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第七章 小言と決意(3)

 お叱りの儀式が一段落し、ついでに食事も終えた円は隆二を探して、一海の屋敷を歩いた。食事に誘ったが、食べる必要はないと断られてしまったのだ。

「あら、ここにいた」

 縁側に腰をかけ、ぼーっと庭を眺めているところだった。

「真緒ちゃん、寝ちゃったの?」

 隆二の膝に頭を乗せ、目を閉じている真緒の顔を覗き込む。

「ああ、自由人だろ?」

 呆れたように隆二が言う。だが、手はうらはらに優しく、その髪を撫でていた。

「神山さんが心配だって、昨日あんまり寝てなかったって、沙耶言ってたからね」

「そうか。……悪いことしたな」

 申し訳なさそうな顔をする。そんな顔も、できるとは。

 円はその隣に腰を下ろす。

「そういえば、考えてたんだが」

「何を?」

「死にたいって思ったことあるのか、っていう話」

 意外な返答に、少し目を見開く。色々あったのに、まだ考えていたのか。

「死にたいというか、消えたいと思ったことはある。不死の身の上を呪ったことは数え切れない。人間に、戻りたいと思ったことも。だけど」

 優しく微笑み、真緒の頬を撫でる。

「この体になってから手に入れたものも多いんだ。だから、全部まとめて否定したくはない」

 だから、と彼は続けた。

「少なくとも今は、死にたいと思ってないし、不死を呪いたいわけじゃない」

 この人はたまに、変なところで真面目だ。失礼なことを聞いたのだから、真剣に考えてくれなくてもよかったのに。

「いやねぇ、知ってるわよ、今そんなこと考えてないことぐらい。早く家に帰りたい仲間じゃないの」

 おどけてそう言うと、そうだったと隆二も笑った。

「無事に帰って百点満点、だな」

「そうよ。あなたの過去は知らないけど、今は帰る場所があるのを、私は知ってる」

 隆二はどこか照れたような顔をして、帰る場所である少女の顔に視線を移した。

 それから、

「ああ、そうだ。さっきの黒幕のことなんだが、まだ真緒には言わないでもらえるか? タイミングを見て、俺から言う」

「言うつもりはあるのね?」

「ああ」

「なら、わかった」

 隠すつもりがないのならば、時期を選ぶ権利ぐらい彼にあるはずだ。

「あれは、あなたのお知り合いってことよね? あなたを作った、研究所?」

「ああ。そこにいる一条の人間は、また別角度でいろいろあって」

 隆二の視線が、真緒の右腕に一瞬移る。それでなんとなく、察した。

「いろいろあるってことね。了解。なんかもし、知ってた方が良さそうなことがあったら、差し支えない範囲で教えて」

 庭のハナミズキに視線を移しながら、答える。今は花は咲いていない。

「意外だな。全部説明しなさい、とか言われるかと思った」

「必要性があることなら、神山さんはちゃんと教えてくれるでしょ? そうじゃないなら、無理してまで聞く気はないし、聞きたくもない」

 ははっと楽しそうな笑い声がして、視線を隣に向ける。なんだかやたらと嬉しそうに、隆二が口元を片手で押さえていた。

「え、何、その反応」

「いや、あんたも大概ひとでなしだな。聞きたくもないっていうのは、余計なことだと思うぞ。なあ、」

 そこで隆二は、にやりと笑う。

「円さん?」

 揶揄するように名前を呼ばれて、不覚にも一瞬どきりとした。

「……急に名前呼ぶの、やめてくれない? ってか、さん付けなんだ?」

「依頼主だから」

「ああ、そう」

 今、名前を呼んだのは、狙ってやったのだろう。ひとの心の機微に疎そうな顔をして、嫌な男。

 でも、相手がひとでなしであっても、自分のパートナーであることには、かわらない。

「よろしくね、相棒」

 顔を覗き込むと、微笑む。

「相棒?」

「大体、そんなもんでしょう? 世界を守って、元の場所に帰る。その点だけでは、誰よりも信頼できる相棒。今回の壺の一件では、お互いに因縁もあるしね」

 円には子供のことか、隆二には一条のことが。

「なるほど」

 意外そうな顔をして円の発言を聞いていた隆二だったが、すべてを聞き終わると深く頷いた。

「このことで、円さん以上に信頼できる相棒はいないな」

「でしょ?」

 円は右手を握りこぶしにして、隆二の方に差し出した。

 それに隆二が、同じように拳をこつんと合わせてくる。

「よろしく」

「こちらこそ」


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