……こんなはずじゃなかったのに
それから、結局晩飯を過ぎても動く気配はなかった。
そのため俺は一度寝た。
何せこの調子で明日までずっとこんな調子なら休めそうなときに休むべきだろうと、考えた。
明日までに話し合いだけさせてくれればあとは俺の方でなんとかするから、できれば明日までに終わっていてほしいものだ。
そんな考えを思い浮かべながらその日は眠りについた。
ちなみに、ベルサレクは一人見ておくと。
何でも一人にさせたときに何かしやがったら対応できんからな、とのこと。
他の皆さんは来客用のベットで休憩中である。
翌朝。
「……何がどうしたんだ」
起きると、外で真っ黒になったグラマスの姿。
そしてなぜか疲れはてているベルサレク、その横に綺麗な状態の車。
「いや、それが」
状況はベルサレクが息を切らしながら話してくれた。
なんか、バッテリーとかそういうところを調べ始めたグラマス。
まぁ、そこまではよかったんだが、気になった部分を解体して組み立て直して、なるほどとか言いながらやってたそうな。
そして排気口とかそこに顔を突っ込んだとき、こうなったと。
もちろんあまり使ってないし、汚れも少ないはずだった。
だが、顔を擦り付けたりなんなりでこうなったと。
で、それに気づかず汚れを広げていき、車もグラマスも真っ黒になった。で、それに気づいたときには車体が汚れていて、ベルサレクは汚れを落としにかかったのだが、綺麗にした側からまた汚していくもんだから終わりがなく、グラマスを止めようにも力強すぎて止められず、仕方なく洗い続けていったと。
グラマスを綺麗にすれば?と、思ったが高速で動きすぎてできなかったと。
範囲を広くしたら思わぬことになりそうで怖いからやらなかったそうだ。
で、最終的にそうしている内に自然とグラマスの汚れは取れて(染み付いたもの以外)汚れることは止まり、そこで朝を迎えたと。
「……いや最初どんだけ真っ黒だったんだよ」
その汚れが取れた状態でこの黒さ。
マジで最初は犯人の人みたいになってたんじゃねぇか?
「…いや、それよりも体洗って着替えてこぉーい!」
朝っぱらから騒がしくなってしまった。
が、あれで話し合いはしたくないので許してほしい。
ちなみに、その声で起きてきたユウナギさんにお風呂は任せ、同じく丁度起きてきたシイナに服を任せた。
そして、俺は車をしまい、ベルサレクと茶を飲んで、大きくため息をついた。
「あぁ~、お風呂というのもいいのだね」
「今まで入ってなかったみたいな言い方だな?一度くらいはあるんじゃねぇか?」
いくら珍しいものでも、グラマスだ。入る機会はありそうなもんだがな。
「興味なかった」
「そんなことだろうと思った」
ある意味予想を裏切らなかったよ。
さて、そんな話は置いといて、話を進めなきゃな。
「国営化とか、だったよね」
「あぁ。俺としては、これから皇帝としての組織を作るためにはそう言った人材が欲しいのさ。だからそのためには国営化にするか、それに似た組織にして欲しいなと」
「なるほどね」
グラマスは少し悩む素振りを見せてすぐに目を合わせてきた。
「昨日も言ったとおりそれは構わないよ。そう言う話もいつか来るだろうからそのときは好きにしてくれと、先代からも言われてる。それにそのシステムにしてくれればうるさいバカどもも黙らせることもできそうだし」
ん?うるさいバカ?
「あ、気になってる顔してるね~。うるさいバカってのは」
「大方グレーなことに手をつけているギルマスたちだろ?」
「そそ。あいつら、何の力もない僕の地位まで狙ってきて意味がわからないよ」
まぁ、そう言うのが人間なんだよな。うん。
「ま、それは君が何とかしてくれるんだろう?」
「やるからには徹底的にやるさ」
「なら、任せるよ。その後なら国営化も構わないよ」
「ついでに空いた席に信頼できるやつを突っ込んでも?」
「いいよ。その手間が省けて嬉しいしね」
トントン拍子で進むな。というかこいつ、結構優秀なタイプか?
「さらっと、無償で仕事をさせるところとかな」
「仕事?」
……偶然なのか?
わからん。だから考えない。
「さて、了承をもらったからには、行ってくる」
「早いな。もう行くのか?」
「最近、やることはあってもどこか遠出するってのはなかったから少しワクワクしてんだよ」
ニッと口角を上げた俺の顔を見て、みな仕方のない子供でも見るような目で俺を見るのだった。
・・・
「というわけで、来たわけだが」
俺はあのあとその足で件のギルマスがいる街を訪れた。
場所は帝国に近いロッド王国だ。
初めてロッド王国に入ったときの馬車から見た街や村である。
「やっぱり、孤児が多いな」
あのときも思ったが、やはり多い。
だが、王様は悪い人ではなかった。
だから問題があるとすれば、ここら一帯を治める領主かギルマスのどちらかだろう。
「まぁ、それも含めて叩き潰しにきたんだよ」
お忍びとかではないのでイズナにはならない。むしろ堂々と見せていかないとな。
「聞き込みから…いや、これならまずはギルドに行ってみるか」
それで色々と把握して、力でもいいし、地位でもいいから片付けよう。
あっ、ちなみに王様たちより許可はもらっている。
ので思う存分やろうと思う。
「ここか?」
それらしきところにはついた。
なぜそれらしきなのかというと、素直にボロい。
何かに襲われたようにボロい。
「看板もないし、人もいない」
なんか怪しいな。
一応見るものを使って中を見とくか……いるけど、三人か。
私腹を肥やしているようには、ちょっとなぁ……。
人がいないということはそれだけ金の巡りも悪いということ。
たとえ大規模遠征に行っててもギルド内に三人しかいないのはおかしい。
「…入りゃわかるか」
そして結局、最後はなんとかなるやろで扉を蹴飛ばして入った。
中に入ると、閑散としていて、机やカウンターのほぼ全てが壊れていた。
掃除がされていないのか埃は漂い、まるで捨てられた場所のような雰囲気だった。
「誰かいるか~?」
俺の呼び声に答える声はない。
だが、気配は動き、あからさまな警戒を俺に向けてきた。
「……」
俺は無言で剣の鞘を左手で握った。
「こんにちは!冒険者の方ですか?」
奥から出てきたのは少しつり目の女性。厚化粧で服のセンスが古くさいって言うのを付け足す。
「あぁ。あんたは?」
「私はここのギルドマスターです!」
……こいつか。
確かにこの環境に対してこいつの顔色は良く、身に付けているものも裕福そうだ。
だから、違和感なんだ。
「それなら聞きたいんだが、何でこんなにもボロ家みたいになっているんだ?」
「そ、それは……皆さん高額の依頼がきて遠出していきまして……」
何か隠しているな。
「……そうか。なら、丁度いい。人払いの手間がなくなったぜ」
「へっ?」
「俺はお前をギルマスから解任しにきたんだ」
だから、それを炙り出すために俺は本題を投げつけることにした。
「なっ!?」
「何を驚いているんだ。お前は自分の私利私欲のために冒険者たちをこき使ってきたんだろ?それに不正にも手を出しているそうじゃないか」
「そ、そんなこと!」
「してないとは言わせん。調べはついている。証拠もある。そして権利もある。よって今この場で貴様はクビだ」
そして追い詰めるためにわざと、反論の暇を与えず、話も聞かず一方的に追い詰めた。
そうすればこのタイプの輩はすぐに激昂する。
「あ、あんた、誰の許可を得て!」
「グラマスと国王だよ」
「なぁっ!?……ヒロキ!お願い助けて!」
「ヒロキ?」
そいつがこいつの隠し事か。
ギルマスが名前を呼んだしばらくあと、気配の一つが動いた。
そしてこちらへと歩いてくる。
「な~んだ~うるせぇ」
「……てめぇ」
そして俺はそいつの姿を見た瞬間にこの閑散とした状況を理解した。
それと同時に怒りが込み上げた。
「誰だおメェ」
そいつは、ヒロキと呼ばれたそいつは二メートル超の巨漢で、全身に大量の血を浴びたような赤の服、そして腰に色とりどりなギルドカードが、ぶら下げられていた。
「ここにいたはずの冒険者たちは、どうした」
答えはなんとなくわかっていた。だが、聞かないわけにはいかなかった。
「アァ~?殺して~喰った」
「そうか」
案の定のような答えが返ってきた。
何の罪悪感を抱かず、至極当然のようにこいつは殺しを認めた。
俺も、人を殺めることはある。
だが、それ相応に罪の意識を持つし、無差別に殺したりなんかはしない。
人じゃなくゴミ以下に成り果てたものは容赦も慈悲も罪もなく殺すがな。
「なら、ヒロキとやら。てめぇは俺がここで、殺す」
「お前、上手そうだな……食べる」
こいつは食人鬼ってところか。
その巨漢の腹には何が詰まってるか、考えたくもない。
「やっておしまい!」
その台詞言うならちゃんと相手の名前にさん付けしてやろうね。
それなら少しは恩情をやってもよかった。とはいえ誤差だがな。ネタで罪を変に軽くするのはないな。
というかさっきまで殺気だっていたのが何でこんなにも変なことを考えているのかと言うと……
「わりぃ、やるやられる以前に、もう終わってんだわ」
「はぁ?」
首を傾げた途端、ヒロキの胴体から血飛沫が上がった。
「ひ、ひぃぃ!?」
遅すぎる。
某ホムンクルスみたいのを想像していたのでサクッと斬らせてもらった。
「イテエェ……」
だが、今ので殺しはしないように少し加減をした。
すぐに殺すなんてことはあり得ない。
「罪には罰を、だ」
人を苦しめた、痛め付けたくせして、自分だけ一瞬で死ねると思うなよ?
「イィィィテェェェッ!」
「さて、こいつはこれでいいとして、あとは貴様を詰め所まで連行だな……ん?」
そこで何か異変を感じる。
ギルマスの女が狂ったように笑い始めた。
「終わった。終わった………終わりよぉ」
「なんだ?」
こいつ、何だか俺に捕まるより、何か別のものに対して……
「……血か?いや違う、これは…」
「私もあんたもここで死ぬのよぉ!」
それを最後に、女はその身体を消滅させた。
「うメェ、イタクない」
「……甘かったか」
こいつの力量を、能力を。
「喰いやがった……」
どうやってかはわからん。
斬ったときに溢れだした血飛沫とは別に何かが地面に垂れていた。
それがあの女を喰らったのだろう。というかそれ以外には今のところ考えられない。
「傷も治ってやがる。いったい、こいつは何なんだ。ただの食人鬼って訳じゃなさそうだ」
「お前、ウマソウだなぁぁ」
「……だが、まだその程度じゃ俺を一歩でも動かすことはできない」
剣を抜き、横凪の構えを取り、その刀身に炎を纏わせた。
「炎刃:爆炎」
その剣でヒロキが避けることのできない速度の一閃が放たれた。
俺が剣を振るい、最初の横凪の構えと全く同じ位置。
常人には動いたことすらわからなかっただろう一閃がヒロキを斬った。
「今度を加減はしねぇからな」
ボボボボという炎が破裂する音が鳴り響き、血の一滴も残らず蒸発した、焼死体が完成した。
「もう二度と腹の空かねぇ身体にはなったな」
俺はその場をあとからきた衛兵(根回し済み)に任せその場を離れた。
さてと、次だ次。
一つ目から面倒なことになったが、まぁ、なんとかなるかな。
「だが、ヒロキってやつの能力、あの血に紛れていた何かの液体。あれ、どっかで見たことあるような……」
喉元まできているんだがなぁ…。
まぁ、今は大人しく、次のところに行くか。
「次は…近いな」
次はここらを納める領主だ。
王様に聞いてみたところ、これまで、財政は少し苦しい、そのため支給されるお金(運営費と、それとは別にその領地の防衛などに活用される資金)を増やして欲しいと要請がきていたそうだ。
ちなみにその防衛などに使われるお金に関してはロッド王国の防衛力の高さに繋がっている。防衛能力などの費用を国が受け持つことでいざ攻められたときにそこの領主が食い止めることができる。それもある一定の水準を保った。いわゆる軍事支援金ってところだ。
そのためこの費用はロッド王国の全ての領地持ちの貴族に入っている。
だが、まぁ明らかに別の用途で使っているだろうな。
余った金は領地のために使ってね、みたいな気持ちが入っているそうだが、それを大抵は懐に納めるのだが、それは構わないらしい。
今回はその域を越えているがな。
税も、国からの運営費も含めて着服しているのだから申し開きはできない。
「よって今から断罪だ」
まぁ、ばれなきゃ犯罪じゃない程度のものだったが、本題はこれじゃなく、この街を今のような状況にしたことに対してだがな。
「さってと、見るもの」
屋敷の前に立ち、中を見る。
そして狙いを定めて、剣を振るった。
「ふんっ」
太陽の光を刀身が反射した光がスッと屋敷を通った。
すると、そんな光と同じようにスッと屋敷が半分に割れた。
「うわぁ~、悪趣味だなぁ」
切断した方法だが、特にない。
ただ普通に振って斬っただけ。
風刃を纏わせることもできたが、それはちょっとやりすぎてしまうので自粛した。
「さて、乗り込むか」
切断して、中が少し見えるのだが、ちょっと用途不明の金だけかかった系のものが多く見えた。
ついでに、まぁ、なんだ、人が三人四人くらい乗って暴れても大丈夫なくらい大きなベットと……そのなんだろうか、そういう器具も大量にある部屋も見えてしまった。
で、そんな部屋の上にその貴族の部屋があった。
見る限りは腰を抜かして近くの奴らに何かを怒鳴り散らしてる。
「おい、衛兵ども!さっさと原因を突き止めて原因を潰してこい!」
「まぁ、うるせいこった」
まだそこそこ距離があるんだよなぁ。
それではっきり聞こえるってうるせぇなぁ。
うるさい声はさっさと処理するか。
「うるせぇなぁ。ほら、原因様が来てやったぞ」
「はっ?お、お前は!」
ん?なんだ俺の顔知ってんのかな?
「罪状やら何やら読み上げるのは面倒だが、てめぇには多くの罪がかけられている。よって貴様の貴族資格を剥奪し、牢屋にぶちこんでやる」
「き、貴様!いきなり狼藉を働いておいてなんだその言い種は!そのうえ私を牢屋にだと?何の権利があってそんなことぉ!」
うるせぇ。
黙らせとくべきだったか。
「何の権利かって言われたら、普通に王様にだよ」
「お、王?そんな馬鹿な……」
「それに、自分のやってきたことに心当たりがあるんじゃねぇの?」
「ぐっ」
「じゃあ、ほい、一緒に牢屋に行こうな」
頭を鷲掴みにして、引きずるようにその貴族を外まで引っ張り出した。
その間、助けろぉとか言って衛兵たちが反応して助けようと動こうとしたが、俺はそいつらにちょっとした圧をかけた。
邪魔するなよ?っというか、動くなよっていうか…。
まぁ、そんな感じの圧をかけた。
その場には当然のようにその圧で動けるものはおらず、俺はその貴族、いや元貴族を衛兵に引き渡した。
最後まで必死に抵抗なんかしていたが、春花にほこり一つつけることもできずに引き渡されたのだった。
「次は教会だな」
正直、ここは面倒ではある。
何せここにはなんかわからんが反抗勢力(笑)がいるらしいから、抵抗されるのは間違いない。
「なんか、聖国で潰した勢力の生き残りがいるみたいなんだよなぁ」
あのとき、俺が潰した勢力。
デシキの実家の連中やら何やらが筆頭になって聖国での地位を取り戻そうとしているらしい。
デシキたちから後日談で聞いた話だと、デシキ実家、ゴーマン家の連中は全員捕まえたらしいんだが、護送中に逃走したらしい。
デシキたちはそれを聞いたが、それは国が何とかしてくれるとのことで、冒険家業に専念していたらしいが、それが今こうして合間見えることになるとは思ってもなかった。
「罪状は詐欺と拉致監禁、そして違法奴隷業ね」
やってることがクズすぎる。
「さて、そんなのが野放しにされてたのか」
さっきの領主も一枚噛んでるっていうからな。
それにしても、ここら一帯が不正というか犯罪の巣窟みたいになってやがる。
「まぁ、やることは変わらない」
俺が皇帝になるからには、こんな連中を許したりはしない。徹底的に潰す。
少なくとも、手の届く範囲なら、罪のない人を、虐げられる人を助けることはできる。
「俺は、正義のヒーローじゃないが……誰かを助けられるだけの力と地位はある」
春花は、剣の柄を軽く触れながらそう呟いたのだった。
「まぁ、一番の理由はそんな奴らがいい思いをできるってことが気に入らないんだよ」
誰もいないのに、取り繕うように付け足したその言葉は、他でもない自分へのごまかしのように聞こえた。
なんだか、色々と進んできたって感じがする一話(ほぼ最後の方)でした(書いてて思った)。
見てくれてありがとうございました。




